オイレンシュピーゲル(全4巻)、スプライトシュピーゲル(全4巻)/冲方丁



【合本版】オイレンシュピーゲル 全4巻 (角川スニーカー文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★★
オイレンシュピーゲル:2007年2月刊 〜 2008年5月刊。
スプライトシュピーゲル:2007年2月刊 〜 2008年4月刊。

めちゃくちゃ面白かった!
架空の国際都市を舞台に、治安維持組織に所属する少女たちの戦いを描くSFクライム・アクション。
体に障害を持つ子どもに機械の手足をつけてテロリストとの戦いに放り込むという、かなりドギツイ物語ですが、そこで描かれるドラマとアクションは濃厚の一言。
救いがたく反吐が出るような世界だけど、そこで必死に進み続ける少女の慟哭が胸を打つ。
また、現実世界と切り離せない設定・描写が多々あり、そのリアリティが物語への没入感を高めるかのよう。
あとラブコメが予想外に楽しすぎた・・・!笑

色々書きたいことは後ろに回すとして、近未来警察モノとして最高に面白いエンタメ小説でした。

ちなみに『オイレンシュピーゲル』(角川スニーカー文庫)と『スプライトシュピーゲル』(富士見ファンタジア文庫)はワンセットです。
もしもこれから読む方は1巻ずつ交互に読んでくださいね(2巻と4巻で交錯があります)

シリーズ完結作の『テスタメントシュピーゲル』も近日中に読む予定です。

☆あらすじ(オイレンシュピーゲル1巻)☆
「なんか世界とか救いてぇ――」。あらゆるテロや犯罪が多発し『ロケットの街』とまで渾名される国際都市ミリオポリスに、「黒犬」「紅犬」「白犬」と呼ばれる3人の少女がいた。彼女たちはこの街の治安を守るケルベルス遊撃小隊。飼い主たる警察組織MPBからの無線通信「全頭出撃!」を合図に、最強武器を呼び込み機械の手足を自由自在に操り、獲物たる凶悪犯罪者に襲いかかる!
『天地明察』で2010年本屋大賞第1位を獲得した冲方丁の、衝撃的ライトノベル第1弾!

以下、ネタバレありの感想です。

 

遊撃小隊と要撃小隊の異なる魅力が最高:シリーズ雑感

時は西暦2016年(刊行当時は近未来だったはずが、過去になってしまったな・・・)
かつてウィーンと呼ばれたオーストリアの首都・ミリオポリスでは、超少子高齢化対策とテロ対策を一挙に解決する方法として、肉体に障害を持つ児童に無償で機械の身体を与え、「労働の権利」を保障した。
機械化児童の中でも優秀であるとして特殊転送式強襲機甲義肢(通称【特甲】)を与えられた「特甲児童」たちは治安維持の役目を追い、テロの脅威から都市と一般市民を守るべく日夜戦いを繰り広げるのだった――。

 

そんなミリオポリスを舞台にして、『オイレンシュピーゲル』はミリオポリス憲兵大隊(MPB)所属の遊撃小隊【猋(ケルベルス)】を構成する3人の特甲少女の物語であり、
『スプレイトシュピーゲル』はミリオポリス公安高機動隊(MSS)所属の要撃小隊【焱の妖精(フォイエル・スプライト)】を構成する3人の特甲少女の物語です。

 

同じ都市の治安維持を担う組織に所属する3人+3人の特甲児童の少女たち。
けれど、憲兵と公安という組織性の違い、「遊撃」と「要撃」というスタンスの違いから、『オイレン』と『スプライト』は読み味がかなり異なっていました。

これがどちらもすごく楽しかった!

