マルタ・サギーは探偵ですか? 3〜7(完)/野梨原花南



マルタ・サギーは探偵ですか?7 マイラブ (富士見ファンタジア文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

前巻の感想はこちらから

評価:★★★★★
3巻2006年8月刊。4巻2006年12月刊。5巻2007年7月刊。6巻2008年2月刊。7巻2008年8月刊。

富士見ミステリー文庫版『マルタ・サギーは探偵ですか?』、全て読了しました。
最高でした。最ッッッッッ高だった・・・!

鷺井丸太という日本の少年が異世界でマルタ・サギーとなり、『名探偵』となって助手と共に怪盗に立ち向かい、そして一つの街を救うまでの物語。

全ての謎や問題が綺麗に解決される話ではありません。
それでも、運命とカードに振り回された「マルタ・サギーの物語」として、文句のつけようもなく素晴らしい内容でした。

特に4巻以降は、マルタの内面に深く静かに潜り込むような心情描写が秀逸でした。
マルタが積み重ねてきたもの、選んできたもの。そこから生まれる心の機微に軽やかに触れていく。その触れ方の優しさよ・・・・・・

あれだけの感情をストレスなく読者に受け止めさせるのって凄くないか。
ありったけの言葉を尽くさずとも、シンプルな言葉の裏にたくさんの想いが詰まっているのが伝わるんです。
だから読み口は軽いのに読み応えがある。こういう文章とても好きです。

いやぁ、本当に面白かった。この満足感と喪失感。紛うことなき名作の読後感です。
何度でも言いましょう。最高でした!

☆あらすじ☆
いつでも、愛を返して欲しかった。だから、誰かを嫌いになったりしないようにしてた。でも、もう僕はこどもじゃないから知ってる。自分にとって大事な人は、選べる。自分を軽んじない、無視しない、蔑ろにしない、尊敬できる人―好きなひと。そのひとと一緒に、僕は僕を幸せにしていいんだ。そのために、マルタ・サギーは走っていた。暗い山道を、ぼろぼろになりながら。大好きな家族のリッツを助けるために。親しくなった隣人がいるオスタスを、死の都市にしないために。そして…最愛のバーチを守るために。暗躍していたデアスミスが、ついに動き出す。リッツをさらい、『賢者の石』を手にするために、オスタスでの大量虐殺を計画するのだが!?名探偵マルタ・サギー、最大の事件簿は彼の“愛”をかけた物語―。

4巻以降の展開は絶対にネタバレを踏まずに読んだほうがいいです。
そして以下の感想はネタバレを大量に含みます。ご注意ください。

 

 

いきなりネタバレなんですけど、4巻ラスト本当にびっくりした!!!!
ていうか、4巻ラストよりも5巻序盤に心の底からびっくりした!!!!!!!

 

あらかじめ「4巻を読んだら戻れなくなるよ」と助言があったので、ははーん何か衝撃展開があるんだな?リッツかバーチが消息不明にでもなるのか??とか少し予想はしていたんですよ。

 

とは言え。
まさかバーチが眉間を撃ち抜かれる展開になるとは思わんやん??確実に死んでるじゃないですかそれ。
待って待って最終巻の表紙だけちらっと見て「よしラストは結婚するんだな」と思ってた私の安心感を返して?

 

でも確かに最終巻表紙では結婚してるし(邪道で雑な推測)(しかも微妙に間違ってた)、好敵手兼ヒロインがこんな形で退場するのもありえない。たぶん。
じゃあどうやって問題を解決するんだろうとドキドキしながら開いた5巻で、私を待っていたのは更なる衝撃展開でした。

 

5巻の「登場人物紹介がわりの心象風景」と、本編最初の一文を読んだ私の気持ちをどう説明しようか。
ていうか最終巻表紙という心の拠り所すらなかったリアタイ読者の諸氏はどういう気持ちで読んだのコレ??

 

冒頭の一文に頭を殴られて読み始めた5巻なんですが、もうね、終盤はボロボロに泣いてしまった。

鷺井丸太の生まれ故郷であり、彼の居場所ではなかった街・蓑崎。
しかし、再び始まった蓑崎での暮らしは、オスタスを求める丸太に蓑崎での居場所を作っていくのです。

なんて皮肉だろう。
オスタスを求め続けるマルタの焦燥を描く一方で、「蓑崎の鷺井丸太」として積み重ねた月日が透けて見えるんですよ。
5巻で描かれる日常が、それを痛いほど、切ないほどに分からせてくる。

大人になったマルタは、大人としての人付き合いができるし、そういう彼にとって蓑崎は新たな居場所となっている。
マルタを気にかけてくれる優しい人は、蓑崎にも存在している。

たとえ二度とオスタスに戻れなくても、心に傷を抱えながらでも、このまま丸太は蓑崎でも生きていけるんだろうな。そんなことを思わせるのです。
それは、1巻冒頭で焼却炉に教科書を投げ込んでいた丸太の状況とは、あまりにも大きな違いでした。

 

だから、だからこそ、5巻ラストの、丸太の「選択」としての別れが胸を締め付けるのでしょう。

 

