夏の終わりに君が死ねば完璧だったから /斜線堂有紀



夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2019年7月刊。
「夏の終りに訪れるはずだったビターハッピーエンドに最後まで抵抗した無謀な少年の話」という、あとがきのまとめ方が好きです。「無謀」っていう書き方に、少年への愛しさを感じてしまう。
自分の感情を他人に証明することは可能なのか。そもそも証明する必要はあるのか。
これは金塊病という不思議な病を通して描かれる少年と少女の物語です。
大金が絡む狂騒のなかで必死に繋がりを求めることの難しさと哀しさに、心が掻き乱されるお話でした。

☆あらすじ☆
最愛の人の死には三億円の価値がある——。壮絶で切ない最後の夏が始まる。
片田舎に暮らす少年・江都日向(えとひなた)は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。
そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子(つむらやこ)だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける。
相続の条件として提示されたチェッカーという古い盤上ゲームを通じ、二人の距離は徐々に縮まっていく。しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる──。
壁に描かれた52Hzの鯨、チェッカーに込めた祈り、互いに抱えていた秘密が解かれるそのとき、二人が選ぶ『正解』とは?

以下、ネタバレありの感想です。

 

死後、身体が金へと変質する奇妙な病「金塊病」。
その患者を収容するサナトリウムで、中学生・江都日向は、金塊病を患う津村弥子に出会う。
チェッカーで自分に勝てば3億円を相続させてあげると言う弥子に反発しつつも、狭い集落の鬱屈した日々のなかで、江都は弥子と交流を重ねていくことになります。

 

何の打算もなく、何の見返りも求めず、他に理由も挟まず、誰かをただ「好き」であること。
それが単純な感情であればあるほど、真実であることを証明するのが難しくなるのかもしれません。

 

だって人はそんなに単純にものを考えないから。
色んな要素が絡み合って、色んな感情が混ざりあって、そういうグチャグチャとなった何かが「心」を構成していて。
その奥底にシンプルで原始的な「本心」があっても、どうやってそれを剥き出しにして、他者に示せばいいのだろう。

 

そのくせ損得が絡んだ話は納得しやすいんですよね。「ああ、お金が絡むから・・・」って。
損得勘定を抜きにした話は難しいんだ。簡単な話で簡単に納得したい。だから簡単に納得できる理由に飛びついてしまう。

 

簡単に納得したい他者に対して、簡単には剥き出しにできない「心」を証明するにはどうすればいいのだろう。
そもそも証明する必要ってあるのだろうか。自分の心を他人にオープンにしなきゃいけない責任なんてあるのかな。
シンプルに嫌だとしか思えないんだけど、そう言ってられない状況は現実にもよくあることで、更に「嫌だな・・・」という気持ちが加速してしまいます。

 

当人たちの問題を周囲が好き勝手に言うのも腹立たしい。
けれど同時に、当人同士でも「感情の証明」は重い問題であるのです。

 

江都が弥子自身に惹かれるほど、彼女のそばにいるのが金目当てではないと証明しなければならない。そう思わずにいられない。
「証明しなければならない」という状況自体が重苦しいストレスを生んでいて、江都の思いがどこへ転がっていくのかを緊張しつつ見つめてしまうのです。

 

これは、感情を証明する難しさを鋭く、かつ、残酷に抉り出す物語なのだと思います。
幸せな正解が見つからない難題だからこそ、追い詰められ、救いを求め、証明を得るために走り出したラストの二人に泣きたくなるんです。
鬱屈からの開放感と、証明を果たせる喜びと、その先に未来がない絶望。
その混ざり具合が絶妙すぎて心がしんどくなる。

 

身も心も全て捧げるのは、これ以上ない「証明」なのかもしれない。
倫理的にみれば間違いだと言いたくなるけれど、同時に「天国にお金は持ち込めないもんな・・・」という重い納得もある。ああ嫌だ。ここでも損得勘定だ。
物語を追う中で、私自身の醜いモノサシまで引きずり出された気分です。鬱になるからやめてくれ。

 

ただ、ラストのおかげで少しは浄化されたかな。
ロマンチストな弥子さんが遺した洒落っ気に、心を軽くしてもらえた気分。
切ないけれど爽やかな読後感があり、「美しい純愛だったな」とようやく思うことができました。

 

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