お狐様の異類婚姻譚 元旦那様に求婚されているところです/糸森環


お狐様の異類婚姻譚 元旦那様に求婚されているところです (一迅社文庫アイリス)
お狐様の異類婚姻譚 元旦那様に求婚されているところです (一迅社文庫アイリス)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年6月刊。
誑かそうとする狐の元夫と、誑かされまいとする人の元嫁の攻防を描いた和風ファンタジー。
『花神遊戯伝』を思い出させる、麗しくも残酷な神話的世界観が最高でした。個性とセンスが光りすぎ!
肝心のストーリーは、溺愛人外ラブの皮を被った「人と怪の化かし愛」といったところ。
「嫁に来い」「いやです!」の掛け合いに込められた二人の想いは、物語が進むなかで、くるくると万華鏡のように変化していくのです。特にラストのヒロインのモノローグがとても秀逸。
さて、この恋で一枚上手なのはどちらだろう?
初恋をこじらせたヒロインの想いは届くのか?
この先の展開がぜひ見たいので続編をお願いします!

☆あらすじ☆
「嫁いできてくれ、雪緒。……花の褥の上で、俺を旦那にしてくれ」
幼い日に神隠しにあい、もののけたちの世界で薬屋をしている雪緒の元に現れたのは、元夫の八尾の白狐・白月。突然たずねてきた彼は、雪緒に復縁を求めてきて――!? ええ!? 交際期間なしに結婚をして数ヶ月放置した後に、私、離縁されたはずなのですが……。
薬屋の少女と大妖の白狐の青年の異類婚姻ラブファンタジー。 

以下、ネタバレありの感想です。
ちなみにネタバレ注意系作品だと思います。ご了承ください。

 

「狐」は化かして誑かすもの。
どれだけ甘い言葉で誘惑してきても、その言葉の裏には打算がある。
純粋な愛を求めるならば、囁かれる愛を受け入れてはいけない。

というわけで、本作はお狐様な元旦那・白月から「嫁にこい」と迫られる人間の少女・雪緒が、白月への初恋をこじらせながらも「嫌です!」と拒絶し続ける物語です。

 

やたら楽しそうに復縁を迫る白月のアピールをかわしたり、常連客の大妖・宵丸のペースに巻き込まれて脱力したり、横恋慕の女狐・鈴音に誘拐されたり命を狙われたりと、急展開に次ぐ急展開で進んでいく本作。
雪緒が2度目に誘拐されたあたりで「まだこんなにページが残ってるの!?」と驚いたくらい密度が濃いお話でした。だいぶ忙しなかったですね。面白かったけれど。

 

6割方緊張状態にあるなか、残り4割でこれでもかと投下されるのは白月によるド甘い誘惑
「蜜をからめたかのような甘い声」と最初に描かれる通り、デロデロの甘さで白月は復縁に誘い続けるのです。
一方の雪緒も復縁自体は断りつつも、初恋相手を前に完全な拒絶はできない有様で・・・・・・

 

ここで浮かび上がる「そんなに好きなのに、何で復縁を嫌がるの?」という疑問。これが本作の肝に当たるわけです。

 

雪緒が白月の求婚を断る理由は一言でまとめれば「好きだからこそ受け入れられない」に尽きるわけだけど、そんな風に彼女が頑なな態度を取る背景はとても込み入っていて。

幼い日に神隠しに遭い、異世界に迷い込んだこと。
本当の名前すら思い出せないこと。
唯一の居場所だった育ての親を失ったこと。

「ここは自分が本来いるべき世界ではない」という曖昧で脆いアイデンティティが、初恋相手を新たな拠り所にすることを躊躇わせるわけです。
しかも、相手は打算を隠していそうな狐の大妖で、すでに一度は裏切られている。これ以上は心がもたないと二の足踏むのも当然でしょう。
雪緒の怯えは個人的に納得がいくもので、彼女が繰り返す「嫌です」には途中から割と同情的に見ていました。
「自分を失う覚悟をするか、恋心を失う覚悟をするか。これを、そんなに簡単に決められるはずがない」というセリフに雪緒の想いが集約されているんだよなぁ・・・・・・

 

では「嫁に来い」と繰り返す白月の気持ちはどうなのか。
こちらが純粋に雪緒を慕っていて、愛情をもって求婚しているのなら、「雪緒は心配性だなぁ」と笑って済む話だったのにね。そうじゃないから面白いのだけど。
自身が神の座に昇るため、という理由から溢れ出す人外感。
打算を隠しているという雪緒の懸念は的確だったわけですよね。怖いなぁお狐さま。
更に怖いのはラストで明かされる一連の真実。
たしかに異類婚姻譚ってそういう要素が・・・・・・あ、そして糸森さんはそういうの好きだよね知ってる・・・!

 

雪緒に対して情もあるけれど、それは愛には未だ遠くて。
それが雪緒に伝わるから二人の攻防は平行線のまま。

ただ、同じやり取りを繰り返すなかで、白月に何かが芽生えそうな雰囲気を交えてくるのが上手いんですよねぇ。
打算をもって雪緒を愛そうとする白月が、打算を超えた何かを抱きそうな・・・・・・それは雪緒の望む「純愛」に間違いなくて、だからこそ期待が高まるというものです。
雪緒に対する「おまえ様」呼びが「ヨメ」扱いの表れならば、「おまえ!」と眼の前の小娘に声を荒げる白月こそが雪緒の求める姿なわけで。
あそこの白月が素をみせて喧嘩するシーン超好きでした。ああいうのが常態化すると楽しいのに。

 

複雑に入り乱れる恋模様をみせつつ、「・・・・・・本当に、俺の心も知らないで」「・・・・・・私の心も知らないで」と息ぴったりに溜息をついた白月と雪緒。
打算を隠した狐の男と、打算を知っている人の娘。
そんな二人の、予想以上にこじらせた関係が最高でした。
ラストの雪緒は狐の嫁に相応しいすっとぼけ具合でしたしね。そこまで全部お見通しの上で茶番劇を演じてたのかよ〜!
こういうの「化かし愛」って言うんじゃないかな。だって雪緒が知ってることを白月は知らないのでしょう?それってめっちゃ楽しくない???

 

どちらが先に堕ちるのか楽しみですねー。
まぁ雪緒が先に堕ちたらマズいのだけど。いや、どうだろう?ワクワクしますね!

 

そういえば翁は白月の本当の目的を知っていたのでしょうか。
彼女を守る保護者を求めていたはずなのに、それを良しとしていた?
神事がどのタイミングで完成するのかも微妙に分からないんですよね。
すぐ終わる話なら鈴音があそこまで悋気を燃やすのか?っていう疑問があるし。
このへんの詳しい設定も知りたいので、ぜひ続刊でお願いします。

 

余談ですが、私は登場キャラの中では宵丸がダントツで好きです。
宵丸が相手ならここまで面倒な事態にならなかったと思う。色んな意味で。怖。
でも話は噛み合わないくせに雪緒と息の合った掛け合いをみせてくれるところが楽しいんですよねぇ、宵丸。

 

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