6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。/大澤めぐみ


6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。 (角川スニーカー文庫)
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評価:★★★★★
2017年11月刊。
「おにぎりスタッバー」の大澤めぐみさんの新作は、4人の男女の高校3年間を描く青春群像劇。
身体も心もすごく忙しくて、あっという間に時間が流れていく高校時代。
あの頃は未熟なりに色々なことを一生懸命考えてたんだよなぁ、という感傷を呼び起こす青春小説でした。
色々と刺さりすぎて心がしんどくなる部分もあったけれど、とてもとても素晴らしかったです。こういうのホント好き。

☆あらすじ☆
この“ありふれた別れ”に涙が止まらない――『おにぎりスタッバー』の鬼才による、渾身の青春群像。
やりたいことが見つからず、漠然と都会を夢見る優等生の香衣。サッカー部のエースで香衣の彼氏のはずの隆生。香衣に一目惚れする学内唯一の不良・龍輝。ある秘密を隠すため、香衣の親友を演じるセリカ。4人が互いに抱く、劣等感。憧れ。恋心。後悔。あの駅で思いはすれ違い、一度きりの高校生活はとどまることなく進んでいく。「どうしてすべて手遅れになってからでないと、一番大事なことも言えないんだろう」これは、交錯する別れの物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

物語は、4人の高校生に順次スポットを当てつつ、彼らの高校3年間の日々を描いていきます。

高校デビューを果たした女子高生・郷津香衣、香衣の元彼(?)のサッカー部員・諏訪隆生、香衣に惚れた問題児・丸山龍輝、香衣の友達(?)の美人女子高生・峯村セリカ

彼らの物語はそれぞれすごく面白くて、何から語ればいいのか迷ってしまいます。

 

この物語の魅力的なところは本当にたくさんあるのだけど、とりあえず一番最初に「あ、この作品は刺さる・・・!」と感じたのは香衣と諏訪くんの恋の始まりと終わりかな。
決定的な出来事も明確な言葉もなく、自分が感じ取った「空気」に振り回されて右往左往するところとか、まるで自分自身を見てるかのようで・・・・・・
これって恋愛以外の人間関係でも当てはまるケースが多いのではないでしょうか。

香衣たちの未熟さを可愛いなって笑っていられたのも最初だけ。
曖昧な関係を放置して、少しずつ小さくすれ違って、すれ違いを解消できない理由を勝手に積み重ねていく香衣と諏訪くん。
そんな二人の姿は、とても滑稽で、とても哀れで、見ていて苦しくなるのに、目が離せないのです。

 

結局、香衣も諏訪くんも何もしていないんですよね。何もしないから何も動かず何も起こらない。
心の中では色んな考えが忙しく駆け巡るけれど、端から見れば立ち止まっているようにしか見えない。
その齟齬に自分自身が疲れてしまうところまで含めてホント分かるというか・・・・・・
どんどん臆病になって身動きが取れなくなり、ある瞬間に「ああもうダメだ」と自己完結してしまう。
その瞬間の虚しさといったらないし、それがダイレクトに伝わってくる心理描写は圧巻でした。

 

ていうかさぁ、この二人、まともに気持ちを共有してこなかったくせに「終わったこと」だけは通じ合えるって切なすぎるんですよ・・・・・・なにこれつらい・・・・・・

 

香衣たちが疎遠になっていく様子がリアルすぎて、せめて創作の世界でくらい、どうしようもない結末がどうにかならないものかと願っていたのだけど、本当にそのまま終わってしまいました。残念です・・・・・・
甘い痛みを疼かせながらも、穏やかに会話できるようになったのが救いかなぁ。
未熟さがもどかしかったけれど、香衣と諏訪くんの下手くそな恋が私はとても好きでした。

 

