後宮の烏/白川紺子


後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)
後宮の烏 (集英社オレンジ文庫)

2018年4月刊。
評価:★★★★★
面白かった!!

謎多き「烏妃」を主人公として、後宮で起こる怪異現象に隠された真実を描いていく中華幻想小説。
落とし物の持ち主探しから始まる烏妃と皇帝の物語は、やがて国の歴史を揺るがす壮大な秘密を暴くことになるのです。

表紙の美しさに心惹かれたら是非読んでほしい。
オリエンタルな中華後宮を舞台としつつ、花や鳥が舞い踊る幻想的な世界観がとにかく素晴らしいのです。そして寂しさと優しさが交錯する人間ドラマは読み応え抜群です。

また、烏妃のキャラ造形はとても秀逸で、その一点だけでも本作を推したい!
夜が似合い、心に傷と秘密があり、幻想的な術を操る孤高の美少女。それでいて人を突き放しきれずに餌付けされてしまう(!)お人好しの優しい女の子。
ああ、この主人公、最高に好きです・・・・・・

☆あらすじ☆
後宮の奥深くに、妃でありながら夜伽をすることのない、「烏妃」と呼ばれる特別な妃が住んでいる。その姿を見た者は、老婆であると言う者もいれば、うら若い少女だったと言う者もいた。彼女は不思議な術を使い、呪殺から失せ物探しまで、頼めばなんでも引き受けてくれるという――。
ある夜、時の皇帝・高峻が、烏妃のもとに訪れる。拾った翡翠の耳飾りに女の幽霊が取り憑いており、その正体を知りたいと言うのだが……。
少年時代、生母を皇太后に殺され、廃太子となって辛酸を舐めた皇帝、高峻。
神に選ばれし者と言われ、皇帝をして「誰も烏妃には命令できない」と言わしめる存在として生きる寿雪。
二人の巡り合わせは、歴史をも覆す「秘密」を暴くことになる……!
大ヒット『下鴨アンティーク』の著者がおくる、圧倒的中華幻想譚、開幕!

以下、ネタバレありの感想です。

 

代替わりしながら後宮に住み続け、夜伽をすることもなく、皇帝に従うこともない異質な存在『烏妃』
不思議な術を用いて招魂、祈祷、失せ物さがしなどの依頼を引き受ける烏妃のもとに、皇帝・夏高峻が訪れるところから物語は始まります。

今代の烏妃である柳寿雪は、重い事情を抱えた孤高の少女。
物語は、怪異現象をきっかけとする様々な事件を通して『柳寿雪とはどういう少女なのか』『烏妃とはいかなる存在なのか』という謎に迫っていくことになります。

 

本作はまず世界観が素晴らしいものでした。
細部まで丁寧に描かれた中華風後宮という舞台設定。それが土台となって物語を支えつつ、寿雪が生み出す幻術が物語に彩りを添える。
白川さんの他作を読んだときにも感じたことだけど、魔法的ギミックの描写がすごく良いですよね。
文章を読んで脳裏に浮かぶイメージがとても鮮やかで美しくて。

すっと、手を前にさしだす。手のひらが熱くなり、その上に花弁が現れる。一枚、二枚と花弁は増えてゆき、やがてひとつの牡丹となった。
牡丹は、ほのかに光をたたえている。それはゆっくりと淡い色の炎に変わった。寿雪は郭皓の手をとり、彼が持っていた翡翠の耳飾りを弓先につまむ。それから寿雪は、ゆらめく薄紅色の炎にふっと息を吹きかけた。
炎は煙のように姿がほどけ、翡翠の耳飾りを取り巻く。その向こうに、人影が現れる。
(『後宮の烏』108頁)

悲哀が強いストーリーのため、全体的に仄暗い雰囲気に包まれている本作。個人的な作品のイメージカラーは薄墨色だったりします(表紙のイメージにも引っ張られている)
だからこそ幻術の色彩的な美しさが印象に残るのでしょう。
寿雪が何かを生み出すたびに、その美しさにうっとりする私がいました。幻想的とはまさにこのこと。

 

そんな寿雪ですが、彼女はもう、ほんともう、なんというか、エモさの極みだなって・・・・・・

前王朝の末裔であり、発覚すれば首を刎ねられる身の上。
さらに『烏妃』となったことで押し付けられたのは不自由な運命。

秘密を守るために心を閉ざし、貫くべき孤独が心を擦り減らし、そして母を見殺しにした罪で自分自身を責め続ける寿雪。
彼女の抱える事情と内面が重すぎて胸が痛くなります。
それでいて人を突き放せない甘さこそが彼女の人間味が深い魅力的なところ。
幻想的で儚げな風情とは裏腹に、ぎこちなくも豊かな感情を見せる寿雪に惹かれない訳がありません。

 

そんな薄幸系美少女の趣でありつつ、チョロいところが尚良し。
何度も何度も懲りずに餌付けされる寿雪が可愛すぎました(*´∀`)
背景にあるのは食べ物に不自由した子供時代だから、これもまた彼女の不憫な生い立ちを感じさせるのだけど。
いやぁでも簡単に食べ物で籠絡される美少女って良くないですか・・・?(性癖)

 

一方で寿雪の秘密を探っていくのは、最初の依頼を経て彼女に強い関心を抱くようになった皇帝・高峻。
特殊事情はあっても一応は皇帝と妃の関係だし恋愛展開もあるのかな?と少し期待していたのだけど、そのへんは曖昧な描き方でした。
ただ、寿雪と高峻の関係性はあらゆる要素が対となっていて、そこがまた素敵なのですが。

正反対に位置する「凝光殿」と「夜明宮」。
昼の世界で人を統べる皇帝と、夜の世界で幽鬼を導く烏妃。
冬の陽だまりのような高峻と、夏の陽炎のような寿雪。
そして終盤で明かされる「夏の王」と「冬の王」。

様々な面で対象的に並び立つ存在でありながら、寿雪と高峻という個人はどこか似ている部分もあって。
二人とも大事な人を喪った過去があるからでしょうか。
互いに心の傷を抱える二人が共有する空気は唯一無二のものに思えて、もっと寄り添えればいいのにと何度じれったく感じたことか・・・!

 

だから、ラストの「私はそなたのよき友になりたい」という高峻の言葉は心に響きました。
深い傷も抱えた二人だからこそ、ゆっくりと歩み寄れたら良い。
いつか、寿雪が秘密と宿命から完全に解放されて、高峻や周囲の人々と穏やかな時間を過ごせるようになれたら良い。
そんな未来も遠くないように思える、温かなラストシーンだったと思います。

 

悲哀の中に優しさを感じる素敵な物語でした。とても面白かったです。話としては綺麗に終わっているけれど、シリーズ化したりするのでしょうか。
またこの世界観に浸りたいな。続刊が出たら嬉しいです。

 

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