竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― /筑紫一明



竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― (GA文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2020年1月刊。
発売前から褐色美少女イラストで話題になっていたGA文庫の最新作。
これは良いファンタジーですね!
師を亡くした魔法杖職人見習いの青年と、彼に杖の修理依頼を持ち込んできた東方の少女。
修理のための素材を探すなかで、二人は伝説上の存在である「竜」の秘密に迫っていきます。
非常に落ち着いた空気のなか、心情描写の繊細さが光る作品でした。
世界観に奥行きをもたせつつ、1冊で綺麗に話をまとめているところも好み。
ぜひシリーズ化してほしいです。

☆あらすじ☆
魔法杖と、消えた竜。その心臓を探し出せ。
「この杖、直してもらいます!」
半人前の魔法杖職人であるイクスは、師の遺言により、ユーイという少女の杖を修理することになる。
魔法の杖は、持ち主に合わせて作られるため千差万別。とくに伝説の職人であった師匠が手がけたユーイの杖は特別で、見たこともない材料で作られていた。
未知の素材に悪戦苦闘するイクスだったが、ユーイや姉弟子のモルナたちの助けを借り、なんとか破損していた芯材の特定に成功する。それは、竜の心臓。しかし、この世界で、竜は1000年以上前に絶滅していた――。
定められた修理期限は夏の終わりまで。一本の杖をめぐり、失われた竜を求める物語が始まる。

以下、ネタバレありの感想です。

 

師匠を亡くしたばかりの杖職人見習いイクスの前に現れたのは、大事な杖を修理してほしいという少女・ユーイ
杖の芯となる素材が「竜の心臓」であることを突き止めたイクスは、すでに竜が絶滅したと言われる世界で、残された僅かな手がかりを集めて悪戦苦闘することになるのです。

 

正直に言うと、序盤は少し雰囲気がかたいように感じました。
キャラとか構成的な部分が。

杖の修理に必要なレアアイテム・竜の心臓。
しかし彼らの手元に確たる情報はなく、伝承すらもあやふやな状態。
そういう雲を掴むような話に対して、一つずつ手がかりを得ていく地道な物語なんです。

で、そんな物語の中心にいるのが、感情表現が薄いイクスと訳アリのユーイ。
「職人と依頼主」でしかない二人の距離はそう簡単に縮まるものではなく、流れる空気は基本的にドライ。
それが反映されてか、物語は淡々と進んでいきます。

うーん、なんだろう、展開自体が極端に遅いわけではないのだけど、かといって軽快に進むわけでもなく、本当に色々な方向性が「手探り」といった感じなんですよね。
そういうのもあって、読む気持ちにエンジンがかかるまで割と時間がかかる作風でした。

 

と言っても、その序盤も楽しめなかった訳ではなくて。
少しずつ得た手がかりを元に仮説をたて、考証を重ね、ちょっと自信はないが時間もないので賭けに出る。
地道すぎるところはあるけれど、地に足がついたイクスたちなりの「冒険」は、この世界の雰囲気にとても合っていたと思います。

 

そんな地道な作業の中で、イクスの職人気質が何度も発揮されるところとかすごく良かった。
イクスのキャラクターは、かなり早い段階で好きになってました。
意外な素直さでユーイに謝るところとか、仕事に対する誠実さと筋が通ってる生き方とか、渋みのある良キャラなんですよねぇ。

 

地道に土台を築き、彼らが進む方向性が定まった中盤以降は、物語は加速度的に面白くなっていきました。
土着の風習について鋭く切り込み、考察していく。そういう展開めちゃめちゃ好きです。

祭礼にあるしきたりはなぜ生まれたのか。なぜ廃れたのか。

その理由と共に人々の思いにも目を向け、冷静に謎を解き明かしていくストーリーは読み応えばっちりでした。

 

また、「竜と祭礼」について考察を交わし合うイクスとユーイの内面についても、同時に掘り下げられていくのだけど、これもまた面白かったです。

託されたものがあるかぎり、死者はまだ死者ではない。

祭礼の秘密を追いかける物語は、同時に、葬礼の物語でもあったのでしょう。
死者が託したものを抱えて旅をした二人が、旅を通して死者の思いを受け取り、昇華し、そうして自分の人生を続けていく。
ここにも一種の儀式めいたものを感じて、なんだか厳かな気持ちになりました。

 

特に、父から託された願いを本当の意味で受け取ったユーイの結論が素敵なんですよね。
断絶はある。分かり合えないと思っているから、一緒にはいられない。
でも物事はどのようにも移ろうものだと、この旅で彼女は知ったわけで。

「百年か、千年も経てば、きっと」

これ、意外に皮肉屋な彼女らしいセリフだと思うんです。
そこに鬱屈はもう感じない。挿絵の笑顔が清々しくて、彼女の善性がもう歪まないことを予感させました。

 

本当に良いファンタジーでした。続刊希望!

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SBクリエイティブ
著者 筑紫一明 イラストレーター Enji

 

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