まぁ、そんなだから次の恋が始まったことに複雑な気持ちもあったりして
でも丸山くんの恋も好きなんですよね。ていうか丸山くんのキャラが好き。
丸山くんの恋が「香衣と諏訪くんの恋」と対照的に描かれていたのも面白かったです。
香衣と諏訪くんは互いが作り出した「空気」に押し潰されるように終わってしまったけれど、丸山くんはむしろ流れを呼び寄せてガンガン乗っていく感じ。
結局、最後に選ばれるのはこういう人だよなって思ったりもしました。ううむ、これもまたリアルかも・・・・・・

 

他にも色んな場面で対比があったように思うけれど、一番大きな対比となっていたのは、やはり駅のホームでの香衣の行動でしょう。
諏訪のときは踏み出せなかった香衣ちゃんの背中を押したギ=マニュエルの存在は何だったのかな?
ギ=マニュエルの形をした、自分の心に存在する何かに突き動かされて、今度こそ自分の正直な気持ちを吐き出せた香衣。
丸山くんが見ていたものと同じものを香衣が見たのは、あの瞬間に二人の心が繋がったことを示しているのでしょうか。
それとも、同じものが心に棲みつくほど、二人が積み重ねてきた時間が大きいものであることを示しているのかな。
どちらにしろロマンチックで素敵なラストシーンだったと思います。好き。

 

香衣、諏訪、丸山についてダーっと書いたけれど、セリカの物語もとても好きです。

他の子たちの視点からだとミステリアスで性悪な雰囲気があったセリカ。
でも実態は精一杯見栄をはって、体裁をとりつくろっている普通の女子高生で、そんなセリカに私はすごく惹かれました。
積み上げられたマイナスイメージからの落差にコロッと落ちてしまった感もある。我ながらチョロいです。
でもさ、小さな川に苛立ちながら迂回してしまう普通さに親しみを感じるのは仕方ないじゃないですか。セリカが恋に気づいたシーンは切なくて泣きそうでしたし。
彼女の考え方も割と自己完結的なのだけど、自分の選択へのプライドを人一倍感じるところが素敵でした。格好いい女の子は大好きだ。

 

あとセリカ絡みでものすごく好きなのは、香衣の部屋でセリカが高校時代を振り返るシーン。

高校時代の何気ない日常の1ページをノスタルジックに切り取って振り返る。
ついこの間までは何気なく過ごしていた「日常」が急速に「思い出」となっていく、あの懐かしくて寂しくて愛おしい感覚は私にも覚えがあります。
だからなのかな。このシーンのセリカの言葉のひとつひとつが心に刺さりました。

それで香衣が少しでも優しい気持ちになれたりしたら、そしたら、わたしたちの高校時代にも、きっとなにかの意味があったってことになるだろうから。

これを言ったのがセリカだっていうのも良い。
足早に通り過ぎるだけだったはずの高校生活に対して、セリカが意味を求めるようになったことが嬉しくて。
香衣もそうであればいいと願うところに、二人の間に芽生えた友情を感じます。
思い出って自分ひとりで優しく振り返るのも良いけれど、誰かと共有できたらもっと楽しいものだと思うんです。
セリカと香衣は線引ばかりしていたベントモ時代も含めて「そんなこともあったよね」って何度も何度も振り返るんだろうなぁ。良い・・・・・・良い関係だ・・・・・・

 

みんなが同じ場所で過ごした高校生活は終わりを迎え、それぞれが自分で選んだレールに乗って、次の未来へと進んでいく。
爽やかな未来を感じるラストシーンはとても心に残ります。駅のホームっていうのがまた郷愁を誘うんですよねぇ。
本当に、最後まで良い青春小説でした。

 

あー、でもやっぱり諏訪くんが切なすぎるなぁ・・・・・・

なんかこの人ずっと壁打ちというか、一人相撲感ある頑張り方をしてるのが気になって。でも、その負けん気の強さが好きだったんですよね。
あの雰囲気のまま負けん気だけでプロサッカー選手まで昇り詰めたなら天晴だ。
彼が本当にそれを望んでいたのかは結局よく分からなかったものの、彼の頑張りが報われたのだと思いたいです。
諏訪くんの未来に幸あれ。

 

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