『黒崎麻由の瞳に映る美しい世界』(久遠侑著/ファミ通文庫)★★★★☆
黒崎麻由の瞳に映る美しい世界 (ファミ通文庫)【Amazon】/【BOOK☆WALKER】
2015年1月刊。
第16回えんため大賞優秀賞受賞作。
少しオカルトを交えつつ、儚く透明感のある青春小説として面白い作品でした。
1巻だけだと消化不良気味なので、上下巻と考えて2巻と一緒に読んで方が良いでしょうね。
主人公とヒロインの関係性が好みだったのですが、高校生の息づかいが聞こえてきそうな日常風景の自然な描写も魅力的でした。
☆あらすじ☆
誰よりも純粋で、優しく、孤独な「黒」に、僕は吸い込まれた――。
高校入学の日から、彼女の異様な大人しさは僕の印象に残った。誰もが気になって仕方ないほどの存在感を持ちながら誰も触れられなかった彼女――黒崎麻由。文化祭の準備の中、僕とのささいな会話をきっかけに、黒崎は少しずつクラスに迎え入れられていくのだけど、彼女には僕たちの知らない影が寄り添っていて……。そんな彼女のそばに、僕はいたいと思った――。えんため大賞優秀賞、美しく危うく脆い二人の「黒」が織り成すドラマティック青春ストーリー。
以下、ネタバレありの感想です。
続編「黒崎麻由の瞳に映る美しい世界 amorosamente」の内容も含めた感想です。
美しいけれど、クラスの誰とも交流せずに浮いた存在だった黒崎麻由。
主人公・黒井光輝は、文化祭の準備を通して黒崎と徐々に打ち解けていき、彼女が普通の女の子であることを知ると同時に、彼女が抱える問題に触れていくことになるのです。
1巻は文化祭の喧噪が紙面から伝わってくるのが特に印象的でした。
教室の騒がしさ、寄り道したファーストフード、文化祭というイベントへの高揚感、といった高校生の日常風景がとても自然に描かれていく作品だと思います。
自分にも馴染みのある風景がごく自然に広がっているからこそ、作品世界へあっさりと没入できたのかもしれません。
とはいえ1巻終盤から2巻にかけて徐々にオカルト色が強くなっていき、その分「自然な日常風景」とは乖離していくのですが。日常ものとして没入していた分だけ、そのアンバランスさにモヤモヤしてしまうんですよね。
2巻まで読めばそのオカルト要素にも意味があるとわかるのですが、1巻時点では物語から浮いてしまっているように感じるのは仕方ない。
オカルト要素については全部を読んだ後も「本当に必要な要素だったのか」という疑問は否めません。まるごと削っても話は通じるので。
ただ、浮き世離れしていた黒崎麻由が普通の女子高生へと生まれ変わったことに対する、ケジメのような、象徴のような、そんなエピソードだったことは間違いないのでしょう。
それに黒崎麻由の心を守ってきた「彼」のエピソードそのものは結構好きなんですよね。別作品として独立に読んでみたかったかも。
高校生の日常にありきたりなクラスメイトとのトラブル、オカルト的な非日常のトラブル、そして黒崎麻由の家族に関わるトラブルという3つの性質の異なる問題に向き合いながら、次第に距離を縮めていく黒木と黒崎。
二人の恋の物語としてみると、本当に好みな作品でした。
じれったいけれど甘さのある距離感が最高。電話のシーンとかニヤニヤが止まりませんでしたw
黒木の目を通して普通の女の子になっていく黒崎の姿をみていると、こちらまでなんだか幸せな気持ちになれるのです(´,,•ω•,,)♡
良い青春小説でした。とても面白かったです。
1,2巻で綺麗にまとまっているし、シリーズとしては完結しているのかな。
久遠さんの次回作にも期待しています。