五竜の国 偽りの巫女は王を択ぶ /和知杏佳



五竜の国 偽りの巫女は王を択ぶ (角川ビーンズ文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2019年11月刊。
男であると偽り、王を選定する神剣の守り役となった主人公。
自分の存在が何かを歪めてしまうのではないかと迷い、怯えながらも、彼女は自らの役目と向き合っていくことになります。
5人の候補の中から王を選ぶ物語としても、次代の為政者たちの成長物語としても、国を良くしようとする内政ものとしても、神の意を受け取る巫女の物語としても面白い作品でした。なんて贅沢な!
和風ファンタジーとしても魅力あふれる世界観だと思います。いや本当にこれは素晴らしい新作ですよ。私は大好きだ。
ぜひシリーズ化してほしいです。応援しています!

☆あらすじ☆
性別を偽り運命に挑む少女が手にするものとは? 運命の和風ファンタジー!
神剣の意を聞き、王を選ぶ斉家に生まれた日夜子。その役割は男性に受け継がれるが、都からの使者に妹を人質にとられ、男装し偽りの選定をすることに!
ところが、五竜の一人・白金竜鎮に選定の真偽を怪しまれ……?

以下、ネタバレありの感想です。先に謝っておきますが、長いです・・・!

 

竜の血を引く五つの家の当主たち。
五行の竜気によって国を守る彼らだが、その頂点に立つ竜王は、50年に一度、「竜の神剣」によって選ばれる。

その神剣の意を伺う斉家に生まれたのが、物語の主人公である日夜子
彼女は父から神事を継承したものの、男子のみが継げる守り役にはなれない身の上にある少女です。

 

斉家最後の男子であった父が死に、正統の継承者が絶えた今、新しい王を選ぶ神事を執り行うことはできない。

そう思っていた日夜子の前に現れた都の神官・藤野孝保は、彼女の考えを鼻で笑います。
お前は神など信じていないだろう。お前が男のふりをして神事を執り行なえばよい、と。

 

この冒頭で示される孝保と日夜子の本音が、初っ端からとても印象的なんですよね。
神剣に仕える神官が、神はいないし神意など建前だと言い放つ。
これが普通の世界ならともかく、実際に竜の血を引く一族が存在し、神剣の託宣によって王を選ぶような神秘的な世界観なんですよ?
神話と地続きにあるような世界において、ひどく醒めた現実主義を「神官」が吐き捨てるのが、私にはなんだか面白くて。

それでいて、結局、彼らは「神」を無視することができないんです。
信じてないくせに、信じている。利用しているくせに、畏れている。

 

相反しそうな価値観や要素が、不思議なバランスで共存する物語だと思いました。
本音と建前、真実と虚構を同時に描きつつ、その対立と対比によって、物語を奥深くドラマチックに織り上げていく。
何もかも、誰も彼もが、単純な一筋縄ではいかない事情を抱えているのです。

厳かに神事を執り行いつつも、裏では俗世的な駆け引きが横行する王選。
力を持つが性別ゆえに認められない者と、力を持たないのに性別だけで優先された者。
誰よりも国を憂いて守りたいと願うのに、誰よりも国の対して罪の意識を背負う者。
それらの現状を良しとする者、悪しとする者、利用する者、利用される者、迷う者、救う者がいて。

様々な立場にいる、様々な考えの者たちが日夜子を中心に交錯し、竜王選びの儀式をこなしていくのです。
権謀術数渦巻く宮廷ドラマの醍醐味が、ファンタジー設定の上で遺憾なく発揮されている。そこがとても面白かったです。

 

一方で、シビアな雰囲気で始まった王選の儀式は、中盤以降、意外なほどの温かさに包まれていきました。
民を導く立場にありながら、民を知らない五竜たち。
その傲慢さは徐々に鳴りを潜め、日夜子との繋がりの中で、彼らの内面は変化していきます。
なるほど、これは次代の為政者たちが成長する物語でもあったのでしょう。
自分の変化に戸惑う竜たちがなんだか可愛くて、最初は嫌な印象しかなかっただけに、好感度が急上昇してしまいました。

