さくら花店 毒物図鑑/宮野美嘉


さくら花店 ~毒物図鑑~ (小学館文庫)
さくら花店 ~毒物図鑑~ (小学館文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2018年4月刊。
植物の声を聞くことのできる花屋の女主人。
人の心を癒そうとする花に呼ばれ、彼女の花屋には心を病んだ人々が次々と訪れます。
これは、そんな花屋の怖くて優しい日常と謎を描いた連作短編集です。

宮野美嘉さんと言えば「幽霊伯爵の花嫁」シリーズ(ルルル文庫)などのヒット作を出した作家さん。
たとえコメディタッチに描かれていても、どこか仄暗さの滲む作風だと個人的には思っています。いつも誰かしら病んでいるから・・・

そして本作はまさに宮野美嘉!って感じの作品でした。誰かどころか、みんな病んでる。
花を愛し花に愛されるヒロインも、彼女の夫である気難しい樹木医も、夫婦のところに居候する少年も、そして花屋を訪れる客人たちも、心を病んだ人ばかり登場するんです。
そこが恐ろしくもあり、哀しくもあり、愛おしくもあり。特に主人公夫妻の歪みを感じる関係には要注目です。

ルルル文庫なき今、宮野美嘉さんの少女小説をまた読めるのか(ガガガのシリーズはあるものの・・・)と不安になっていたのだけど、小学館キャラブン!で読めるようですね。安心しました。

☆あらすじ☆
傷つき病んだ心を呼ぶ店――癒しの花物語。
住宅街にひっそりとたたずむ「さくら花店」。レトロな雰囲気の小さなその店にやってくるのは、心に深い悩みを抱える客ばかり。それは植物たちが、傷ついた人の心を癒そうとして彼らを呼び寄せているからだ。
そんな不思議な花店を切り盛りするのは、植物の声を聞くことができる、店主の佐倉雪乃。悲しい人々を救おうとする植物の願いを受けて、その手助けをするのが雪乃の仕事だ。
今日もさくら花店には、暗い顔をした客がやってくる。
「旦那を殺したら罪になるんですかね…」
呟く女性の心を救いたいと言う可憐な花たちの横で、雪乃はそっと微笑む。
「あなたはここへ呼ばれてきました。花は病んだ人を呼ぶんです。あなたは花に癒されるために、ここへ来たんですよ――」
不思議な力を持つ雪乃を支えるのは、極度の人嫌いでぶっきらぼうな樹木医の夫、将吾郎。
風変わりな夫婦の日々と、植物にまつわる事件を描く、優しくて怖い花物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

この世の植物は全て、人を癒やすために存在する。だから花は傷つき病んだ人を呼ぶ。
そんな花の声を聞くことができる佐倉雪乃が営む「さくら花店」には、今日も病んだ人々が訪れる。そして、花が発するSOSを受け取った雪乃は、彼らが抱える心の闇へと踏み込んでいくのです。

 

この作品、花の薀蓄をちりばめたミステリとしても面白いけれど、それ以上にキャラの個性がとても良かった。
特に主人公の雪乃。
序話で菊を買う女子高生に「人をいじめるって楽しいですか?」と聞いた雪乃をみて、ああ〜〜宮野美嘉〜〜ってなりましたw すごい宮野美嘉作品ヒロインって感じがする!

