アルカナ・ナラティブ


『アルカナ・ナラティブ』(射当ユウキ著/ファミ通文庫)★★★★☆

アルカナ・ナラティブ (ファミ通文庫)
アルカナ・ナラティブ (ファミ通文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

2016年1月刊。
ミライショウセツ大賞拾い上げ作品。
心に傷を抱えた少年少女がそれを皮肉るような魔法に目覚め、様々な出来事を経て過去を乗り越えていく物語です。
元詐欺師という過去を悔いているのに、人を欺くしかない能力を発現してしまった主人公。
能力と過去に対する主人公の複雑な感情はなかなか読み応えがあり、そんな彼がヒロインと築いていく優しい関係性はとても素敵でした。
主人公の語り口がやや苦手なタイプだったものの、彼がゆっくりと癒やされていく物語の雰囲気はかなり好み。私まで癒やされました。
これはぜひシリーズ化してほしいな。2巻待ってます!

☆あらすじ☆
かつて天才詐欺師だった少年、翔馬。過去を悔いる彼は嘘を封印し、これから始まる普通の高校生活に思いを馳せていた。ところが入学初日、額に【I】の痣が浮かび、他者に自分の姿を偽って見せる能力が発現してしまう。同じように【II】の痣を持つ少女氷華梨と出会った翔馬は、この学校に『アルカナ使い』と呼ばれる能力者達がいる事を知り、さらに学内で巻き起こる様々な諍いへと巻き込まれてしまう――!?
過去に囚われた子供達の贖罪と救済の物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

詐欺グループに所属していた両親のもとで天才詐欺師として成長し、そして警察に捕まり触法少年となった瀬田翔馬
高校入学と同時に「他者に自分の姿を偽って見せる魔法」に目覚めた翔馬は、自分と同じような能力を持つ「アルカナ使い」たちと出会い、彼らに関わる様々なトラブルに巻き込まれていく、というのが本作のストーリーです。

 

物語の重要な鍵を握るのは「アルカナ使い」と、彼らがそれぞれ手に入れる「魔法」。
アルカナ使いの魔法は個人のコンプレックスや、乗り越えなければならない心理的な壁の現れであり、それはアルカナ使い本人にとって重荷となるような能力だったりするのです。

 

「コンプレックスが異能として発現」という設定だけをみれば、似たような作品をいくつか思い当たるものかもしれません。
しかしこの作品の面白いところは、主人公のコンプレックスの出所が「詐欺師として人を傷つけてきた過去」にあり、彼がそれを心の底から悔いているにも関わらず、彼の魔法は「他者を簡単に欺けるもの」であるということにあるのだと思います。もう一度罪を犯せと唆すかのような能力ですよね。

 

もう誰にも嘘を吐きたくないと願っているのに、翔馬が誰かを守るために魔法を使おうとすれば、それは姿を偽り「誰かに嘘を吐くこと」になるわけです。
能力を使う度に生まれる矛盾と葛藤は、翔馬の悔悛と相まってとても興味深く、読み応えのあるものでした。
もっともっと掘り下げて泥沼のように悩んでほしかったくらい←

 

そんな翔馬の複雑な感情が特に色濃く現れる第3話は、4章立ての本作の中で一番印象的なエピソードでした。
幸福であることの違和感と疑問から、いっそ壊してしまえという投げやりな発想が出てくるところが痛々しすぎる。
ここで出てくる「幸福の限界」って話、ちょっと分かる気がします。こんな幸せを受ける価値が自分にあるのかな?って何だか無性に誰にともなく申し訳なくなる感じ。
それが鬱々とした方向に加速すると「生きてていいのかな?」ってなるのかもなぁ・・・・・・。

 

そんなちょっと鬱キャラな翔馬が関わっていくアルカナ使いたちも、それぞれが何らかの問題やコンプレックスを抱えている人ばかり。

特にヒロインである周防氷華梨は哀しい事情を抱えた女の子でしたが、彼女と翔馬が少しずつ築いていく関係性がすごく良かった。
忌避していた嘘を駆使してでも氷華梨の心を守ろうとする翔馬と、そんな翔馬に救われたからこそ彼の「価値」を伝えてあげられる氷華梨。
互いに過去と心の傷をさらけ出すことで、少しずつ壁を乗り越えていくんですね。これがナラティブ・セラピーか。尊い。

 

翔馬の語り口にちょっとノリきれない部分もあったのですが、それ以上に贖罪の物語として光るものがある作品だったと思います。
この優しく癒やされていく雰囲気がかなり好み。

翔馬や氷華梨以外のアルカナ使いたちも魅力的だったので、彼らや他のアルカナ使いたちの話も読んでみたいです。
そういえばカラーイラストの人物紹介のとこで名壁が「正義」ってあったんですけど、この後目覚めるのかな?

この続きはWEB版でも読めるようですが、せっかくなので書籍でシリーズ化してほしい。イラストも良かったですし。
期待しています!

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