 

そしてこのあたりは内政ものとしても面白かった。
知識だけはある箱入りの五竜と、知識はないが市井の現実を知る日夜子。
両者が協力して国を良くしようと頭を悩ませ協力していく姿はとても直向き。
王選の最中であるにも関わらず、未来の為政者たちの姿を見るようで好ましく感じました。

あと、五竜それぞれが竜気の属性に応じて専門分野をもち、その相乗効果をはかる仕組みとなっているのも楽しい設定でした。
「五竜の国」というタイトルに偽りなしですね。一人を王に選ぶけれど、彼らは五人でひとつなのだ。

まぁ、不作対策の効果が出るの早すぎない?とか引っかかる部分がないわけでもないのだけど、時間感覚がよく分からなかったのでそこは気にしない方向で。
ちなみに個人的にツボだったのは「皆さん、文字を読むのがお好きだなぁと思っただけです」という泉のツッコミです。それな!

 

まだまだ書きますね。長くなってきたぞ・・・・・・

 

本作は王選びの話であり、内政ものであり、竜たちの成長物語であると同時に、偽りの巫女の物語でもあります。

性別を偽り、神意を歪め、嘘と沈黙ばかりを繰り返していく日夜子。
最初は妹と村の者たちを守りたかっただけなのに、彼女は次第に自分が犯す罪の重さを実感していくのです。

亡父の言葉に今なお傷つき、神などいないと絶望し、茶番のような神事に心をすり減らして。
そうして日夜子の中で大きくなる苦しみは、五竜のひとり白金竜鎮の優しさによって昇華されていきます。
しかし、どれだけ親しみを覚えても決して明かすことのできない「偽り」がある。
その溝が二人の関係にほろ苦さを与えるのだけど、同時に、ほのかに甘く演出するものでもあって。
糖度は割と低い方なんだけど(だからラストにちょっと興奮した)、この二人の間を包む絶妙な空気がとても好きでした。

 

あと、良いなと思ったのは、日夜子も鎮も根底に抱えるものが同じだったところ。
守らねばならないものを「嫌い」だと言いながら、それでも真摯に向き合っていこうとするのは、どれだけ苦しいことだろうか。
同じ苦しみを抱えているからこそ、通じ合うものがあり、強烈に惹かれてしまうのかもしれません。
そこに神意の影響も多々あるのだろうけれど。でも、それだけじゃないでしょう?

 

神事を偽りで汚すことに怯えつつも、神事を通して自分のすべきことを考え始める日夜子。
偽りの神官は、本物の巫女へ。
本物の巫女は、正しい場所へ。
日夜子の成長と同時に、彼女が不信感を抱いていた神の存在を強く感じ始めるというのは、巫女の物語として面白すぎるな・・・と唸ってしまいました。

 

さてさて、どうまとめようか。

 

対比と不信の先に描かれる、共感と理解によって心が繋がる瞬間が格別に美しい作品だと思いました。うん。私はそこが一番好きだった。
鎮という中庸のヒーローそのものが美しいんですよね。その内面に抱えたものが曝け出されてもなお美しかった。
切ないくらいの献身と、痛々しいほどの内罰的な感情。
日夜子もそうだけど、守ってくれる側の人なのに「誰か守ってあげて」と願いたくなるんです。
これはあれだ、触れれば壊れそうなものに感じる類の美しさだ。

 

そんな鎮と日夜子の在り方は、人と人は助け合えること、苦しみは分かち合えること、それが許されることを優しく示してくれているようで、私にはとても心地良かったです。

あるべきものが、あるべき場所に。

鎮の言葉は、この物語の全ての登場人物の標になるべき祈りなのだと思います。
だから結末にはとても納得がいきました。いやぁ、本当に面白かった!

 

やたらと長い感想になってしまいました。
一応キリよく終わりつつ謎が残る結末ですが、これはシリーズ化するってことですよね?
まだまだ読んでいきたい作品です。続きがありますように!

 

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