押し入れの中のダンジョンクラフト ‐幸福で不幸で幸福な兄妹‐ (MF文庫J)【Amazon】/【BOOK☆WALKER】
評価:★★★★☆
2016年6月刊。
押し入れの中にできたダンジョンで、死んだはずの妹に再会した少年の物語。
現実と非現実が混じり合ってフワフワとしていて、読み心地もなんだかフワフワ。
そんなゆるい空気の中で次第に気になっていくのは、過剰なくらい妹を愛する主人公の儚くて危うさを感じる姿。
物語が進むにつれて「選択」を迫られることになる彼の運命に目が離せなくなっていきました。
正直、こんな泣きたくなるような余韻に浸るとは思わなかった。どこまでも優しい物語に胸が苦しくなりました。
愛情だけでは語れないけれど、それでも愛情に満ちた兄妹の絆が本当に素敵。
物語を綺麗に締めくくるあとがきまでが本編です。
☆あらすじ☆
高校生の僕、椎名透は寮の自室にある押し入れの中にダンジョンができていることに気づく。中はまるでゲームのように広大なダンジョンで、その中心にある大きな樹の下に辿り着くと僕は目を見張った。幼い頃に事故で死に別れ、なぜか死体が消失したはずの妹、あーちゃんが眠っていたからだ。その日から僕とあーちゃんは押し入れの中にできたダンジョンのマスターになり、ダンジョンの成長を見守ることになった。「あーちゃん、ただいま」「おかえり、おにいちゃん」こうして今日も死んだはずの妹に会いに、僕はダンジョンへと向かう。その先に何が待っているのか僕はまだ知らなかった。『マカロン』のからてが描く、幸福で不幸で、けれど幸福な僕たちの物語。
以下、ネタバレありの感想です。
押し入れを抜けるとそこはダンジョンだった。
そのダンジョンの中で、死んだはずの妹・あーちゃんに出会った高校生・椎名透。
物語は、学校が終わると妹に会うためにダンジョンへ通う、透の日常と非日常を交互に描いていきます。
幼なじみの結実由美や転校生の祀尾真緒と共に過ごす普通の高校生としての日常。
押し入れから繋がるダンジョンの中で、愛嬌のあるモンスターや最愛の妹と過ごす非日常。
「あーちゃんのいる最高のダンジョン」で妹と一緒にダンジョン作りを楽しみ、「あーちゃんのいない僕の住む世界」に戻ってからも頭の中を占めるのは妹のことばかり。
そんな透の姿はなんだか刹那的で、このまま彼は「あーちゃんのいない世界」をあっさり捨ててしまうのではと不安な気持ちを煽るのです。
フワフワとした読み心地が物語を幻想的に仕立てるから、余計にそう感じてしまうのかも。
後半に入り、あーちゃんとダンジョンの秘密が明らかになると、その不安はさらに強いものになっていきました。
果たして透は物語の結末にどんな選択をするのか。あーちゃんのいる世界といない世界のどちらを彼は選ぶのか。
ほぼ「あーちゃん」一色に染まっている透の心。それを現実の世界が引き止められるのか確信が持てず、由美や真緒の存在に希望を託しながらも最後までハラハラとしながら一気に読んでしまいました。
本編の感想はさておくとして、あとがきがね、本当に秀逸だったと思うんです。
本編を読んでブワッと膨れた感情が、あとがきを読むとめちゃくちゃ綺麗に整理されてしまうのです。心の大事な場所に物語がすっぽり収まってしまう感覚。
優しくて優しくて、読みながら泣けてくる。こんなあとがきは初めてです。
それはやっぱり妥協なのですが、それでもきっと彼はその妥協に塗れた世界で精一杯生きて、幸せを見つけていくのでしょう。
透の物語を優しく締めたこの一文がすごく好き。
最愛の妹という大きな存在を失って、奇跡によってもう一度出会えた透。
妹への愛情と同じくらい、彼女に対する罪悪感や後悔を抱えていた透。
愛情だけでは語れない複雑な感情。それを持ったまま妹を選ぼうとした透が迎えた結末は、屈託なく笑えるハッピーエンドとは言えないかもしれません。
それでも、兄妹の切なくも美しい絆が魅せるラストに感動するしかないのです。
透もあーちゃんも由美も真緒も、誰もがとても優しくて、その優しさに苦しいくらい胸が締め付けられました。
あとがきまでが本編の、素晴らしい作品でした。この余韻にいつまでも浸っていたい。
からてさんの次回作も楽しみに待っています。
ちょいと興味が湧きました
良さそうですね
ゆぐはるさん、コメントありがとうございます。
興味を持っていただけて嬉しいです!
とても素敵な作品なので是非〜(p*’∀`*q)