モノノケ踊りて、絵師が狩る。―月下鴨川奇譚― /水守糸子



モノノケ踊りて、絵師が狩る。 ―月下鴨川奇譚― (集英社オレンジ文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★★
2020年2月刊。
これはやばい。やばい小説が出てきたぞ・・・!

怪奇現象を引き起こす妖怪画を探しだし、その憑き物落としを行う男女を描いた現代ファンタジー。
妖怪退治系のお話としても面白いのですが、本作で何よりも推したいのは「主人公二人の関係性」です。

過保護な兄と世話のやける妹のような「幼なじみ」の二人。
一見すると優しくて穏やかな雰囲気なのに、その奥底には荒れ狂うような執着と情念が秘められているのです。

誰よりも近くて、もどかしいほど遠い。そして遠いからこそ執着する。
届きそうで届かないものにこそ、人は必死に手を伸ばすのかもしれません。なりふり構わず、本音を隠して。

二人の関係に隠された業の深さを知れば、その運命的なしがらみに、読者はときめきが止まらなくなることでしょう。
はぁ、もう、どうしましょうか。私の胸の動悸がやばい。

あまりにも性癖に刺さる作品でした。
求める女と、つれない男。焦がれる男と、気づかぬ女。
そういうのお好きな人、ぜひ読みましょう。

☆あらすじ☆
江戸末期の絵師・月舟が描いた妖怪画には、本物が封じ込められているという。そして現代。月舟の子孫・詩子は、美大に通う学生だが、もうひとつの顔があった。散逸した月舟の妖怪画を探し、憑きものを落とす家業を継いでいたのだ。幼馴染みの青年・七森が持ち込んだ情報によると、月舟の絵を所有する画廊のオーナーが足を火で炙られるような痛みを訴えているらしく?
【目次】一 猫又/二 ろくろ首/三 面霊気/四 鬼女/結 無題

以下、ネタバレありの感想です。

 

江戸時代末期に活躍した妖怪絵師・月舟による百鬼夜行の連作「月舟シリーズ」。
月舟の死後散逸したその連作には、本物のモノノケが封じられ、持ち主を憑き殺すという噂があった。

月舟の子孫である時川詩子は、代々受け継がれた技によって憑き物落としをすることができる女性絵師。
自分ではモノノケを見ることができない詩子は、美術研究所に勤める幼馴染・七森叶の目を借りて、彼とともに「月舟シリーズ」が引き起こす騒動に首を突っ込んでいくのです。

 

ジャンル的には、男女バディの妖怪退治ものに当たるでしょうか。
モノノケが見えない拝み屋の女と、彼女に変わってモノノケを見る男。
七森の言葉に従って詩子はモノノケの姿を描き、そうして封じ込めたモノノケたちを異界に返す。
それを何度も繰り返していく2人組のお話なのです。

 

そんな彼らの憑き物落としを通して、連作短編形式に描かれていくのは、絵の所有者たちが抱える人間ドラマ。
各エピソードの読み口は苦かったり優しかったりと様々なのだけど、その結末の「解釈」が特に面白かった。
目の前に提示された「絵」は同じなのに、人によって見方も意味あいも変わる。
それはまるで絵画鑑賞のようだし、その一筋縄ではいかない読後感が楽しくて仕方ないんです。
七森の現実的な解釈と、詩子の感傷的な解釈の対比も印象的なんですよねぇ。

 

妖怪の逸話と所有者たちの事情をリンクさせるところも絶妙でした。
個人的には「ろくろ首」にまつわる絵師とパトロンの歪んだ関係がお気に入りだったりして。
身勝手に自分を捕らえた男へ、首をするすると伸ばして口づけする女。
こういう他人の理解を必要としない閉じられた関係、とても好きですね・・・・・・その末路も悪夢的で実に良い。

 

ただし、本作で最もエモくて性癖に刺さる関係性といえば、主人公である詩子と七森の関係なのですが。

 

この二人の関係については何から語れば良いのか、どんな言葉で表現すればいいのか、とても難しくて悩みます。
エモい!って叫ぶだけじゃ伝わらないよな・・・・・・でもエモいんだ。

人とモノノケの間で絵筆をとり、将来有望な絵師でもある詩子。
詩子の良き理解者であり、憑き物落としの協力者でもある七森。

幼馴染で仕事のパートナーとくれば、そこに甘酸っぱい感情を期待してしまう私ですが、いやぁ、ちょっと予想していた以上に途方もないモノが出てきてしまいました。

 

まず心を鷲掴みにされたのは、詩子の七森に対する執着の底知れなさ。

第一印象はあまり他人に興味がない浮世離れした少女、という感じだったのに。
幼い日の七森との思い出はガラス細工のように美しく、それを大切に心にしまいこむ姿は恋する乙女さながらの可憐さなのに。

しかし、物語が進むにつれて、暴きたて抉りだすように描かれるのは、詩子の中にある怖い怖い女の情念なのです。

 

わたしはいっとう大事なものは、縛りつけて所有する。そういう女だ。

重すぎる愛情を他の男で発散させた母と違い、詩子の愛はただ一人に注ぎ尽くされるのでしょう。
逃げないように、どこにも行かないように、自分のもとに居続けるように。
あどけない少女のように手を伸ばして、したたかな女のように絡め取ろうとする詩子。
なんて淫靡で純粋な執着だろうか。そして強欲。
こわいこわい。好きです、こういう拗らせたヒロイン。

 

その執着が向けられる七森はというと、これがまたクセ者な男なんですよ。

先祖代々受け継がれてきた、天才絵師へ執着する贋作師の血。
贋作師としての七森の苦悩や葛藤に集中していたら不意打ちで殴られた!って人は私だけではないはず。

相手に執着しているのは詩子だけなのか。
捕らえたのは、囚われたのは、果たしてどちらの方なのか。

先祖の妄執を無自覚に叶えてしまった気持ちはどう?って聞きたい。
まるで呪いのように運命的。確かに鬼が笑うほどに根が深い関係です。でもそれが良いんじゃあないか・・・・・・

 

それでも、時川詩子という絵師に、最初に狂わされたのは俺だ。

このセリフで更にエモさが爆発。
狂えばいいのに、と詩子は願っていたのに。
あの子の執着を素知らぬ顔でかわしといて、よくもまぁぬけぬけと・・・・・・ずるい男め!(好き!)

自分が最初の一人であることを確認する七森の心は何を意味するのでしょうか。
優越感だろうか。誇らしさだろうか。
何にせよ、ただならぬ執着だけはひしひしと伝わってきますよね。

詩子に対する憧憬とか、過保護な振る舞いとか、そういう七森の(ニヤニヤしてしまう)心の機微はもとから丁寧に描かれていたんだけど、この最後の総括はあまりにも秀逸でした。

 

必死に縛り付けようとする詩子だけが知らない七森の本音。
いっとう大事なものが、誰をいっとう贔屓にしているのか。彼女が知るのはいつになるのやら。
それがまた滑稽で可愛らしく、切なくてもどかしい二人の「近くて遠い距離」を改めて感じさせるのです。
きっとこれからも隣にいながら、まだ届かないと求め続けるのでしょう。はぁ、、、美味しいな!

 

とても楽しかったです。
めちゃめちゃ良い作品を読めて大満足。最高でした〜〜

 

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