 

『オイレン』では、事件が発生してから指令を受けて現場に突撃し、個人の能力で敵をなぎ倒しながら、事態収束を目指していきます。超現場主義。
3人1組で立ち回るシーンは意外と少ないんだけど、それぞれが目の前の敵やトラブルを乗り越えながら、クライマックスで三人が揃って「一頭の獣」になるのが毎回とても胸アツでした。

「〈猋〉遊撃小隊は、文字通り三人で一頭の獣である。互いが頭となり目となり手足となって、突撃をフォロー、狙撃をカバー、遊撃的にサポート。優先すべき行動のためには、互いの盾となることをも避けてはならない」

この小隊の訓示が最高に格好いい。
彼女たちはそれぞれ独立した強さを持ち、支え合い補い合う存在であり、命を預けあって任務に挑む。
バラバラに動いていても、根底には常に仲間との絆があるんです。
個人的にそれを強く感じられる好きなシーンが2巻ラスト。崩れ行くビルのなかで訓示を繰り返し叫ぶところ。死を前にして仲間との繋がりを強く求めるところ・・・・・・エモだ・・・・・・

『オイレンシュピーゲル』は小隊3人を深く掘り下げていくシリーズで、ダークな青春小説のようでもありました。
生身の手足を奪われ、機械の手足を与えられ、死地に送り込まれた3人の少女。
それぞれの背景はかなり憂鬱で残酷なんだけど、そこから描かれる少女たちのドラマが最高でね・・・・・・特に涼月がよかった。そこらへんは下のキャラ別感想で書きます。

 

『スプライト』の方は、個人戦ではなく組織戦という印象。
要撃小隊の3人だけでなく、MSSという組織全体の描写がかなり多いんです。

公安組織が主役なだけあって、情報収拾・分析パートにページが割かれている。
そのため、『スプライト』では彼らが立ち向かうべき「巨悪」へ迫っていく様子が緊迫感をもって描かれていきます。

特に表と裏の構成になっている2巻と4巻は、『オイレン』だけでは不鮮明な部分も『スプライト』を読めば欠けたピースが埋まるように全貌が見えてきました。
そのぶん『スプライト』のほうが物語としての読み応えがあったかな?

クライム・アクションとしては『オイレン』の方が戦闘描写が派手で好きだけど、クライム・サスペンスとしては『スプライト』の方が楽しかったです(伝わるか・・・?)
シュピーゲルの世界がどんなものか、その最深部まで切り込むのはスプライトの方でしたね。

 

オイレンもスプライトも、幽霊会社「プリンチップ社」がバックについたテロリストと戦っていく物語。
その背景には、まるで現実世界と接続するような思想・陰謀・紛争があるのです。

これ、何度も何度も「どこまでがフィクションだろうか?」と考えてしまいました。
現実の自分が見て見ぬふりをしてきたもの、あるいは無知を突きつけられた気分になる。
吐き気がこみ上げるような世界の暗部が次々と描かれ、そこに現実にある地獄をも透かし見てしまうのです。

これがもう、すごい情報量と密度で構築されてるんですよ。
でも苦しいだけではなくて、読み物として面白く描かれている。
世界はクソだが人間はまだ捨てたものではないと思わせてくれるから、ちゃんとエンタメとして成立しているんです。そこがめちゃくちゃすごいと思った。

オイレン、スプライトで物語の全てが描かれたわけではないので、『テスタメント』では何が待つのかとても楽しみです。早く読もうっと!

 

キャラ別雑感:オイレンシュピーゲル

 

拳ひとつで敵中に殴り込む突撃隊長。
涼月は最初から割と好感度ある主人公だったんだけど、4巻で完璧に大好きになりました。

彼女が特甲児童になった生い立ちと、拳を握りしめて敵を殴り飛ばすスタイルのリンクが凄絶。
でも、そこから涼月の内面を深く深く描いていく物語がとても面白かったです。

特に4巻での残酷な伏線回収(受験勉強・・・「あたしの都市」・・・)があってからの、傷つき、泣いて、それでも前へ!前へ!!と進もうとする力強さ。
劣等感まみれの負の情念すべてを飲み込み、自分を燃え立たせるエネルギーに変えてしまうところ。最高に格好良かった。