どちらも大切で、一方しか選べない。
マルタは最初からオスタスを選んでいたけれど、その本当の意味をわかっていなかった。
そういうマルタの愚かしさと一途さを、私は愛しいと感じました。
自分の足りていない部分をマルタは必死に受け止めるから。そうして彼は前へ進んでいくのだから。不器用だなぁ。危なかったしいなぁ。そしてとても格好良い。

 

そうして戻ってきたマルタを描く6巻7巻。
ここからは「マルタ・サギーが大人になったこと」による変化が描かれていくわけですが、これがまたすごく切なくて楽しくて良かった。

振り返ってシリーズ初期を思えば、1巻の感想で私が「ここ好きだった〜」とのんきに引用したトーリアス警部のセリフがまた沁みますね。

「名探偵。我々、警察官は、毎日そんな事件に対しているのだということを忘れるな。だから、お前はいい。我々が、するから。・・・・・・大人の男になって、その痛みが堪えられる様になったら、共に戦え。・・・・・・今は、我々が、年若い君の代わりに犯罪と向き合おう。そして大人になってもその胸の痛みを、どうか忘れないでくれ。辛いとは思うが、・・・・・・みんな、そうしている」

大人になって、マルタは責任を負えるようになった。
大人になる過程でマルタは多くの痛みを負って、帰ってきてからも多くの痛みと向き合い、マルタの持つ雰囲気に切ない影を帯びさせる。
虐待で心の一部が麻痺していた少年マルタが持っていた影とは違う。
これね、ぶっちゃけた表現をするなら「色気」だと思います。すごく色っぽいの、青年マルタ。哀愁による存在感の陰影に心を奪われるんです。

マルタ以外の人が変わっていないから、余計にマルタの変化が引き立つんですよねぇ。リッツの焦燥とかバーチの動揺とか良い味つけだった。
しみじみ上手い展開と構成だと思いました。

 

大人になったマルタは、バーチへの恋も「愛」へと変化させていました。
オスタスとバーチを取り戻すために払った代償のせいで、マルタの愛は自己犠牲的なものになっていたのが不安で仕方なかったけれど、その献身的な想いはとても美しかった。

 

そして、その愛が報われる終盤の展開は最高すぎた・・・!

 

作中屈指の自己中人間たちに背中を押されるマルタの構図が面白すぎて笑っちゃった。でもナイスアシスト!
自己犠牲的な愛に浸っていたマルタが、「一緒に生きて、一緒に地獄に堕ちてくれないか!?」と叫んだシーンでぶわっと鳥肌が。
最高すぎる。最高に好きなタイプの告白だ。これを他でもないマルタが叫んでるところが最高にエモい。
常に一線を引くようなスタンスのマルタが、自分の人生に愛する人を引きずり込むんですよ・・・・・・最高・・・・・・

 

マルタが両親への感情に区切りをつけるくだりも好きなんだけど(「いつでも、愛を返して欲しかった。」からの独白が痺れるほど良かった)、ラストが最高すぎてラストが最高だという感情しか上手く出てきません。困った。
でも両親へ抱く感情の変化を通して少年期からの脱却を描くところも本当に素晴らしかったんですよね。

 

『マルタ・サギーは探偵ですか?』というタイトルを回収するラスト一文に至るまで最高の物語でした。
『名探偵』のカード使いだった彼は、これからは一人の大人として、探偵として、愛する人たちと共に生きていくのでしょう。
選ばなかった想いと消えてしまった過去を自分の中だけに残したまま、これからもオスタスで暮らすのでしょう。
そんな余韻に浸れる、素晴らしいエンディングでした。

 

カード戦争の問題とかS氏とかシシャとか、色々と謎のままな部分もあるんだけど、なんだろう、まぁいっかと思った。
これはマルタ・サギーの物語なので、彼の物語にふさわしいスケール感で終わったのが丁度よかったんですよね。まぁでも今後のアウレカの冒険は割と気になるかも。彼はこれからどこへ行くんだろう。

 

さて、これで富士見ミステリー文庫版を全て読了したわけですが、本作は富士見L文庫からリブートしてるんですよね。
噂によると加筆修正+追加エピソードがあるらしい。
そして紙が3巻までで、4巻が電子限定で、5巻以降が私家版(同人誌)という形らしい。
とりあえずメロブで私家版だけ先にポチりました。こういうのは無くならないうちに確保しておくのが大事!

でもしばらくは富士ミス版のマルタたちを抱きしめていようと思います。
L文庫版を読むまで少し時間を置く予定ですが、必ず読みます。絶対に読みます。

 

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「マルタ・サギーは探偵ですか? 3〜7(完)/野梨原花南」への2件のフィードバック

  1. 5巻の1行目で殴られたという読者さんを発売から長らくたって知ることができて嬉しかったです。リアタイ組は大変でした。

    1. しいなさん、コメントありがとうございます(すみません、返信遅くなりました!)

      リアタイ組の悲鳴が聞こえてくるようです・・・笑
      4巻ラストの展開からあの5巻の最初の一文に持っていくのは、構成としてずるいし上手すぎますよね。。。

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