【WEB小説感想】花術師 /ia(糸森環)


糸森環先生のサイト「27:09の地図」(http://ash-map767.riric.jp/index.htm)にある小説を読み尽くすチャレンジ第3弾!

今回は『花術師』です。
サイト版はここ→ http://ash-map767.riric.jp/kazyutsushiTOP.htm

 

書籍版で既読だった『F-エフ-』や『she&sea』と違い、『花術師』は完全に初見です。
『花術師』の書籍版が糸森先生の商業デビュー作でしたっけ?
私が知ったときには既に絶版&電子版もなしの状態だったんですよね。どこかで復刊してくれないかしら。

 

花がなければ魔術を使えない異端の魔術師と、歩くところ屍の山を築く恐怖の死神閣下。
様々な意味で凸凹な二人の出会いから始まり、彼女たちが住む「背徳の町」が秘める闇に迫っていく物語です。

色んな方に「花術師はいいぞ!」とオススメされてきたのだけど、本当に良かった。面白かったです。

☆あらすじ☆
リスカは花を媒体とせねば魔術を使えない。このように、魔力に制限を与えられる不具の魔術師を「砂の使徒」と呼ぶ。だが、伝説に残るほどの例外的な「砂の使徒」も存在して……。
死神閣下の異名を持つ最凶の剣術師と花術師リスカの一見波瀾万丈な日常ファンタジー。(恋愛なのか変愛なのか……)

以下、ネタバレありの感想です。
2020年6月現在サイトに掲載中の「終幕の声」まで。

 

詠唱で魔術を行使できる通常の魔術師とは異なり、花を媒体としなければ魔術を使えない「花術師」のリスカ
「砂の使徒」「不具の魔術師」と差別されてきた彼女は、辺鄙な町のはずれに店を構えていた。

ある日、店を襲う夜盗から逃げていたリスカは、その途中で大量の屍と共に打ち捨てられた一振りの魔剣を見つける。
傷つき朽ちかけた魔剣に憐れみを覚えたリスカは、自身の傷もかえりみず、その魔剣を癒やして静かに立ち去る。

そうして店に戻った彼女を待っていたのは、伝説にうたわれる最強の砂の使徒。死神閣下の異名をもつ「剣術師」セフォードだった。
魔剣の姿をした自分を救ったリスカに謎の巨大感情を向けるセフォードは、戸惑うリスカに構わず、彼女の護衛役に収まるのだった――

 

というのが第一章【一花繚乱/月花遭遇】の流れ。
この奇妙な押しかけ護衛との遭遇を皮切りに、リスカの運命は波乱が波乱を呼び、激しく動き出していくことになるのです。

 

リスカたちが住むのは王都から遠く離れた町。
そこは不思議と貴族が多く、「背徳の町」としての顔を持っている。

そんな街を舞台にして、街に隠された秘密に迫る冒険を描くタイプの作品だと思います。

最初は腹上死の流行、次は花街絡みの連続変死事件。
その裏には貴族や騎士の背徳的な陰謀があり、更には人外の存在も魔の手を忍ばせている。

そして、真実を追えば追うほど次なる謎が待っていて、未だその全貌は見えてこないのです。

 

「街を舞台に」と書いたけれど、どうもその謎には国の上層部も絡んでいそう。
少しずつ真実のピースを渡され、空白だらけのパズルを埋めていくような気分になるんですよね。
一度は解き明かしたと思っていた問題も、別の視点を与えられることで「そういう意味もあったの!?」となるし、分かった気になって説明することが難しい。
たぶん全てのピースを埋めなければ、この物語の構造自体が分からないんじゃないだろうか。
うんうん。シナリオの感想が書きにくいタイプの作品だ(笑)(泣)

 

なのでシナリオ全体の感想については、最終章の公開を待つとして。

 

ここからは各章の感想を書いていこうと思います。

 

第一章【一花繚乱/月花遭遇】

まずね、「不具」なんて苛烈な差別用語が平気で飛び交うのが非常に怖い。
それは言葉を軽率に扱っているのではなく、そう呼ばれ差別されてきたリスカが置かれた運命の残酷さを示しているのだけど。

 

