契約結婚はじめました。 椿屋敷の偽夫婦/白川紺子


契約結婚はじめました。 ~椿屋敷の偽夫婦~ (集英社オレンジ文庫)
契約結婚はじめました。 ~椿屋敷の偽夫婦~ (集英社オレンジ文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★☆☆
2017年5月刊。
椿屋敷に住む「若隠居」と、その仮初の妻が、家に持ち込まれる様々なトラブルに関わっていくという日常ライトミステリー。
「家」が語り手となる風変わりな構成がコミカルで楽しかったです。
契約結婚をしている若隠居夫妻の距離感にニマニマしたし、血のつながりの有無と「家族」に対する割り切れない感情が込められたエピソードの数々が面白い作品でした。
若隠居の方の問題がしっかりとは解決していないのでシリーズ化に期待!

☆あらすじ☆
寿町四丁目にある通称<椿屋敷>。そこに住む柊一は、若くして隠居暮らしをしているため、若隠居と呼ばれている。そんな彼のもとに嫁いできた、19歳の香澄。しかしそこには秘密があった。ふたりは利害の一致から結婚した、偽装夫婦なのだ。町の相談役である柊一のもとには、たびたび近所から相談が持ち込まれるが――。「家」が語る、わけありな人々の物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

若隠居と呼ばれる不思議な雰囲気を持つ青年・柊一と、その妻・香澄
実は偽装夫婦である二人は「椿屋敷」で暮らしながら、屋敷に訪れるご近所さんたちの相談事を聞く日々を送っている――という物語。

 

まずこの作品の風変わりな点は、語り手が「椿屋敷」であること。
「家」の目から、住人たちの日常を紡いでいく構成は珍しいのではないでしょうか。そうでもないのかな。
私は小説だと初めて読んだかも。漫画なら吟鳥子さんの「アンの世界地図~It’s a small world~ 」とかがありますね。

 

「家」を語り手としているため作品全体を包む雰囲気も独特。
例えば香澄にとって望ましくない来客が訪れたときの「私はよっぽど、玄関の戸に力を入れて開けなくしてしまおううかと思った。できないが。」や、香澄が懸命に掃除してくれたから「私は全身をくまなく拭き清められたようで、とても気持ちがいい。さっぱりした。」といった言い回しがすごくユニークで楽しかったです。
「椿屋敷」とても愛嬌があるんですよね。可愛い。家なのに。可愛い。

 

そんな可愛い「椿屋敷」に住む柊一と香澄。
ワケありな二人のもとに持ち込まれる相談事も、当然ながら(?)ワケありのトラブルだらけ。
色んな人物や事件が次々と起こるのだけど、それらに共通するのは「椿」にまつわる事件であり、また、その多くが「家族」の問題であること。

 

「椿屋敷」の物語らしく作中では実に多種多様な「椿」が登場するのだけど、「椿」ってこんなに種類があったことを恥ずかしながら初めて知りました。
「紅乙女」とか「杵築日の丸」とか「月光」とか名前も雅で素敵。
日本の花って名前の響きが素敵だよなぁと思っていたら、なんとアメリカの椿まで登場。
名前が出てくるたびにググッて画像を確認してみたらどれもすごく綺麗なんですよね。実物が見てみたいなぁ。

 

さて、そんな「椿」を重要アイテムとして絡めながら語られるのは、様々な形の「家族」の物語。
特に「血の繋がり」という点から「家族関係」の難しさを語るエピソードが印象的でした。
血のつながりがなくても家族になれる母娘もいれば、血のつながりがないゆえに不意打ちの失望に耐えられなかった母娘もいる。
さっぱりとした結末を迎える家族もいれば、言いようのないモヤモヤをおそらく一生抱えていくだろう家族もいる。
様々な形の家族が登場するけれど、共通した正解なんてあるわけがなくて、妥協を前提に譲歩できるラインを探るしかないんだろうなぁと思ってしまいました。
なんだかんだ言ってシロクロはっきりつけられないし、つけたくないと思う関係こそが「家族」なのかもしれません。

 

とりわけ香澄の事情とその結末については、どうもこう、モヤモヤとした気持ちになってしまうんですよね。
悪気がないからこそ、すれ違いが決定的になってしまうんだろうなぁ。
そのすれ違いを正したら関係性が根本的に壊れてしまうかもしれないから、見て見ぬふり、なかったふりで、曖昧に距離を置く。
本音でぶつかれよ!っていうのは、本音でぶつかっても大丈夫だという確信が持てないと無理難題ですもんね。
上澄み以外の気持ちを飲み込んだ香澄に共感してしまいました。まぁでも、柊一さんが彼女の本音を吐き出させる相手になれれば、もうそれでいいのかもしれない。

 

その柊一さんについては、未だ問題が積み残された状態。
弟・に対する彼の複雑な心情はとても読み応えがありました。この暗くて淀んだ感情を本人にぶつける日はくるのかな。こない気もする。
とりあえず、彼の本音は香澄が受け止めてあげればいいのではないでしょうか。
互いだけが本音を打ち明けられる夫婦って素敵だと思うし。まぁこの二人、偽装ですが。

 

もう「偽装」やめてもいいんじゃないかなー?とも思ったけれど、夫婦だけど夫婦じゃない距離感が美味しいのでこれはこれで良し。
じれったい二人の関係の先を見届けたいので、シリーズ化に期待しています。

 

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