アリス イン サスペンス


『アリス イン サスペンス』(桃華舞著/講談社X文庫ホワイトハート)★★★☆☆

アリス イン サスペンス (講談社X文庫ホワイトハート)
アリス イン サスペンス (講談社X文庫ホワイトハート)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

2011年3月刊。
ホワイトハート新人賞受賞作。
無法地帯な街を舞台に、とある殺人事件の犯人を追う少年達の物語。
頻繁に韻を踏む文体、ドライな語り手、淡々と進むストーリー。
コミカルなのかシニカルなのか、どこか悪夢めいた不思議な味わいのある小説でした。
好みは分かれそうですが私は結構好き。段々とクセになるような読み心地なのです。

☆あらすじ☆
「なにか楽しいことはないのかな」それがおれたちの口癖だった。親を知らず、無法地帯シークレット・ガーデンで生まれ育った十四歳のヒツジコには、仲間がいた。見た目美少女のユキノジョウ、家出少年ジャック、シルバーの血を持つハイド。そして、アリス。孤独を抱え、ときに街に呑み込まれそうになりながら、それでも強く生きる少年達の物語がここに!

以下、ネタバレありの感想です。

 

無法地帯シークレット・ガーデン。
そこで生まれ育ったヒツジコには、いつもつるむ仲間が4人。
美少女にしか見えないユキノジョウ
人を直すより壊すのが好きな切り裂き魔のジャック
フェイクヒューマンのハイド
そして、女優を夢見てシークレット・ガーデンにやってきたアリス

 

ヒツジコたちの穏やかな日常から始まる物語は、「ブラック・ダリア事件」に模した形でアリスの惨殺死体が発見されたことによって、大きく動き始めていきます。

 

いったい、誰がどうしてアリスを殺したのか。
シークレット・ガーデンで噂される都市伝説「目なし男」と「ひとりくるま」は彼女の死に関係しているのか。

 

大切な仲間だったアリスの弔いのため、ヒツジコたちは彼女を殺した犯人を探し出すことを決意し、事件の謎に迫っていくのです。

 

復讐譚的な物語ではあるのですが、作品を覆う雰囲気はあくまでドライ。
語り手であるヒツジコ自身が言うように、殺人が日常的に起きる街で「アリスの死」そのものはあまりにもありきたりな出来事なんですよね。
特に強く関心を抱くようなものでもない、日常の一風景。
ヒツジコも芯の部分でそういう価値観を受け入れているからか、彼自身もどこか冷静に淡々と事件の真相を追っていくのです。

 

そんなヒツジコの語りで進むため、残酷なまでに熱を感じない物語になっていたような気がします。
事件の真相が明らかになり真犯人の自白へと至っていても、「復讐に燃える」という言葉が浮かばないくらい空虚な雰囲気のまま。静かな哀しみは伝わるけれど、ただそれだけ。

 

しかし、この壊れた空虚さがクセになるのです。
倫理や道徳が壊れてしまった「シークレット・ガーデン」という舞台を最大限に引き立てる語り手とストーリーだったのではないでしょうか。

 

ラストシーンがまたとても印象的なんです。

失ったものを思えば寂しいし悲しいけれど、それでも日常は続いていく。
過去を振り返って泣くことがあっても、まえに進まなければならない。

ヒツジコの感傷が伝染したのか、なぜか寂しくてほんのり泣きそうになる読後感でした。

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