しかし、差別の象徴でありながらも、リスカが扱う花の魔術はとても優しく美しいのです。

 

特にセフォードとの始まりのシーンがとても好き。

屍の山を背景にして、花びらが舞う倒錯感。
無私の慈悲が花びらを介して注がれる美しさ。

画になるなぁと惚れ惚れしてしまいました。これは死神閣下も心を掴まれる。

さあ、生命の泉よ、迸れ――。
咲き誇れ、舞い狂え、叡智の花、豊穣の華。

 

第二章【腹上の花】

リスカが媚薬の花びらも商品にしていると聞いた段階で「それ(ラブコメ的に)活躍します??」と期待していたんですが・・・・・・

私の期待の斜め上をいく活躍ぶりというか、「違うそうじゃない・・・!笑」とツッコミ入れたくなる大活躍ぶりでしたね、媚薬。

媚薬っておっさんの口に大量に突っ込んで悶絶させ前後不覚にさせるアイテムでしたっけ(遠い目)(あとそれは四章の話だ)

 

さて、媚薬の花びらを求めて来店した美女に嵌められ、牢獄に叩き込まれ拷問されたリスカ。

痛い痛いよ、鞭が痛い。

『花術師』を読んでて思ったんですけど、下手に治癒魔法なんて便利な仕様があると主人公が大変なことになりますね。ボロ雑巾のように痛めつけても治るからまたボロ雑巾にできるんだよ。怖い。

 

あと「腹上死の流行」って想像の彼方にあるワードすぎて笑うでしょ!
いや、事件そのものは全く笑い事じゃないんだけど。

この第2章は、伯爵夫妻のすれ違いがとても心に残りました。
あのロマンチックで可愛い馴れ初め話から、こんな残虐で淫靡で救われない話になるとか・・・・・・いや違う。逆だ。
こんな残酷な事件の始まりが、そんな可愛らしいロマンスだったのだと知ることの方が衝撃だった。ダメージが倍加されました。

 

第三章【花炎-kaen-火炎】

伯爵夫妻の話でも思ったし第三章のジャヴの話でも思ったんだけど、花術師はドラマの描き方がとても繊細だし、残酷ですよね。

全てが壊れてしまった後で、事件が終わった後で、リスカは在りし日の彼らの話を知っていく。
それがいかに温かくて尊いものだったのか。失われた後に、恨み節のように語られるんです。

これがもう心へのダメージが半端ないし辛くてたまらない。
死で終わらせるしかないほど壊れていたとしても、死で終わればもう取り返しがつかない。
そのどうしようもなさが、ひどく苦しいのです。

 

また、この第三章は主要人物について一気に掘り下げる内容でした。
これがもうドラマの洪水のようだった。

卑屈な劣等感に苛まれるリスカも、亡き師への愛を語るジャヴも、天真爛漫にみえて闇に蝕まれるツァルも、強さゆえに孤独に慣れきったセフォードも。

それぞれのドラマが非常に読み応えあるんです。
ドラマが濃厚すぎて悪魔との戦いの印象が薄れるまである・・・・・・まぁあの悪魔は恐らくラスボスなので、第三章は顔見せ程度の登場だったのでしょう。

 

第三章のラストではラブコメも爆発。めっちゃニヤニヤしました。
色気ダダ漏れのセフォードも、傲慢に嘆きながら告白したフェイも、リスカに迫る男性陣のクセが強すぎて笑う。どちらに向いても苦労しそう。

しれっと師弟関係をゲットしたジャヴのポジションも面白いですし。でもまぁジャヴといても苦労しますよね。
じゃあ親友のツァルで!・・・・・・となってもやはり苦労しそう。

うむ。リスカの人生、誰と過ごしても安寧は遠そうです。

 

第四章【桃源落花】

これは最終章に向けた助走みたいな章ですよね??
リスカたち「砂の使徒」とは何なのか。その謎が意味深に存在感を増してきたような・・・・・・

 

この第四章で確立した(気がする)ジャヴとリスカの師弟関係、ケンカップルみが可愛くて好きです。
互いに師匠と弟子の立場を都合よく利用し合うくせに、しっかり師弟愛を築けているのがポイント高い。

