少女の救済から始まる崩壊と祈りの物語 『 私が大好きな小説家を殺すまで』/斜線堂有紀


私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)
私が大好きな小説家を殺すまで (メディアワークス文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★★
2018年10月刊。
凄い・・・・・・凄い物語でした・・・・・・
居場所を失った少女と、スランプに苦しむ天才小説家。
彼との出会いによって彼女は確かに救われたはずなのに、彼女と彼の世界は緩やかに崩壊へと向かっていくのです。
作中を埋め尽くすのは二人が交わす憧憬と失望、愛情と憎悪、そして殺意と祈り。
途方もなく大きく、割り切れないほど複雑で、底が見えないほど深い感情のうねりに目眩がしました。
読んでる間はひたすら息苦しく、終盤はもはや意識が朦朧としていました。
そして読み終わった今はこんなにも辛い。とても苦手なお話なのに、どうしようもなく囚われてしまう。
改めて、本当に凄い物語でした。

☆あらすじ☆
突如失踪した人気小説家・遥川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった少女の存在があった。
遥川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遥川が小説を書けなくなったことで事態は一変する。梓は遥川を救う為に彼のゴーストライターになることを決意するが――。
才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女、そして迎える衝撃のラスト!
なぜ梓は最愛の小説家を殺さなければならなかったのか?

以下、ネタバレありの感想です。

 

憧れの相手が見る影もなく落ちぶれてしまったのを見て、「頼むから死んでくれ」と思うのが敬愛で「それでも生きてくれ」と願うのが執着だと思っていた。

この鮮烈な冒頭の一文を見た時、私は最初「え?逆じゃない?」と思ったんです。
「憧れ」という自身の感情を向けていた相手の変化を許せず、「憧れ」のまま時間を止めてほしいと願うことこそ執着じゃないのか、と。
どんな理由があろうと相手の死を願うことを「敬愛」だと思いたくなかったというのもあります。
「敬愛」って、人を敬い、親しみの心を持つことを言うんですよ?何をどうしたら死を願うことに繋がるの?
いや待て、そもそもそれって、どちらも形を変えただけの「執着」なんじゃないの?

 

むう・・・・・・私には分からない。

 

しかし余人に分からない言葉だからこそ、この物語の「導入」に、これほど相応しい一文はないのかもしれません。
そして、この一文の意味が分からない私は、最後までこの一文の意味を考え続けることになるのです。

 

さて、物語は、人気小説家の失踪から始まり、彼の部屋に残された私小説という形で、ある少女と小説家の出会いから始まる二人の日々を描いていきます。

母に見捨てられたことで居場所をなくし、死ぬために踏切の前に立った小学生・幕居梓
そんな彼女に声をかけたのは、彼女が心から愛していた小説の作家・遥川悠真だった。

憧れの相手。心の拠り所だった小説を生んだ人。
暗くて狭い場所から、気まぐれに救ってくれた美しい男。

梓は最初から最後に至るまで、ただただ一途に遥川を見つめ続けます。
そんな彼女が抱く感情は、「信仰」という言葉が一番しっくりくる気がする。
梓が遥川に寄せる想いには様々な色合いがあって、時としてゆらゆらと移ろうのだけど、そこには常に「敬愛」も「執着」もあって。

たった一人の「神様」に対する祈りにも似た期待と、「人」に落ちていく彼に対する絶望にも似た殺意。

冒頭の一文を思い返しながら、どちらが敬愛で、どちらが執着なのかとずっと考えていました。

でも、梓にとって、果たしてそれはどちらかに割り切れる感情だったのでしょうか。

敬愛も執着も、愛情も憎悪も、あまりにも曖昧に混ざりすぎている。
彼女が持て余す巨大な感情を上手く表現する言葉が見つからないのです。
それこそ「信仰」としか言いようがない。およそ「人」に向けるべき感情だとは思えないから。

 

スランプに苦しむ遥川を見つめながら、「自分が愛した小説家」の面影を探し続ける梓。
自分を救ってくれた神様の崩壊を誰よりも悲しんでいるのに、自分こそが崩壊を後押ししてしまった罪深き少女の苦悩。

そんな梓の追憶を読みながら、どうしても考えてしまいます。彼女はどうすれば良かったのか、と。

もしも梓が小説を書かなければ?
もしも梓が「人」としての遥川を受け入れていれば?
もしも二人が出会わなければ?

イフを考えることは虚しいものです。
そして、考えれば考えるほど、「遥川悠真の小説」を愛していた梓には他にどうしようもなかったのだと深く納得してしまい、ますます虚しさが心に広がっていくのです。

 

最後の最後で、私は自分の勘違いに気が付いたのだ。

そう言って梓は自分の心に答えをだしていたけれど、彼女が選んだ方法は遥川を守り、彼が書こうとしたテーマを体現することでした。
それは今までの彼女から、実のところ、何ひとつ変わっていないのではないでしょうか。

大切な神様から大切なものを奪ってしまった罪人は、懺悔さえも独りよがり想いはどこまでも噛み合わない。

結局、「敬愛」も「執着」も梓の抱く「信仰」の側面に過ぎなかったように思えるんですよね。
執着と信仰を切り離すかのような彼女の見方には違和感がある。
だって、最後まで神様としての遥川を敬愛し、執着していたから、梓はあの方法を取ったんでしょう?まるで殉教者のように。違うのかな。

 

分からない。という気持ちから読み始めた物語は、翻弄するだけ翻弄して、やっぱり良く分からないまま。
最後に見つけた「第三の感情」にこそ希望を見つけたいけれど、それはもはや遅すぎて――

 

そこで、ふと、遥川の内面に思いを馳せました。
彼は最期に何を考えていたのだろう。どこまでも狂気的に純粋な信仰を寄せる少女に対して、彼を守ろうとした彼女に対して、遥川は何を思ったのだろう。
梓が命懸けで守り、「生きていて欲しい」と願った自分を殺してしまうことは、なんと痛烈な意趣返しなのでしょうか。もはや復讐だったんじゃないの?
ビタミン剤を混ぜていた彼が、梓が生き残る可能性を本当に考えなかったのかな?

 

全てをバラして、台無しにして、自分は消えて・・・・・・ 
罪悪感だけでは説明がつかない。「一時の感傷」という言葉では説明しきれない。愛とか恋とか、そういう感情では纏められない。
遥川って、全てがどこか中途半端なんですよね。神様になりきれず、天才になりきれず、優しい家族になりきることもできなかった。
あまりにも繊細で、脆くて、弱い遥川悠真。私の脳裏に浮かぶ彼は、いつだって泣きそうに顔を歪めているイメージです。そんな彼が私はとても好きでした。

 

ああでも遥川の最期の場所が聖地巡礼されるなんて。
死後、彼は本当に神様になったのか。皮肉が効きすぎて心臓が痛い。

 

ふぅ・・・とため息をつきたい気分です。
序盤からずっと痛めつけられた精神がヘトヘトにくたびれている。
私はこういう作品が本当に苦手です。爪痕をくっきりと刻まれて、今もまだ頭がぼんやりしている。
でも本当にすごかった。読んで良かった。とても面白かったです。

 

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「少女の救済から始まる崩壊と祈りの物語 『 私が大好きな小説家を殺すまで』/斜線堂有紀」への2件のフィードバック

    1. 茶一こりんさん、コメントありがとうございます。

      本当にそうですよね・・・・・・
      この苦しさはなかなか無いレベルでした。メディアワークス文庫、恐るべし

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