相手の戸惑いなどお構いなしに、初手から自分のペースに巻き込み、悪気はないけど毒気はある台詞でめった刺し。
どこかズレた感性を突きつけて、怒らせて泣かせて、でも気づけば傷ついた心を掬い上げてしまう。

花のために、人のために、他所様の問題に首を突っ込んでは解決してしまう雪乃は、まるで優しい嵐のようでした。

 

そんな彼女の悪癖に腹を立てつつ、なんだかんだ言って雪乃に付き合う旦那の将吾郎もクセの強さに惹かれてしまうキャラクター。
広島弁(?)で怒鳴りつける怖い人なのだけど、登場してすぐに雪乃に膝枕させてる姿を見て「あ!この人、めんどくさ可愛いタイプのツンデレだ!」と察しました。
ごろーさん、口は悪いし態度もいかついけど、ツンに包まれたデレが楽しすぎて好き。
自分も花の声が聞きたくてこっそり花に話しかけてるとか可愛すぎかよ・・・(あっさり花にバラされてるとこまで可愛すぎかよ・・・)

 

それぞれが良キャラで、ケンカップル的な掛け合いも可愛い佐倉夫妻。
ただ、この夫婦の面白いところは吾郎の抱える心の傷に由来する歪な関係にあると個人的には思うのです。

「そのくらい分かってますよ。私のことが人間に見えないから、ごろーさんは私を家に入れてくれたんでしょう?ごろーさんの目に、たぶん私は植物か何かに見えてるんでしょう?」
(中略)
「別にええんよ。人間だと思ってくれんでええんよ。別に好きになってくれんでええんよ。元気に生きとって、私のところに帰ってきてくれるんなら、それでええんよ。私はごろーさんの花じゃけえ、あなたを癒やすためにここにおるんよ」

このくだりを読んでヒヤッとしました。しかも実際に将吾郎は雪乃を人間だと思っていないという。
人間嫌いの将吾郎にとってそれは救いでもあるのだろうけれど、でもそれってそのままで良いの?とどうしても考えてしまいます。だって雪乃は人間なのに。

 

一方で、当人である雪乃は自然体でそれを受け入れてるのが印象的。

「何と言うか・・・・・・自分はもう一生分愛されたと思ったんです。これ以上はいらないと思いました。もらった分を返そうと思いました。その時からもう、私は人に好かれたいと思うことはやめたんです」

人に好かれることを気にしないからこそ雪乃の言動はユニークだし、それが他者の救いにもなっているのだけど。
それでも、夫である将吾郎に対してすら「好きになってくれなくていい」と笑顔で言い切れる姿を、私は寂しいと思ってしまいます。
相手の心を求めず、ただ癒やすだけの存在って、それ「花」そのものじゃん・・・・・・人の在り方としては儚すぎて怖い・・・・・・

 

「ただ自分が好きであればいい」という雪乃のスタンス自体は素敵だし、将吾郎だって雪乃を特別だと思っていることに違いはないんですけどね。
「人」として愛するか「花」として愛するかは大した問題ではないのかもしれないけれど、そんな二人の関係が互いの心の傷の深さを表しているように私には見えて、なんだか落ち着かない気持ちになるのです。
普段が言いたい放題の仲良しさんだから余計にギャップにドキドキするのかもなぁ。
ああ、でも、雪乃が「別に好きにならなくていいよ」と言った瞬間のゾワッとする感覚、超好きです・・・・・・

 

そんな彼らに拾われる少年・ヒロは傷ついた心を抱える少年だし、他のお客さんたちも歪んでいるし、まさに病んだ人のオンパレードな作品でした。
雪乃の店に訪れるのは誰もが相手の心を求めすぎて傷ついたり、心を押し付けられて傷ついた人たちばかり。
それって歪だと感じた雪乃の在り方とは真逆なのだけど、そちらもやはり歪なのがね。人は、かくも難しいのか。
店の特徴的に極端な人が集まるのは仕方ないにしても、彼らの闇を見れば他者に心を求めない雪乃の方が美しく感じてしまいます。ううむ、将吾郎の気持ちも分からないでもない・・・・・・

 

たくさんの花々とそれにまつわる薀蓄、そこから解き明かされる謎の数々も面白い作品でした。
そう言えば「さくら」というタイトルなのに、下に死体が埋まっていたのは桜ではなかったな・・・これからは色を意識してチェックしてみようか。うん。やっぱ怖いからやめます。

 

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