 

ジャヴ最愛の師匠があんな形で死んだことを思うと、今のリスカとジャヴの関係を不思議な気持ちで見てしまいます。

リスカとジャヴの間には愛憎と戸惑いが折り重なっている。
互いに「師弟」という関係に対する憧憬と執着も抱えている。
それらが、彼らの関係に光と影を撒き散らしていて。

まだ「師弟」としての互いを信じきれてないけれど、期待してしまう。望んでしまう。そんな距離感。

そういう複雑な人間関係を繊細に描写しているところが本当に好きです。

 

最終章【百花繚乱】

 

準備中・・・・・・準備中!!!!!

 

あああぁぁぁぁぁぁぁ知ってたぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ

 

準備中ですね!!準備中なんだ!泣

 

待ちますよ!いつまでも!!

 

 

リスカは面白い主人公でした。

「不具」と呼ばれて蔑まれ、自身の枷を嘆き、上位者を羨み妬む少女。
そこだけ抜き出すと卑屈で矮小にも思えるし、実際にリスカの内心は割と小物っぽいところがある。それは彼女を傷つけてきたコンプレックスのあらわれでもあって。

 

でもそれだけじゃないんですよね。リスカの本質は生きるか死ぬかの窮地に立たされた時にこそ発揮されるんです。
その凛として優しい姿が花のように美しくて。
大輪の花ではなく、野に咲く小さな花みたいな・・・・・・

 

踏まれても踏まれても、どれだけ傷つけられても、少しずつ立ち直って前に進むリスカ。
周囲に揉まれて、偏屈たちと付き合っていくうちに、ちょっと強かになっていくリスカの成長も楽しかったです。
最終的にかなり口が達者になったよね。師匠のおかげか?

 

頻繁に性別を転換してるし、容姿も中性的でなんだけど、そういうところにリスカの発展途上を感じたりも。
慈愛以外の愛が分からず、恋も知らないリスカ。でも最後の方はだいぶ情緒が発達していたような??
彼女の心に芽生えたものが咲き誇る瞬間が楽しみです。ラブコメ方面は期待しかない。
現状は猛獣に喰われそうな小動物みたいな感じだけど、きっと、たぶん、おそらく、一矢報いてくれるはず(そういう期待なのか?)

 

泣く子も黙るというか、常にリスカが泣きそうなド迫力の死神閣下。

閣下、強すぎるし屍の山を築きがちなので、物語の展開上扱いづらかったのでしょうか。
護衛という名目の割にリスカと離れて行動するシーンの方が多かった印象でした。
まぁ仕方ない。この人はどんな盤面も物理でひっくり返すジョーカーのような存在ですから。
閣下がいると話が進まなくなるからな(関係者が滅殺されるので)(セフォードがシエルをさくっと殺らなければその後の苦労はかなり減ったのでは?

 

登場する度に苛烈な存在感を発揮するセフォー。
でもリスカに対する執着と不満をこじらせていくのがすごく可愛いんですよねぇ。
リスカが基本放置プレイするからだいたい拗ねてる気がする。
毛布の山にくるまってる姿、あざとすぎません??死神閣下なのに!

 

そしてセフォードもまた、リスカと同じく発展途上。
人外めいた性格だったのに、少しずつ感情表現が豊かになり、言葉も長くなり、丸くなっていくセフォーの変化が好ましかったです。
最初は「最後まで!言え!!」と突っ込みたいほど言葉が端的だったのになぁ。

 

だがしかし終盤はエロくなり過ぎでは??存在がえっち!

 

セフォーがどういう風に落ち着くのか気になるものの、「リスカさん」呼びは好きなので継続希望です。

 

謎の小鳥。マスコットキャラクター枠。小さいもふもふ。
シアの生い立ちが想像以上にカオスでびっくりしたのだけど、これは覚醒フラグですよね??期待して良い??

すぐギクシャクするリスカとセフォーの間に立たされて、一生懸命に仲を取り持とうとするのが健気。かわいい。
セフォーが介入すると人が死ぬので、代わりにシアが助っ人役として投入されることが多かった気がします。がんばり屋さんだ。

 

はじめましての挨拶代わりにリスカの手を焼いた男。
そこからの怒涛の好感度上げが凄かったです。
糸森環先生そういうことするよね!ギャップで読者を落とそうとする!!