最初は喫煙不良少女な涼月がリーダーって面白いな〜くらいに思っていたんだけど(こういう3人組だと陽炎がそれっぽい気がしたので)、読めば読むほど涼月が小隊長であることに納得しかないところも好きです。
根が真面目で、荒んだ心を持て余していて、でも紛れもない善性の強さを感じる。
あと、ほんと良い子だなって。口も態度も悪いし八つ当たりもするけどね!笑

涼月は吹雪とのラブコメもすごく楽しかった。
最初こそ吹雪→涼月の忠犬な愛情にすごくニヤニヤしてたんですけどね。
でも、涼月→吹雪の劣等感と羨望と親愛と憎悪と無自覚な何かが明らかになると、この二人の関係性にハマるしかなかった。

涼月って、吹雪には人を殺さない場所で綺麗であってほしいという願いと、人を殺して傷だらけの自分とは違うんだという劣等感が表裏一体なんですよね。
「綺麗な吹雪」を守ろうとすると同時に、その綺麗さを妬んでいる。

あまりにも複合的で複雑な感情を吹雪に向けてるのものだから、これは表面的なものはさておき涼月の感情の方が巨大なのでは?と思ってしまうし、そういうところが大変美味しいカップルなのでした。

 

遠隔射撃で援護は任せろ!の天才スナイパー。
個人的に最推し(いやでも涼月と迷うな・・・)

陽炎、飄々として大人びた少女なんだけど、ものすごく背景がエグいんですよね。
陽炎は特甲児童のなかでも過去も現在も私にはしんどいエピソードが多くて・・・・・・。

でもめっちゃ可愛いんだ。
あれだけの背景をもちながら、恋する乙女の花畑満開なところが逆に彼女の強さを感じる。強さじゃないかもしれないけど。
なんかこう、ウェットになりそうなところをドライに描かれる塩梅がたまらんというか。

陽炎の意中の相手であるミハエル中隊長との掛け合いも良くてねー。「お前と、お前のライフルを信じる」とか言ってくる色男め!年下をたらしこみやがって!笑
セクシー担当の陽炎がミハエル中隊長のセクシーさに悩殺されてるシーンとか毎度笑ってしまうし大好きです。返り討ちじゃん。

まぁ陽炎が年上男性にロックオンする背景に父へのコンプレックスがあることを考えるとやっぱり心がざわつくんだけど、それはそれとして中隊長×陽炎のラブコメ(ほぼ陽炎の一方通行)は最高なのでした。

 

小隊の虐殺担当。歌って踊れる殺人ミキサー。
ひとたび戦場に舞い降りればワイヤーをひるがえしてサイコロステーキを量産する恐怖の少女。好き。
夕霧は「糸使い」的キャラにやってほしいことを100倍のエグさで実行してくれるところがとても好き。
自分の身体をワイヤーで貫き止血したり縫合したりするところとか。

常に夢見がちというか浮世離れしている子なんだけど、涼月や夕霧のラブコメを感知するとササッとお膳立てしたりもして、なんとも掴みにくいキャラだちなんですよね。
でもそこが魅力にも感じる。
仲間がいないところでは感情死んでるところも良いよね。
あと夕霧の自作ソングのぶっちゃけ具合も好き。

他2人に比べれば夕霧はそんなに・・・とか思ってたけど、4巻まで読み終わって振り返ると私めっちゃ夕霧のことが好きだな?

夕霧にも恋の相手がいるんだけど、これはもう悲恋の予感しかないので『テスタメント』を読むのが怖いです。

 

涼月ちゃん♡♡♡の接続官。
無意識型ときいて戦闘時は存在感だせないのかと思いきや、涼月ちゃん♡♡♡の疑似人格で乱入可能という天才の無駄遣いが好きです。
わんこ系かわいい男子と思いきや、涼月の心を守ると誓うサポート型王子様だったのもポイント高いんだよなぁ。
でも涼月はお姫さまではなく吹雪のナイトなので王子×騎士だなこれは。

 

