機巧のイヴ/乾緑郎


機巧のイヴ (新潮文庫)
機巧のイヴ (新潮文庫)

評価:★★★★☆
2017年9月刊。
面白かったー!!
江戸のようで江戸ではない架空の都市を舞台に、歯車と撥条でできた機巧人形(オートマタ)を巡るSF伝奇小説。
人間と機巧人形を分けるものはなにか。魂はどこからやってくるのか。
SFならではの哲学的な問いを投げかけつつ、神代のオーバーテクノロジーを巡る伝奇SF、切ないロマンス、忍法帖的アクションなども楽しめるエンタメ感満載な作品でした。すっごく楽しかった!

☆あらすじ☆
天府城に拠り国を支配する強大な幕府、女人にだけ帝位継承が許された天帝家。二つの巨大な勢力の狭間で揺れる都市・天府の片隅には、人知を超えた技術の結晶、美しき女の姿をした“伊武”が存在していた!天帝家を揺るがす秘密と、伊武誕生の謎。二つの歯車が回り始め、物語は未曾有の結末へと走りだす―。驚異的な想像力で築き上げられたSF伝奇小説の新たな歴史的傑作、ここに開幕!

以下、ネタバレありの感想です。

 

物語の舞台となるのは、国の権力者である幕府と女だけが継承権を持つ天帝家が対立する架空の国の都市・天府。
その天府に住む幕府精煉方手伝の機巧師・釘宮久蔵と機巧人形の娘・伊武を関わらせていく形で、まずは『世にも奇妙な物語』を思わせる不条理な短編2本で世界観を軽く紹介し、残り3編で天帝家の秘密に迫る伝奇SF的なストーリーを展開していくのです。

ある男は惚れた遊女の身代わりに、彼女そっくりの機巧人形を作ってほしいと久蔵に願う。
ある相撲取りは失った腕を久蔵に作ってもらうが、運命に翻弄された挙句に衝撃的な姿に変貌してしまう。
また、公儀隠密の男は怪しい金の流れを追ううちに天帝家に隠された秘密に触れてしまう―― といった感じに。

 

江戸時代的な舞台に「オーバーテクノロジー」としてアンドロイドが存在する世界というだけでもワクワクするのに、暴かれていく天帝家の秘密や伊武の正体、久蔵の過去などを掘り下げていく伝奇SFとしても文句なしに面白い物語でした。
さらには身のこなしが軽やかな公儀隠密、片腕を機械化した相撲取り、鋼の糸を華麗に操る女忍者、城内を阿鼻叫喚地獄に変える恐ろしき殺戮人形が登場したりと、アクションシーンはまさに忍法帖の世界で(巻末解説に同じことが書いてあって「それそれ!」って笑ったw)ドキドキハラハラ感も満点。
これぞエンタメ小説!って感じでめちゃくちゃ楽しい作品でした。

 

物語の中枢にいる機巧人形・伊武が魅力的なキャラクターをしているのがまた良いんですよね。
愛嬌のある彼女を人間に近い存在だと思うほどに、首や腕などのパーツを取り外され分解される非人間的シーンにゾクッとしてしまうんです。あの背徳感はなんなんだ・・・・・・
「人間と機械を分けるものは何か」「魂はどこからくるのか」というのはSF的に定番の問いかけだけど、伊武を通してそれを考えると更に哲学の迷路に迷い込んでしまいそうでした。

 

その問いかけに対する答えも素敵だったなぁ。

 

魂とはどこからやってくるのか。そしてどこに隠れているのか。それがずっと疑問だった。
伊武と出会わなければ、そんなことは考えもしなかったに違いない。
その甚内の気持ちこそが、伊武に命を与えているのだ。
誰かに気に掛けられたり、愛されているからこそ、それに応えるために、伊武も、そして天帝も、人のように振る舞うことができる。その振る舞いの中に命がある。(352頁)

 

命の在り処を内に求めるのではなく、外との関わりに見出す。
人を人たらしめるのは生身の身体を持つことではなく、他の誰かの意思を必要とする相対的で概念的な何かなのかも。語彙が足りなくてうまく言えないのがつらい。
でも「命」や「魂」の存在を他者とのコミュニケーションの中で見つようとする考え方は、人間とアンドロイドの距離をぐっと縮めてしまいそうですね。
この考え方だと「人間になりたい」という伊武の願いはもう叶っていると言えるのでは。

 

神代のオーバーテクノロジーや天帝家と幕府の対立を巡る陰謀といった大騒動を繰り広げたわりに、最後は陳腐な色恋沙汰のようなオチがついたのも小気味よくて好みでした。
誰かに恋したり、ヤキモチをやいたり、振り向いてくれない女にちょっといけずをしてみたり。
ごく普通な恋心のすれ違いは、悪く言えばちっぽけだけど、あまりにも身近に感じる日常の一幕。
壮大なテーマを持ち出すまでもなく、この普通の営みこそが人なんだよって言われてる気分になるのです。そういう余韻のあるラストの雰囲気がとても好き。

 

この1冊でも十分に面白かったのだけど、巻末解説を読むに続編の連載がスタートしているとのこと。
この巻では「神代のオーバーテクノロジー」はあくまで「そういうもの」として扱われていて、その謎自体は掘り下げずに終わってしまったのだけど、続刊では神代のミステリーが解き明かされたりするのでしょうか?
どんな展開がくるのか、楽しみに待ちたいと思います。

 

スポンサーリンク
 
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。