キミの忘れかたを教えて/あまさきみりと


キミの忘れかたを教えて (角川スニーカー文庫)
キミの忘れかたを教えて (角川スニーカー文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年9月刊。
田舎町を舞台に、余命宣告された青年が逃げ出した青春をやり直す物語。
主人公が抱える劣等感と自己嫌悪があまりにも痛々しく、かつ生々しく描かれていて、思わず彼に感情移入して辛くなってしまいました。
それでいて負の感情を生み出していたはずの幼馴染みとの関係は切ないほどに純粋。
音楽によって絶たれた関係が、音楽によって再び繋がっていく姿はどこか切なくて・・・・・・
個人的に病気モノは苦手なのだけど、読んでよかったです。幸福な気持ちが、心に儚く残るような読後感も素敵でした。

☆あらすじ☆
俺はもう死にゆく身、なのにお前はそれを許さない――青春感動巨編、開幕!
「残された余命は半年――、俺はこのまま死ぬつもりだった」
 大学を中退してニートとなり、生きる価値がないと感じていた松本修は、昔からの悪友・トミさんの誘いで母校の中学校を訪れる。そこには芸能人となってしまった因縁の幼馴染み・桐山鞘音がいて……。この出会いが再び修の運命を突き動かす。
『天才ゆえの孤独を抱えたヒロイン、凡才ゆえに苦悩する主人公。二人のすれ違いと、遠回りな青春に引き込まれました』
『逃げて逃げて、逃げ続けたクズに残った一つの約束。胸が熱くなりました』発売前から感動の声多数。掴めなかったチャンス、一度何かを諦めてしまった人に贈る、大人の青春物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

医師から余命宣告を受けたものの、自分を「ゴミクズ」だと自虐する松本修はいつ死んでも構わないと思っていた。
しかし、兄貴分の豊臣正清に外に連れ出され、関係を断っていた幼馴染みの桐山鞘音と行動を共にするうちに、修は今まで逃げ続けてきた「青春」に向き合いたいと思うようになるのです。

 

隣近所みんな親戚のような人間関係の濃い田舎町。
廃れつつある町の様々な場所に小さい頃からの思い出が詰まっていて、物語の前半はその思い出をたどっていくようなストーリーでした。
それは、楽しそうな雰囲気なのに心がギュッと切なくなって無性に郷愁を誘うもの。こういう大人の夏休みみたいなお話、とても良いですね。

 

ただ、この物語は最初から最後まで「松本修の挫折と逃避」を徹底的に描こうとする作品であり、どれだけ楽しそうに時間を過ごしていても、読者は決してそれを忘れさせてはもらえないのです。

 

特に、後半で回想ターンに入ってからの「なぜ修は鞘音から逃げたのか」が詳しく語られるストーリーは、こちらの心を抉るかのような重々しい描写が強烈でした。
村祭りのライブ演奏までは楽しみつつも軽い気持ちで読んでいたのに、この過去編が始まってすぐに姿勢を正したくらいです。
当時の修が鞘音に対する想いはあまりにも痛々しくて、彼の劣等感とちっぽけな自尊心の生々しさに、思わず共感してしまったので・・・・・・

 

自分と幼馴染みの才能の差を思い知らされ、勝手に劣等感をこじらせ、かと言って努力をするわけでもなく、「苦悩しているふりだけが上手い男」。
自己評価が辛辣だけど正にその通りで、そうやって「天才」と「凡才」という言葉であっさり自分たちを線引きし、修は立ち向かう前に逃げたわけです。
しかも、心はとっくに折れていたくせに、鞘音の隣にいるために無意味な時間稼ぎをし続けた。
何も生み出さず、すれ違いを重ね、鞘音の時間すら浪費した学生時代。
そういう自分のダメさを、自分自身が分かっているからこそすり潰されていく自尊心。

そんな風に自己を振り返る修の姿が、読んでいて辛くて辛くて。それでも読む手は全く止まらないほど物語に引き込まれていました。

 

まだ15歳の少年の心に、どれだけの傷が付けられたことだろう。
天才との差に戦いて、目をそらして、逃げ出したとしても、私は「仕方ないよ」と思ってしまうけれど。
ずっと修を待っていた鞘音は勿論可哀想だけど、こんな拷問みたいな自己嫌悪を抱え続ける思春期の方が地獄でしょ、って。
もうね、雨の中で修を待つ鞘音を目撃したシーンとか本当にきついんですよ。
「絶望から逃げた奴を、希望で追わないでくれ。」の一文だけでもすごく苦しかった。

 

そうやって逃げて逃げて逃げ続けて、余命宣告という行き止まりに辿り着いて、ようやく鞘音と向き合う覚悟ができた修。
「最後に笑って死にたい」とかヤケクソみたいだと最初は思っていたけれど、過去編を読んだ後ではその人間くさい不器用さすら愛しくなりました。

 

そんな修をずっと待ち続けていた鞘音。
彼女の方は最初から修への未練がダダ漏れで(あらすじに「粘着質」と書いてあるくらいなので笑)、そこが可愛いヒロインでした。
ただ、その真っ直ぐで純粋な想いはとても眩しかった。
あまりにも眩しすぎて、そりゃあ自己嫌悪こじらせた少年には直視できなかっただろうね、と思うほど。
でも「逃げ続けるあなたに向かって歌い続けた!! 叫び続けた!!届け!!届け!!届けって!!」のセリフがすごく良くて、あのシーンで一気に鞘音を好きになりました。
修を追い詰めるのも、修を振り向かせるのも、鞘音だからこそできること。ラストシーンは二人の絆の強さにただただ感じ入るばかりでした。

 

ぎこちなくも再び繋がり、昔のような強さを取り戻していく修と鞘音の絆。
二人の間にはずっと音楽があり、最後までその存在感を発揮していたところも素晴らしかったと思います。
無意味と思われた空白の時間すら、二人にとっては意味のあるものだったという救いも素敵。
本当に良い青春小説でした。すごく充実した気分です。

 

さて、あとがきには、

この物語は、ここまではプロローグであり、完結はしていません。
もしかしたら、結末は書かないほうがいいのかもしれません。

とあるのですが、う〜〜〜〜〜ん、どうしようか。
私、死に別れるやつ苦手なんですよね。そしてエピローグの雰囲気的にこの先の二人を読むのがめちゃめちゃ怖い。
このエピローグ、未来への不安を残しつつも今を幸せに生きているという、儚くも幸福な読後感がとても心地良いんですよね。
なので、この先のことはなんかご都合な奇跡が起こって二人は末永く幸せに暮らしましたとさ的な妄想で誤魔化したいなぁ・・・・・・とか、思っていたり・・・・・・
もし続編が出ても、読むかどうか本当に悩みます。ああ困った。

 

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