シュピーゲルシリーズ、キャラを植物や動物にたとえて表現するのがすごく好きでした。
なかでも中隊長の描写がお気に入り。

優秀な射手というより、自身が標的にされながらも生き抜いてきた、タフで俊敏な大角鹿の風情。

最初はちょっと意味がわからなかったんだけど、話が進んで中隊長の過去を知ると心から納得できるんです。むしろかなり秀逸な表現で痺れた。

そしてこのセクシー中隊長、あまりにも仕事ができるイケオジなんですよね。作中登場する大人のなかで一番好きです。

 

キャラ別雑感:スプライトシュピーゲル

 

ご奉仕いたしますわー!の要撃隊長。ダダダダダダ!のルビ芸が好き。

アゲハは涼月とは違う、過保護なリーダーという感じでした。
スプライトの3人組って、オイレン組のような対等の関係ではなく、「姉」と「妹たち」みたいな雰囲気がありません?上下関係がきっちりあるというか。
そこがたぶん「どうせスペア」みたいな言を生んでる遠因なのかもなと思ったりしたけど、これはこれで可愛いので今は良し。

アゲハを含めスプライト側に関しては、まだ見えてこない闇がありそうで、どうにも感想を書きづらい。

冬真とのラブコメもあるけど、このラブコメをどこまで素直に楽しんでいいのかよく分かりません。私はアゲハが怖い。
でも涼月との電話は好きだった。「ざけんじゃねぇですわよ!!!」の誤ったお嬢様言葉だいすき。

 

燃える刀使い。シュピーゲルシリーズは全員が違う個性の武器で戦うのが良いよね。

ツバメは誰よりも狂気に近いところにいる気がして、その危うさがとても怖くて。
夕霧と似てるようで違うのは、「居場所としての仲間」というものが夕霧ほど確固としてないからでしょうか。
アゲハへの信頼や仲間の絆と、自分は「代替品」だという意識のせめぎあいが見どころでした。

日向とのラブコメ未満というか兄妹みたいなノリの掛け合いが結構好き。

 

怯える爆弾魔。
黄色だったりブンブン鳴ってたり、危機察知能力がすごすぎる。
これって夕霧が終盤で他人の感情を敏感に受け取っていた現象と何か関連するのかな?

レベル2の特甲はレベル1よりも人間性を奪う部分が顕著に描写されていて(味覚障害とか)、雛とかも臆病な素振りでナチュラルに壊れた部分をみせてくるのが怖かった(そのくせ更にレベル3とかレベル4とか出してくるの、地獄すぎない?)
「普通だよぉ、それ」とかね。「ボクたち頑張って、これは自分で決めたんだって思い込むの」という話を当たり前のように語る瞬間の寒気は忘れられそうもない。

ところで雛から冬真に矢印が向いてるんですけど、三角関係にでもなるのかい?(水無月いれたら四角関係?)

 

一般人の顔した天才数学少年。巻き込まれ体質。
スプライト、一般人です普通人ですって顔した普通じゃない人が多すぎですね。

冬真は何かしらの物語の鍵を握っていそうなので今後の立ち回りに期待したいところ。アゲハとのラブコメも期待して・・・いいのかな・・・(怯)

でも冬真は水無月とコンビ組んでるときが一番輝いてると思いました。

 

何なんだ君は?本当に何なんだ!?!?
吹雪といい、接続官は粘着ストーカー気質なのが条件なのか?と登場時は笑ってしまったのだけど、巻が進むにつれて真顔に。

血塗れの姿になっても「あの子の羽は僕が守るんだ」と懸命に羽を震えさせる姿が・・・・・・えええ・・・・・・(困惑)(動揺)(推しが変わる音)

身を削るほどの一途な想いで少女の守護者たらんとする少年なのだけど、その対象であるだろうアゲハは冬真と良い感じになっているという。世界は残酷か?

ところで「あの子」って本当にアゲハのことでいいの?ミスリードだったりしない??と地味に疑っています。
じゃないと水無月の献身がなんだか不憫になりません???どうなっちゃうんだよー!!!

 

色々気になってたまらないので早く『テスタメントシュピーゲル』を読まねば。
力尽きてここでは書けなかったキャラについても、テスタメントの感想で触れられたらいいなぁと思います。


 

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