次第に苦労人であることが明らかになるフェイだけど、貴族の傲慢さとノブレスオブリージュで交互にパンチしてくるところが大変に推せます。
腹立つほど不遜なんだけど、貴族の責務を背負っている人でもあって。本作登場人物のなかで一番頼りがいがあるんだよなぁ。

 

フェイは、リスカに対して段階を踏んで気持ちをあらわにしていくところも素敵なんですよね。

「今、世で俺の心理ほど、矛盾に満ちたものはないのではないか。こんなに可愛くもなく、時々男に変貌するような、間の抜けた女が、どうにもたまらず可愛く見える。神よ、信じられぬ!」
「俺は馬鹿だ、きっとお前に恋をした」

こんな偉そうで腹立ってときめく告白ある??
めちゃめちゃ好き。
セフォーに駆逐されない程度にがんばってほしいです。駆逐されそう。

 

読者への挨拶代わりに主人公を裏切って嵌めた男。
そこからの(以下略)

ジャヴとリスカの複雑な心境渦巻く師弟関係が萌えるって話は先に書いたので割愛。
恐らく作中で最も頻繁にリスカとベタベタしてる男なんだけど、色恋よりも師弟愛の方に傾いてる雰囲気なのが可愛い。

 

年齢性別不詳のリスカの親友。
砂の使徒として達観しているように見えて、実はリスカと同じく「枷」に囚われていることが次第に明らかになっていくんですが・・・・・・。

自分の声で自分自身を塗り替えてしまう恐怖は如何ほどのものだろうか。
太陽のように笑い、ひとり陰で泣く姿に切なくなる人。
癒やし枠だと思っていたけど、癒やしてあげたい枠だった。
いつまでもリスカと良き友人であってほしいです。

 

以上!
『花術師』も無事に待機地獄に落ちたので、次は『恋愛事件』にいきます。6月中に読めたらいいな。


花術師(糸森環)

 

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「【WEB小説感想】花術師 /ia(糸森環)」への2件のフィードバック

  1. こんにちは! 以前もコメントさせていただきました、少女小説読みの ばなな豆乳です。

    ついに花術師まで読まれましたか!

    私の中では花術師が一番の沼でした……。
    なにせ糸森先生の得意分野(?)がこれでもかってほど詰め込まれているじゃないですか!
    私が思う糸森先生の魅力というのは

    ・クセが強すぎる男性キャラと、その執着
    ・主人公に甘くない世界
    ・じつはいろんなことに裏があるストーリー
    ・心を削ってくるような、ままならない人間関係

    です。花術師、もうたまりません…。
    おそらく更新されるにはまだ年単位で待たなくてはならないのでしょうけれど、何度も読み返しながらそのときがくるのを熱望しています。

    もし更新が再開された暁には、糸森環教団(勝手にいま設立)のみなさんでお祝いして騒ぎましょう(みかこさんも勝手に入れてる)!

    1. ばなな豆乳さん、コメントありがとうございます。お久しぶりです!

      花術師、読んでしまいました・・・!
      未完と分かっていた(から躊躇していた)のに、とうとう沼に飛び込んじゃいましたよ!笑

      ばなな豆乳さんの仰っている「糸森環先生の魅力」、一言一句まるごと同意です!!めっちゃ分かります。分かりすぎて全力で頷きながら読みました!
      そうなんですよね。男性キャラの癖の強さも、主人公への厳しい試練も、後から後から色んな見方ができるようになるストーリーも、複雑怪奇で愛おしいドラマも最高ですよね。
      花術師はたしかに全部盛りでした!だから最高に楽しかったのか・・・・・・糸森環成分を摂取できて幸せでした・・・・・・

      最終章の更新が待ち遠しいですね。
      遅ればせながら沼に飛び込みましたので、一緒に待機させていただきます!!

      糸森環教団!?私も入って良いんですか!?(;_;)
      ならば末席に滑りこんじゃいます!!
      みんなで神の御慈悲を待ちましょう・・・!笑

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