誰も死なないミステリーを君に /井上悠宇



誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年2月刊。
「回避可能な死の未来が見える」という不思議な能力を足がかりにして、誰も死なないように奔走する男女を描いた青春ミステリー。
「死」という結果を防ぐために仕掛けられる逆転のアプローチが面白い作品でした。“安全なクローズド・サークル”とかね。
誰も死なせない。誰も殺させない。そうすれば、きっと全てを救うことができるはず。
そんな、主役コンビの徹底した優しさがとても好きです。ふたりを繋ぐ信頼の絆も素敵だった。
2巻もすぐに読みたいと思います。

☆あらすじ☆
自殺、他殺、事故死など、寿命以外の“死”が見える志緒。彼女が悲しまぬよう、そんな死を回避させるのが僕の役目だった。
ある日、志緒は秀桜高校文芸部の卒業生4人に同時に“死”の予兆を見た。“そして誰もいなくならない”ため、僕は4人を無人島に招待、安全なクローズド・サークルをつくった。だが、そこに高校時代の墜死事件が影を投げかけ、一人、また一人と―
これは、二人にしかできない優しい世界の救い方。

以下、ネタバレありの感想です。

 

寿命以外の要因によって死ぬ人の顔に「死線」を見ることができる女子大生・遠見志緒
死線が見えた人を救いたいという志緒の願いに応え、主人公・佐藤は死の運命を回避するための手立てを講じていく―― というお話。

 

知人・友人どころか全く知らない赤の他人にすら、死線が見えれば救いの手を差し伸べようとする佐藤と志緒。
完全なるボランティアだし、救ったことに気付かれないことすらある。
それでも目の前の「死」を見逃せないと必死に対策を考える二人は、途方もなく優しい人たちだと思うのです。優しすぎて胸が痛くなるまである。だって辛いよ、こんなの。
他人の事情に首を突っ込むこと自体が多大なストレスを生むというのに、さらに命に関わる話なわけでしょ。よく精神がもつなって思う。いや、実際に志緒は心に深い傷を抱えているわけだけど・・・・・・
二人一緒に行動して気持ちが重くなりすぎないように軽口を交わし合って。そうやって負担を軽減させていたとしても、心の底から優しい人じゃないとやってられない活動だと思う。
そして優しいからこそ目を背けずに他人の運命と向き合い続けるわけで・・・・・・いやぁ、やっぱキツい宿命だよ・・・!

 

さて、これはそんな優しいヒーローの物語であり、同時に、彼らの始まりを描いた物語でもありました。

 

高校時代に佐藤くんの学校で起こった、謎の転落死事件。
火災の起こった旧校舎の屋上から、なぜか傘を持って飛び降りた男子生徒・武東一歩
当時、彼に関わっていた4人の男女に死線を見た志緒は、彼らを死なせたいため、自分たちで完全に管理できる無人島に彼らを招待することを決めるのです。

 

つまり、誰も死なせないためのクローズド・サークル。

 

こういう逆転の発想が楽しい作品でした。
思惑を隠して無人島に連れてくることとか、その上で連絡手段を奪ってしまうこととか、真相を告白させるために関係者各人に宛てたマザーグース調のお手紙とか。
要素だけを並べると、いかにも連続殺人事件の真犯人がやりそうなことばかり。
でもこれは全て誰も死なせないし誰も殺させないために行われていること。
被害者も犯人も生み出さない。事件を防ぐことで、関係者全員を救ってみせる。
そんな優しさに満ちた行動なのに、普通のミステリーと同じくらい先の読めない展開にドキドキできるんですよ。これがまた新鮮な感覚で面白い。

 

探偵ものって、事件が起きて、被害者も出揃ってから謎解きを始めるのが普通だったりしますよね。
どれだけ優秀な探偵でも行動するのは常に後手。
華麗に謎解きをしても死んだ人は蘇らないし、すでに罪を犯した犯人は罰を受けるしかない。
そういう悲しい結末を全力で防ぎたい佐藤と志緒。
「誰も死なないミステリーを君に」という信念と、それが生まれた背景は悲しいものだったけれど・・・・・・

 

不思議な能力を手にした優しい二人の青春小説としても読み応えがあり、非常に満足できました。
佐藤と志緒の距離感も好きだったなぁ。
単純な「探偵と助手」という関係ではなく、二人揃って能動的に行動するタイプ。
時にはバラバラに行動することもあるけれど、心は常に信頼の絆で結ばれている感じがとても素敵でした。

 

余談。
佐藤くんの名前は出てこなかったけれど、この先も明かされないのかなぁ。
甘い名前ってなんだろう??

 

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