ハル遠カラジ/遍柳一


ハル遠カラジ (ガガガ文庫)
ハル遠カラジ (ガガガ文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年6月刊。
地上から多くの人々が消えた世界で生きる、ロボットと少女の旅を描いたSF小説。
ポスト・アポカリプスなSFとしても読み応えがあるのだけど、それ以上に「家族」の物語として素晴らしい作品だと思います。
冷たい機械の身体と、ブラックボックスな心を持つロボット。
温かい身体を持つけれど、歪な倫理観をもつ人間の少女。
人の少女を育てたロボットは、過去を振り返りながら苦悩し、後悔し、懺悔をするのです。
病を抱えたロボットの人工知能が生み出すドラマが最高でした。とても面白かったです。

☆あらすじ☆
たとえそれが、人でなかったとしても。
これでも私は、身のほどはわきまえているつもりである。
武器修理ロボットとして、この世に産まれた命。
本来であればその機能を駆使して人間に貢献することが、機械知性の本懐とも言えるだろう。
しかし、どうもおかしい。
人類のほとんどが消え去った地上。主人であるハルとの、二人きりの旅路。
自由奔放な彼女から指示されるのは武器修理のみに留まらず、料理に洗濯と雑務ばかり。
「やるじゃねえか、テスタ。今日からメイドロボに転職だな」
全く、笑えない冗談である。しかしそれでも、ハルは大切な主人であることに違いはない。残された時を彼女のために捧げることが、私の本望なのである。
AIMD――論理的自己矛盾から生じる、人工知能の機能障害
私の体を蝕む、病の名である。
それは時間と共に知性を侵食し、いつか再起動すらも叶わぬ完全停止状態に陥るという、人工知能特有の、死に至る病。
命は決して、永遠ではないから。
だから、ハル。
せめて、最後のその時まで、あなたとともに――。
第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞を受賞した『平浦ファミリズム』の遍柳一がおくる、少しだけ未来の地球の、機械と、人と、命の物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

世界中の人々が謎の消失を遂げた世界。
数少ない生き残りである人間の少女・ハルと、彼女の従者である武器修理ロボット・テスタは、テスタの抱える病を治す医工師を探すために旅をしていた。

テスタが抱える病とは、論理的自己矛盾から生じる人工知能精神障害「AIMD(エイムド)」。
ハルとの旅を続けるなかで、何度もAIMDの発作に襲われるテスタは、機能停止中に見る夢の中で自らが犯した罪を振り返っていく――

人を守るために製造され、人を殺すための武器を造る機械。
これは、そんな風に冷静に自己を分析した結果、その矛盾に耐えきれずに崩壊していく人工知能の物語なのです。

 

ロボットが主人公であるのに、驚くほど豊かに描かれているのは暗い情感。
テスタの語り口は人と見紛うほどに感傷的なのに、悩みの原因は彼女(!)が人工の存在であることに基づくわけで・・・・・・その少し不思議な構造がとても新鮮でした。
人の心に近づきすぎて、人ではない存在であることの葛藤が深くなっているような。
人ならば有り得ない「明確に定義された自己の存在意義」が苦しみに繋がっているというか。
そういうアンバランスな存在を主人公に置いていることが、この物語を読み応えあるものにしていたように思えました。

 

そんなテスタが守り、大切に育ててきた人間の少女・ハル。
テスタがハルを「人間らしく育てたい」と願うことは愛がある感情だと思うのだけど、同時に保護者の傲慢も感じたりもするんですよね。

人間らしいってなんだろう。
どんな人間なら「人間らしい」と言えるのか。
そもそも人工知能は人間性を定義できるのか。

そういう根本的な疑問を抱きつつ、もっと単純な話として、テスタの抱く「人間はこうであってほしい」という理想をハルに押し付けているようにも見える。
そういうところも全部ひっくるめて「母と娘の物語」らしいなというふわっとした印象を抱きました。
だってこれ、色々な要素がひっついてるけど、要するに「自分は子育てに失敗したのではと不安がる母と、母の命を心配しながら素直になれない娘」の話じゃないですか。
ある意味、とても普遍的な関係性なのではないでしょうか。

 

でもそれを「ロボットと人間」の関係の中で描くからこそテスタの悩みは深くなるし(自己承認の欺瞞ではないか、という指摘は本当に面白かった)、その葛藤を経て叫んだ「私の『娘』に、手を出すな」のセリフに胸が熱くなるのでしょう。
私の貧困な語彙力ではこのエモさを上手く説明できなくてもどかしい・・・!

 

詩的で憂鬱な文体と、静かに流れるように進む展開、そして終末世界の寂しさの中で躍動する命の強さ。
上手く言えないのだけど、文体、舞台、キャラクター、設定が上手く噛み合っている作品だと思いました。とにかく好き!

 

良いSF家族ドラマでした。
人が消えた謎(というか白い人たちの正体)とか微妙に明らかになっていない部分があるので、ぜひ続刊をお願いします。

 

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