声を聞かせて1 精霊使いサリの消失 /河上朔



声を聞かせて(1) 精霊使いサリの消失 (ウィングス文庫)【Amazon】

評価:★★★★☆
2020年5月刊。
面白かった!
「能力入れ替わり」という異常事態に見舞われた男女バディ(険悪)を描いたファンタジー。
精霊使いと魔法使いのコンビという異種な組み合わせが面白かったし、「身体」ではなく「能力」が入れ替わるという切り口も秀逸でした。

トップクラスの実力を持ったプロでも、互いの能力が入れ替われば素人も同然。
失われたのは自分の一部で、手に入れたのは欲しくもない「相棒の力」。
相棒からアドバイスを受けつつも能力の扱いに苦戦する二人は、事態打開の鍵を握る少女を追手から逃がそうと奔走することになるのです。

個人的には、鼻持ちならないエリート魔法使いが「無能!」「足手まとい!」とボロクソに叩かれながらも、ドン底から這い上がるように成長していく姿が痛快でした。
ほとんど彼が主人公みたいなものだった(W主人公ものになるのかな?)

相棒の精霊使いとの関係はここから面白くなりそうな予感。続きがとても楽しみです。

☆あらすじ☆
精霊の声を聞く力を持っていたために生まれ故郷で迫害を受けて育ったサリは、現在ランカトル王国の公安局に所属する優秀な公安精霊使いとして、傲慢な公安魔法使いラルフをパートナーに王都ザイルを守護している。人はおろか精霊使いからも異端扱いされることは多いが、サリは自分の力が受け入れられる場所を離れるつもりはなかった。ところが、王弟デューカの“鑑賞会”に魔物の子として連れてこられた少女をかばおうとした際、サリとラルフの力が入れ替わってしまい…?

以下、ネタバレありの感想です。

 

ランカトル王国の治安を守る公安局には、精霊の声を聞いてトラブルを予見する公安精霊魔法使いと、精霊使いが集めた情報をもとにトラブルに対処する公安魔法使いがいる――

この設定がまず面白かった。

精霊使いが集める情報がなければ魔法使いは速やかに動けず、魔法使いが動けなければ精霊使いはトラブルを防ぐことができない。
一見すると歯車が噛み合った関係にみえるけれど、両者の間に横たわる溝はとても深いのです。

余人には聞こえない声を聞くことから、魔に近いと迫害されてきた歴史をもつ精霊使い。
血筋によって力が受け継がれ、わかりやすい力で民を守るため英雄のように扱われる魔法使い。

仕事上協力関係にあるとはいえ、それぞれの勢力は決して仲良しこよしではなくて、むしろ結構険悪な感じ。

そしてそれは、パートナーを組んでいる精霊使いサリと魔法使いラルフにも言えることなのです。

 

では、そんな精霊使いと魔法使いの能力が入れ替わったら?

 

精霊使いだったサリは精霊の声が聞こえなくなり、コントロールできない魔法の力を手に入れる。
魔法使いであるラルフは魔法が使えなくなり、気絶しそうなほどの音の嵐に襲われてしまう。

これまでの人生を共に歩んできた力が、ある日突然失われてしまうのです。
その喪失感と恐怖は、どれだけのものでしょうか。
しかも代わりに与えられたのは、特に欲しくもなかった強力な力。
ここがまた面白いポイントなんですよね。コントロールできない力は、全くのゼロよりも厄介なんです。

 

特にラルフはしんどそうだったなぁ。

魔法使いであることに誇りを持ち、精霊使いは情報収集の道具としか見ていなかった男が、魔法を奪われ、精霊の声は上手く聞き取れず、「何もできない自分」を思い知ってしまう。
さらに、特に興味をもたなかった精霊使いたちの世界を知ることで自身の見識の狭さまで突きつけられる。

将来有望のエリートだっただけに、その屈辱は半端なものではなかったことでしょう。
傲慢で腹が立つ男だけど別に悪人ってわけじゃないからね・・・・・・結構同情してしまった。
能力入れ替わり後にラルフが何度も醜態を演じてしまうところとか、もはや哀れみすら感じたし・・・・・・

 

石にまで「能なしの足手まとい」呼ばわりされる、堕ちたエリート。
そんな彼が、サリの言葉に導かれ、精霊の声を受け入れ、「人を守る」という最初の使命感に立ち戻るというのは、なんだろう、一種の成長物語を読んだようなカタルシスを感じました。
最初は樹をブン回していた鼻持ちならない男が、「声を聞かせてほしい」と自然物に敬意をもって願うんですよ。自分が守るべきもののために。
傲慢の殻を破っても、矜持を捨てたわけではない。そんなラルフの変化に、とても爽快な気持ちになりました。

 

あと、ラルフが精霊の声に真摯に向き合うシーン、「サリの能力」への信頼を感じさせるのがまた良いんですよね。
このバディは互いの人格に対しては無関心と反発しかないけど、能力だけは認めあってるんだよなぁ。
そういう険悪バディ大好物ですよ!でも人格にも興味もってね!(変化は起こりつつあるので楽しみ)

 

それにしても、精霊の声を素直に聞けるようになり、ウキウキ気分であちこちに耳を傾けるラルフくん、ちょっと可愛くなりすぎじゃない??
元に戻って聞こえなくなったらしょんぼりしてしまうのでは?スクードの罵声が恋しくなっちゃうのでは??見たいな・・・!

 

最初のハードルを乗り越えたラルフに対し、サリは未だ能力を扱えないまま。
彼女の方がラルフよりも問題の根が深い気がするんですよね。
ラルフのように降って湧いた力に振り回されることはないけれど、人よりも精霊に馴染んできた少女だけに、能力喪失の苦しみはラルフとは別の意味で重いわけだし。

 

精霊の側に寄りすぎて人に馴染めなかったサリ。
今回はラルフの変化が描かれて終わったので、次巻以降ではサリの内面が掘り下げられていくのでしょうか?
ラルフとの関係ももっと円滑になっていくといいな。楽しみです。

 

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