神に食を捧げる美味宮候補となった少年の成長を描く和風ファンタジー 『双花斎宮料理帖』/三川みり


双花斎宮料理帖 (角川ビーンズ文庫)
双花斎宮料理帖 (角川ビーンズ文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年10月刊。
「一華後宮料理帖」のスピンオフ作品であり、同作を知らずとも楽しめる新作です。
時系列は「一華」の1年前。そして舞台は「一華」主人公の母国である和国。
神と斎王に食事を作る「美味宮」の候補に選ばれながらも出世の足がかりとしか考えていなかった少年が、修行で失敗したり食を通して人との関わりを見つめ直すうちに、やがて自分の居場所を見つけ出す成長物語となっています。
連作短編形式で綴られており、主人公や斎宮寮の優しい人々が織りなす人間ドラマがみどころ。
決して派手なお話ではないのだけど、じんわりと心に残るような丁寧な作品だったと思います。
これもシリーズ化するといいな。期待しています!

☆あらすじ☆
「食」を通じて少年たちは結び合う。「一華後宮料理帖」に連なる新作登場!
「おいしい」と笑ってくれたら――それが、私の居場所。
父が流罪となり、元服できずにいた真佐智。ある日、当代が異国に嫁ぐため一年後に空位となる、美味宮候補に選ばれる。神に食事を捧げるだけの閑職と知って都へ戻る決意をするも、料理経験のない真佐智は失敗ばかり。そんな中、世話係となった炊部の少年・奈津から「なぜ、美味宮になりたいんだ」と覚悟を問われ……!?
「食」で結び合う少年たちの和風ファンタジー!

以下、ネタバレありの感想です。

 

父が今上帝の怒りを買い失脚したことで、後ろ盾もなく元服すらままならない少年・真佐智
そんな彼に降って湧いたのは「崑国に輿入れする当代の美味宮に代わり、一年後、美味宮になってもらえないか」という要請。
これは苦しい現状を打破し出世の足がかりになると考えた真佐智は、美味宮候補として斎宮寮へ向かい、そこで修行することになるのです。

 

というわけで、物語の舞台は「一華後宮料理帖」の主人公がまだ「理子」という名で「美味宮」を務めていた頃の和国。
理子はほんの少し登場するだけであり(重要な役回りはこなすけれど)、基本的には父親への愛憎をこじらせ、出世への焦りの中で自分を見失っていた少年・真佐智の成長を描く新たな物語となっています。
とはいえ、理美が務めていた「美味宮」がどんな仕事なのか「一華」で理美の脳内に登場していた斎王はどんな人物なのかが詳しく語られるなど、「一華」読者なら楽しめる要素もたくさんあり、そのへんはスピンオフ作品として上手い塩梅だと感じました。

 

さて、この新たなる主人公の真佐智に対し、まず最初に思ったのは「えっ!ほんとに男の子なの!?」でした。
作中でも散々容姿をからかわれているけれど、いやいや表紙・挿絵を見てくださいよ。どう見ても美少女じゃん・・・・・・凪かすみ神による渾身の美少女顔じゃん・・・!
(性別隠す男装モノを読みすぎたせいか)「そう言っても実は女の子なんだろ?」とか超疑ってました。どれだけ真佐智が否定しても疑ってた。
野郎どもと一緒に堂々とお風呂入るシーンがなければ今も疑っていたと思います。あれ?もしやあのお風呂シーン、私みたいな疑り深い読者を想定した保険だったのでは??

 

そんな見た目美少女の真佐智ですが、中身はファザコンをこじらせた打算的で未熟な男の子。
「一華」の理美とは正反対なキャラ造形が面白いと思いました。
理美はぽやんとして呑気で時折神がかり的な振る舞いをするのに対し、真佐智はピリピリしていて繊細で少し俗物的でどこまでも人間くさい感じ。
大人になりたいのに大人になりきれず、そんな自分への焦燥感で苦しむところも印象的で、そこがまた真佐智の幼さを強調するんですよね。
特に父親に対する失望と思慕が混ざり合った鬱屈を持て余すところとか。
その想いは真佐智の成長物語においてずっと真ん中に居座るのだけど、最終的に親離れする形で昇華されたのがとても良いと思いました。
現実逃避で父に反発するのではなく、単純に与えられた愛を喜ぶのでもなく、自分の道を自分で歩もうとする意思こそが「成長」。ファザコン少年の物語として上手い落としどころだったのではないでしょうか。

 

そんな真佐智の成長を見守り、支えるのが陰陽寮の同僚たち。
特に指導役にして相方になる奈津との関係が良かったなぁ。
少年同士の不器用な繋がりが、やがて友情の芽生えへと変化する様子に少年漫画的な青春を感じました。

奈津といえば、頭の小君との淡いロマンスが切なくて切なくて。
サラッと描かれた斎王と冬嗣の関係もそうだけど(出世の道を捨てても傍にいることを選ぶとか何というエモ)、清くあることが求められる神聖な斎宮寮で描かれる恋だからこそのプラトニック。
それは最上の幸せではなくとも決して不幸ではなく、彼らの恋にとっては救いでもあって・・・・・・
ああ、でも奈津と頭の小君はこのままなのかな。奈津の境遇ってもうどうにもならないのかなぁ。
うーん、彼は彼で今の仕事に誇りを持っているのだし、身分が戻ってくる展開がベストではないのかもしれないけれど。

 

未熟な少年の成長譚としても、斎宮寮の優しい人々の複雑に揺れる心を描いた人間ドラマとしても楽しめる1冊でした。
まだ真佐智の父と御門の間に何があったのか(横恋慕という噂の真相は?)という点が伏線で残っていると思うのでシリーズ化するのかな?
期待して待っています。

 

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