キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った/比嘉智康


キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った (ファミ通文庫)
キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った (ファミ通文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2017年8月刊。
多重人格の少年と多重人格の少女が織りなす、3×4の賑やかな「多重人格ごっこ」。そこから始まる楽しい時間が、やがて甘くて切ない恋の物語へと変わっていく青春小説です。
コミカルで軽快な文章と、優しさに胸が苦しくなるストーリーの相性が個人的にはすごく好みでした。
軽すぎず重すぎず。甘いけれどほろ苦い。最後は寂しさを含みながらも賑やかに。
絶妙なバランスで成り立っている物語だと思いました。綺麗に終わってるけれど続刊がほしいなぁ。

☆あらすじ☆
彼女の想いを知った後、きっともう一度読み返したくなる――
明るくて人気者で、時折悲しそうに笑う華の実が気になって仕方なくなった。でも、気づかなかったんだ。一緒にいることが、そんなに彼女を追い詰めていたなんて。

以下、ネタバレありの感想です。

 

物語の主人公は、一つの身体に3つの人格が宿る少年・市川櫻介
「チーム市川櫻介」のメンバーは囚慈、θ郎、キイロの3人組で、彼らの人格は平等で(基本人格的なものは無いっぽい?)、心の中で会話ができて視覚と聴覚はリアルタイムに共有できるということで、客観的にはひとりぼっちのシーンでも主観的には仲良し3兄弟がワイワイと騒いでいるかのような賑やかさがありました。

 

ここまで明るく楽しい多重人格ライフを送っている主人公は個人的には初めてだったかも。
自分の意思では制御できない別人格がいるために様々なトラブルも起こるのだけど、それすらも楽しんでいるかのような「チーム市川櫻介」。
多重人格であることを周囲に隠したり中学時代の失敗は繰り返さないと決意したりと慎重な面もあるのだけど、基本的にトラブルに対しての反応は大らか。ワーワーと騒ぎながらも深刻な雰囲気にはならないんですよね。
常に内側で3人が固まっているから孤独を恐れなくていいっていうのが何気に大きいのかな?
理解者であり親友のような存在が常に自分の中にいて、寂しさを感じる暇はなく、それを煩わしいとも思わない。それって、ある意味ですごく理想的な孤独の消し方なのかもしれません。

 

そんなチーム櫻介は同級生の少女・一色華の実から「多重人格ごっこをしませんか」と誘われらことから、4人の人格を持つ彼女と多重人格×多重人格な交流を始めることに。
ちょっと風変わりだけど楽しげな3×4の交流は、やがて華の実と囚慈の恋へと発展していくことになるのです。

 

華の実と囚慈の恋はちょっと恥ずかしいくらいバカップルって感じ。
「てきてよ」をはじめとする二人だけで使う言葉はどれも幸せが詰まっていて、二人のやり取りが底なしに可愛いんですよねぇ。こんなのニヤニヤしてしまうやん・・・!
ただ、その幸せな空気の中に常に引っかかりが存在していて、「なんか不穏・・・」という不安が少しずつ高まっていくんです。
なんで幸せな日々をこんな早足で描いていくの?これもう上げて上げて落とすパターンじゃないの・・・?って読みながらしんどくなりました。

 

不穏さの正体がわかる終盤の展開は覚悟していたよりも悲壮感を煽る感じではなく、静かに穏やかに終わりを迎えていく雰囲気がとても印象的。
チーム櫻介と違って、華の実の中にうまれた人格は華の実の心を守るために生まれたものだからなのでしょうか。その存在の優しさと儚さに切なくなりました。
「てきてよ」の言葉の重みも全然違うものになってしまったし・・・・・・もうこれ悲しいというより切ないのだけど・・・・・・タイムカプセルの伏線も思ってた以上に心にずしっとくる・・・・・・

 

このラストは救いがあると言えるのでしょうか。
囚慈の心や消えた人格達を思えば苦い気持ちにもなるのだけど、彼らに未来が見えないわけじゃないですもんね。
華の実との再会はどんな感じになったのだろう?
囚慈の恋は終わってしまったのか。それとも、もう一度始まるのか・・・・・・

 

もう少し語ってほしい!せめて再会が見たかった!と思いつつ、「上を向いて歩こう」の歌詞に沿った余韻のある幕引きは秀逸だったと思います。
寂しさを包み込むようなチーム櫻介の笑い声に、なんだか救われた気持ちになりました。

 

そういえば、今回は囚慈が語り手であり主人公だったけれど、あとがきを見るにもしも次巻があればθ郎がメインのお話になるのかな。さらに続けばキイロがメインに?
今後も3人はあくまで平等で同格の人格として扱われ続けるのでしょうか。
個人的に市川櫻介の主人格(基本人格?)が誰なのかっていうのは気になるんですよね。
華の実とは違って生まれつきの多重人格のようだから(?)、そもそも主/副の区別がないのかもしれないけれど。

 

「市川櫻介」という人格がいつか登場するのではないか(もしくは囚慈が実はそうなのでは・・・)、華の実に起こったようにいずれ「櫻介」の中の人格も消えるか統合されるんじゃないか、とこっそりハラハラしてるのだけど、もしも続刊があればそんな展開もあるのかも?
何はともあれ続刊が出ることを期待したいと思います。

 

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