『最果てのパラディンⅠ 死者の街の少年』(柳野かなた著/オーバーラップ文庫)★★★★☆
最果てのパラディンI 死者の街の少年 (オーバーラップ文庫)【Amazon】/【BOOK☆WALKER】
2016年3月刊。
これは良いファンタジーでした。
異世界に転生した主人公が、成長し旅立つまでを描く第1巻。
内容的にはプロローグであるものの、ストーリーのまとまりが良くて単巻作品的に楽しめることができました。
家族愛って良いですよね。終盤の展開は切なくてちょっと泣けてきたり。
キャラも良かったし、神々の存在を感じる神秘的な世界観もとても好みでした。続きに期待しています!
☆あらすじ☆
かつて滅びた死者の街――人里離れたこの地に一人の生きた子供、ウィルがいた。少年を育てるのは三人の不死者。豪快な骸骨の剣士のブラッド。淑やかな神官ミイラのマリー。偏屈な魔法使いの幽霊のガス。彼ら三人に教えを受け、愛を注がれ少年は育てられる。そしていつしか少年は一つの疑念を抱く。「……この『僕』って、何者なんだ?」ウィルにより解き明かされる最果ての街に秘められた不死者たちの抱える謎。善なる神々の愛と慈悲。悪なる神々の偏執と狂気。「約束だ。ちょいと長いが、語ってやる。多くの英雄と俺たちの死の……、そして、お前がここで育った話でもある」――その全てを知る時、少年は聖騎士への道を歩みだす。
以下、ネタバレありの感想です。
後悔を抱えて前世を終え、異世界に転生した少年・ウィリアム。
物語は、不死者である3人の保護者に育てられたウィルが、彼らから多くのことを学び成長し、大きな転機と別離を経て、ひとり旅立つまでが描かれていきます。
ウィルのお勉強という形の世界観・設定説明パートが結構長いのですが、そこにウィルと家族達のほのぼのと優しい日常が挟まれていくため、展開がゆっくりめな割には楽しく読めました。
また、謎の挟み方もとても良い。
不死者たちの隠し事。
ウィルの知らない自身の素性。
一見すると仲の良い家族の間に横たわる隔たりが良いアクセントになっていて、そこにどんな秘密が隠されているのか気になってページをどんどんめくってしまうのです。
ミステリアスだけど穏やかな日常の先に待つのは怒濤のクライマックス。
終盤の展開には非常に引き込まれました。
家族が隠していたことと、彼らを待つ悲惨な運命。
それを知って自分の存在に絶望しつつも、再び立ち上がる主人公。全てを知った彼は、家族のために自分から苦難の運命を背負うことを決意して・・・・・・。
なんて熱い展開!
少年が自ら英雄への道に踏み込んだ瞬間の高揚感がとにかく素晴らしかったです。
英雄の誕生を導いたのが、互いを思いやる家族の愛というのも素敵。
血のつながりもなく他人が集まっただけともいえる4人。それでも、長い時間をかけて「家族」という形になって、それが運命を覆せるほどの絆に変わっていって。
ああダメです。こういうの弱いんです。泣く(´;ω;`)
不死者の3人がそれぞれ個性的で魅力的であることも、家族の物語としての質を高めていたと思います。
快活なブラッドも、優しいメリーも、ロックなガスもみんな好き。
彼らの結末は、寂しさを感じつつも胸が温かくなるもので安堵しました。
世界観も良かった。
神々の存在が遠いようで意外と近い神秘的な雰囲気がとても好みです。
魔法の設定も使い勝手が悪いように見えて応用がきくところが面白い。
さて、最後は一人で旅立つことになったウィル。
外の世界の状況は未だわかりませんが、これから彼がどんな冒険をしていくことになるのかワクワクします。
巻末短編のマリーとブラッドがとても素敵なカップルだったので、ウィルにもそういう出会いがあるといいなぁとか思ったり。
2巻も期待しています!