吸血鬼に天国はない /周藤蓮



吸血鬼に天国はない (電撃文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2019年8月刊。
「賭博師は祈らない」のコンビによる新シリーズ。
正しさが分からなくなった運び屋の青年と、彼に運ばれることになった吸血鬼の少女。
マフィアに追われ、命がけの逃避行をすることを決めた二人は、そこで何を見つけるのか。
序盤で期待していたものとは異なる展開へ進み、期待以上の結末に辿り着いた物語でした。
周藤さん、ニヒルな顔してセンチな男を描くの上手すぎでは??
とても面白い新作でした。2巻も楽しみです!

☆あらすじ☆
運び屋の気まぐれと、吸血鬼の嘘。だけど、それは確かに恋だった。
大戦と禁酒法によって旧来の道徳が崩れ去ったその時代。非合法の運び屋シーモア・ロードのもとにある日持ち込まれた荷物は、人の血を吸って生きる正真正銘の怪物——吸血鬼の少女であった。
仕事上のトラブルから始まった吸血鬼ルーミー・スパイクとの慣れない同居生活。荒んだ街での問題だらけの運び屋業。そして、彼女を付け狙うマフィアの影。
彼女の生きていける安全な場所を求めてあがく中で、居場所のないシーモアとルーミーはゆっくりと惹かれ合っていく。
嘘と秘密を孕んだ空っぽの恋。けれど彼らには、そんなちっぽけな幸福で十分だった。
人と人ならざる者との恋の果てに、血に汚れた選択が待ち受けているとしても。
非合法の運び屋と天涯孤独の吸血鬼の共棲を描くファンタジーロマンス、開幕。

以下、ネタバレありの感想です。

 

「どこまで行きます?それと、いつまでに行きます?」
それ以外を詮索せず、依頼品は必ず届けることを売りにする個人の運び屋シーモア・ロード
ある日、シーモアは銀髪の少女ルーミー・スパイクを指定された場所まで届けるという依頼を引き受ける。
そこで起こった襲撃によってルーミーの正体が吸血鬼であることを知ったシーモア。
恐らくマフィアに追われているルーミーを見捨てられなかったシーモアは、彼女を「安全なところ」まで連れて行こうと、依頼の続行を決意するーー というストーリー。

 

あらすじと序盤を読んで、なるほど裏社会に片足突っ込んだニヒルな運び屋と孤独な吸血鬼美少女の恋愛モノね!大好物です!と思い込んだ私が、中盤以降の展開にどれだけ驚愕したか察してほしい。
てっきり逃避行系の純愛ものだと思ってたんですよ。孤独な吸血鬼と孤独な人間が、心を交わしつつ二人で逃げるのねって。

いや、まさにそういう話だったんだけども・・・!

求めていた物語が予想できない形で提供されて最終的に求めていたものへと着地するという、アクロバティックな読書体験でした。
最初と最後だけ切り抜いたら期待通りで予想通りの話なのに中盤の展開がまるっと想像を超えてたんだよ・・・・・・

 

それはさておき。

 

本作はとても感傷的なお話だったと思います。

父親の死によって「正しさ」が分からなくなってしまった主人公シーモア。
彼の語り口は常にセンチメンタルな湿り気を帯びていて、様々な諦めを口にしつつも、自分の中にある違和感を捨てきれずに足掻いているような雰囲気もあって。

自分は社会を少し滑らかにするだけの媒介に過ぎないと言いつつ、恋のキューピッドのような始まりの記憶を大切に胸にしまっているところとかね。
「可愛くて不幸で、親を亡くした孤独なルーミー」を助けたいと思ったこともそう。
法も道徳も正しい価値観もない退廃的な世界にあって、シーモアはとてもロマンチスト。
そんな内面を抱えていること自体が、彼の生きづらさを感じさせるのです。

きっと何度も傷ついて、柔くて甘い心を守るために、まるで鎧のように見栄をはって来たんじゃないかな・・・・・・
そんな自分を、自分自身に対してすら誤魔化してきたんじゃないだろうか。
それは、愛おしくなるくらいの不器用さだと思うんです。

 

最初に私が読みたかった純愛の逃避行劇、きっとシーモアも読みたかったんじゃないかな。
きっとこれはそういうお話だって信じていたんだよ。
だから、中盤でシーモアが受けたショックに、私も自分のことのように共感してしまいました。

 

物事はとても多面的で、観測する側次第で全く異なる顔を見せる。
真実はひとつでも、与えられた断片的な情報から真実にたどり着けるとは限らない。

そういうことを痛いほど感じる物語でした。

中盤以降に変貌するシーモアとルーミーの関係も、一連の事件の真実も、本当にどうにでも見れるんだなって。
「全ては無価値」だと切り捨てて、物事をフラットに見たつもりでも、結局は自分のフィルターを通してしか世界を見ることはできないんだ。

 

ひとつ気づいてぐるりと変わった世界は、もうひとつ気づくことで更にぐるりと変化する。
真実が明らかになるラストは、なんだか無性にホッとしてしまうどんでん返しでした。
積み上げられた事実は何一つ変わらないのに、視点を変えるだけでこうも救いを感じることができるのか。すごい。

 

最初に期待していたものからはどんどんズレていくのに、最後には「こういうのが読みたかったんだ・・・!」と唸るしかなかったシーモアとルーミーの物語。
ラストシーンの、「それに僕は、ココアを入れるのが上手だよ」っていうセリフがとても好きです。
工具箱の中のココアは、シーモアが格好つけるためにひた隠してきた彼自身の甘さの象徴で、投げやりになった彼が苦しみのなかで縋り付いていた唯一のもの。
それは、この先も変えることができないシーモアの本質と言っていいんじゃないかな。
そういう素の自分を差し出したところにシーモアの誠実な愛を感じるし、それを受け入れるルーミーの姿からは彼女がシーモアのどこに惹かれたのかが切ないくらいに伝わってくるんです。

はー、、、しかし、ようやくここまで辿り着けた感動がすごいな・・・・・・

 

甘さと善性によって、不意打ちのように繋がることができた人と怪物。
その先に待っているのが逆らえぬ重力による地獄落ちだとしても、彼らは答えのない空白の「今」を生きていくのでしょう。

正しさも、間違いも、価値も、全ては曖昧のまま。
でも、生きていることだけは肯定できる。
他の誰かや社会に依らずに、「肯定」だけは自分の意思で決めることができるから。
それはまるで、間違いだらけの自分たちを許してあげるかのようにも見えました。

こういうの良い。とても甘くて、とても優しい。シーモアらしい結末だと思います。

 

何もかも信用できない緊張感が続く物語だったけれど、ふわっと包み込むように終わるところがとても素敵。
運び屋と吸血鬼は、これからどこに向かうのか。彼らが生きていく先には何が待つのか。
2巻が今から楽しみです。

 

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