自然の中に生きる草原の民の日常を描く遊牧ファンタジー『遊牧少女を花嫁に』/江本マシメサ


遊牧少女を花嫁に (PASH! ブックス)
遊牧少女を花嫁に (PASH! ブックス)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年10月刊。
江本マシメサ作品といえば、厳しい北国での新婚生活をあたたかく描いた『北欧貴族と猛禽妻の雪国狩り暮らし』(宝島社)が私の大のお気に入り。
見知らぬ異国のお話なのに、どこか人の営みの原風景を感じてノスタルジーに浸れる良い作品なのです。
現代社会に生きる私からすれば厳しく感じる日々の生活を、手を取り合って仲良く過ごす新婚夫婦の姿に心がときめくところも好き。あれは名作なので是非たくさんの人に知られてほしい。ちなみにコミカライズが最近発売したばかりです。

 

そして本作は、そんな『北欧貴族』を描いた江本さんの本領発揮を感じる新作異国婚姻譚。
トルコの文化と遊牧民の暮らしをモチーフとした遊牧ファンタジーです。
『北欧貴族』と舞台は異なるのだけど、こちらもノスタルジックな心境を気持ちよく感じながら異国情緒を堪能できる良い作品でした。
遊牧民の文化や風習が丁寧に描かれており、優しくて温かい人々に癒やされながら自然と物語に没入できました。
「精霊から与えられる加護」というファンタジー設定がまた程よい味付け。
不遇な羊飼いの少女が調停者の青年と出会い、少しずつ「心」を取り戻していく―― というラブストーリーも素敵でした。ふたりの初々しい距離感がたまりません。
たぶんシリーズものですよね? 続きがとても楽しみです。

☆あらすじ☆
江本マシメサ 異国恋愛物語・最新作!
“調停者”の青年と羊飼いの少女。新婚夫婦が紡ぐ、甘くて優しい遊牧ファンタジー
風の精霊の加護を受ける“調停者”一族「ユルドゥス」の青年・リュザールは、都からの帰路、羊飼いの少女・アユと出会う。ワケありな彼女を見かね、一族の遊牧地に連れ帰ると、なんとそのまま二人は結婚することとなり、思いがけない新婚生活がスタート。
乳製品を作り、絨毯を織り、料理に洗濯…大忙しでも賑やかな遊牧生活。
故郷では虐げられ生きてきたアユは、ユルドゥスの文化に戸惑いながらも、リュザールとの暮らしのなかで、次第に生きる希望を見出していく光を取り戻していく――。

以下、ネタバレありの感想です。

 

借金のカタに売られ、その途中で「侵略者」に襲われた遊牧民の少女・アユ
叔父に見捨てられる形で「調停者」の一族ユルドゥスの青年・リュザールに拾われたアユは、誤解と勢いの結果、リュザールの花嫁としてユルドゥスに迎え入れられることになる。

 

というわけで、本作はリュザールとアユの新婚生活を通し、草原の民の日々を描き出す遊牧ファンタジーとなっています。
本作では「精霊」が草原の民の身近に存在し、彼らに「祝福」と呼ばれる特殊な能力を与えていることが重要な要素となっており、そのあたり「ファンタジー」色が強い作品となっています。
一方で、食や風習や文化などの日常生活の描写は非常にリアルかつ丁寧(かつ美味しそうに!)に描かれていて、「精霊」の存在はそこに自然と溶け込んでいるのです。
世界観の強度がばっちりなので読者としても物語世界に没入しやすく、異国情緒溢れる新婚生活を心ゆくまで楽しむことができました。

 

さて、そんな強度完璧な世界観で描かれていくユルドゥスの生活。
ユルドゥスは精霊の祝福によって風を操り、侵略者から遊牧民を守る「調停者」の一族なのですが、この巻では「調停者」としてよりも「(特殊な文化を持つ)草原の民」としての側面が強く描かれていたように感じました。まぁ作中で「侵略者」が本格的には登場していないから当然かもしれない。
話が進めば「調停者」としての仕事ももっと詳しく描かれるのかな?期待しましょう。

 

で、「草原の民」としてのユルドゥスの日常が主に描かれていくわけですが、これがすごく面白くて!
一族の外から嫁を迎え入れての新婚生活を主軸に置いているため、一族に入るための試練→結婚するための試練→結婚までの各種儀式の手順→新生活の準備→そして始まる新婚生活―― という感じで日常生活と特殊イベントの両方を無理なく無駄なくスムーズに見せてくれるのです。
食生活だけ見ても、日々の食事、旅の食事、お祝いごとの食事と、色々な「食」が登場し、そのどれもがとても美味しそうでワクワクしました。私もアユのつくったご飯が食べたい・・・!

 

壮大な自然のなかに生き、ゆったりとした時間が流れる中で日々の仕事をこなしていく草原の人々。
大らかな生き方に見えて、彼らは毎日をとても忙しそうに過ごしている。それは矛盾しているようで、とても自然体に見える。なんだか少し不思議な気分になりました。
・・・・・・ただまぁオーバーワークなアユのせいで余計に忙しそうに感じるのかもしれないけれど(笑)

生活に必要なものをひとつずつ自分たちで作っていく姿には尊敬と憧憬を感じてしまいます。
あんな風には生きられないから、自然と共に生きる彼らの姿がまぶしく見えるのかもしれない。
たぶんエシラも私と同じく草原では生きられない子だと思うんですよね。嫁がアユで大正解。

 

異国情緒あふれる物語は、リュザールをはじめとするユルドゥスの優しい人々に迎えられたアユの変化も描いていきます。
物語序盤では折れてしまっていたアユの心は、リュザールとの出会いによって少しずつ本来の輝きを取り戻していくことに。
少しぶっきらぼうだけど素直で優しいリュザールと、徐々に草原の女らしいタフなメンタルを見せてくれるようになるアユ。
誤解と勢いで結婚を決めたものの、二人はとてもお似合いのカップルでした。初々しい距離感がまた良い。

お互いが必要であることを日々の暮らしの中で丁寧に確認していくリュザールとアユ。

それは最初の「私は必要?役に立つ?」という問いに対する「それは連れて行くと判断した俺が決める」という台詞の有言実行であり、「諦めずに、やるんだ!」という発破に応えようとするアユの努力であり――
アユが頑張るほどリュザールの中で彼女の存在は大きくなっていくし、アユの頑張りを認めて大切にしてくれるリュザールにアユは惹かれていく。
そんな二人の進展が本当に丁寧に描かれていて、ラブストーリーとしても素敵な物語だったと思います。
いやぁ、ほんと良いカップルだ。初々しすぎてニコニコしてしまうw

 

もはや1冊で満足しつつあるのだけど、アユを失ったハルトスの不穏な雰囲気(アユがユルドゥスにいることが知られたらどうなるのだろう?)とか、リュザールがアユに精霊の力を使わないでほしい理由とか(たぶん説明してないよね?犠牲以外の理由っぽい?)などの伏線が残っているので恐らくシリーズものですよね。
続きを楽しみに待ちたいと思います。

 

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