1/2 —デュアル— 死にすら値しない紅 /森バジル



1/2―デュアル― 死にすら値しない紅 (角川スニーカー文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2019年1月刊。
死者が生き返る世界を舞台に、彼らを「殺し直す」ことを仕事とする民間企業の職員たちの戦いを描くファンタジー。
ボーイミーツガールなバディものって大好きです。
特に本作では「心に傷を抱えた少女」と「心の傷をもてあます少年」の繊細な距離感がとても良かった。
彼らの内面を掘り下げるドラマパートが予想以上に読み応えがあって大満足です。背景激重で衝撃を受けたけれど。
アクション面も良かった。「人間とした欠けた部分」で攻撃してくる敵がユニークだし、近未来なガジェットを駆使する戦いはSF感満載でワクワクしました。
綺麗に終わっているけどシリーズ化してほしいなぁ。個人的にはあと一歩踏み込んでほしいところもあったので。
期待しています!

☆あらすじ☆
「私を殺して、私を助けて」心震わす圧巻のヒロイックアクション開幕!
“殺された人間が生き返る”そんな現象が発生する近未来の日本。ヒトとしての一部分を失い、引き替えに特殊能力を得て生き返った彼らは“偽生者(ワナビー)”と呼ばれ、怖れられていた。
偽生者を殺し直す職務につく少年・限夏(きりか)は、ある日、新しく相棒を紹介される。しかしやって来たのは、〈死〉を失い不老不死となった偽生者の少女・伴(ばん)だった。
「死にたい――それが、わたしのたった一つの願い」
死を望む不死の少女と、“生き返り”を許さぬ少年。相容れるはずのない二人。
そんなとき、【偽生者による国家統一】を掲げたテロ事件が起こり――
正反対の二人は戦場で運命を共にする!

以下、ネタバレありの感想です。

 

一度死んだにもかかわらず、何故か生き返ってしまった人間「偽生者(ワナビー)」。
「生命の不可逆性」という絶対の倫理に反する偽生者を「殺し直す」ために設立された民間企業GLILの職員・武内限夏は、例外的にGLILの武力として生存を許される偽生者・須崎伴と引き合わされ、彼女の監督官として共に偽生者返殺のミッションに挑むことになり—— というストーリー。

 

まず「偽生者」の設定が面白い作品でした
「死」「音」「姿」「距離」など、それぞれが「人間としての一部」を喪失して蘇り、この喪失がそのまま彼らの異能となる。
生前あったものが失われ、生前はなかった異能を得るというのは、「生命の不可逆性」に反する偽生者らしいあべこべな現象ですね。こういうの楽しい。

 

また、「甦った死者」というからにはゾンビ的な何かだと思いきや、偽生者には生前と地続きの人格があることも興味深い。
読んだ感じは、偽生者ってただ甦って異能を得ただけの存在にも思えるんですよね。

切れば血が出るし、痛みも感じるし、涙を流せば笑いもするし、食事だってとる。生殖だってできる。そして、殺せば死ぬ。

これって生者と何が違うんだろう。

今回の悪役サイドみたいに倫理観がぶっ壊れた連中もいるけれど、そうじゃない普通の感性の持ち主だっている。
「一度死んでいる」ということの重さを承知しつつも、「何も問題を起こしていない偽生者すら問答無用に返殺って、あまりにも可哀想では・・・」とい気分にもなりました。

 

この私の中で芽生えた違和感、悪役サイドから「偽生者の権利向上要求」という形で作中でも触れられるのだけど、如何せんテロリストの発言なのでマトモに取り扱ってもらえないんですよね。

でもさ、ぶっちゃけ彼女たちの主張は一理あると思うんだ。彼女たち自身の是非はさておくとしても。

限夏たちは「生命は不可逆であるべきである」という強固な倫理観をもって戦うけれど、個人的にはその倫理観への疑問と反論をもう少し掘り下げてほしいと思いました。
だって「偽生者」という通常とは異なる現象がある世界で、通常の世界と同じ倫理って本当にそのまま妥当するのだろうか。その不可逆性は既に一度は覆されてるのに?
通常の倫理を絶対不変のものとして貫くこと自体はいいのです。普通に納得できる当たり前の価値観だから。
でも、特に限夏が思考停止に見えるせいもあって、余計に気になるんですよね。

 

ただし、この限夏の思考停止状態にちゃんと理由があるところも本作の面白いところだと思います。
偽生者である母を「偽生者は殺し直さなければならない」という倫理観のためだけに無惨に殺し直した過去。
その残酷さにゾッとしつつ、自分の行動の正当性を守るために返殺にこだわる限夏の姿はとても哀れで・・・・・・。

一撃で殺せないショックで嘔吐するくらい彼の心は過去に囚われているんですよね。
そんな彼は、本当に全てを殺して自分も死ぬことでしか救われないのか。

「一撃必殺にこだわる」という歪に優しい限夏だから、彼が縋り付く倫理観が私には歪に見えてしまうのです。

 

まぁそのへんの疑問は続刊に期待するとして。

 

本作は限夏と伴のバディアクションもとても面白かったです。

様々な異能を持つ偽生者を相手に、できたてほやほやのバディがぎこちなく共闘を始める。
そして幾度かの失敗や衝突を経て、限夏と伴の間に絆が芽生え始めていく。

こういうお話とても好き。
衝突や失敗はあれど、それは伴の異能と限夏のモットーが相反するゆえに生じるもの。
二人の足並みがなかなか揃わないのは、決して二人が無能だからではないのです。
このあたり、無駄なイライラを感じさせずに二人に障害を置く構成がとても上手いと感じました。

 

そして伴のキャラもまた良かった。
不死ゆえの苦悩とい設定自体に目新しさはないのだけど、その「苦しみ」を徹底的に残酷に描いたことに独自の読み応えを感じます。
「嫌いなものは月とセックス」の強烈な一文、意味を知ってしまうと更に強烈だった・・・・・・特に「月」が。
ところで伴がずっと孤独でいるってことは、偽生者も(返殺から免れても)寿命で死ぬってこと?

 

上にも書いたように、まだまだ掘り下げる余地のある作品だと思います。
「偽生者」がなぜ生じるのかも分かりませんしね。

シリーズ化に期待しています!

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