『神さまになりまして、ヒトの名前を捨てました。』(石田リンネ著/ビーズログ文庫アリス)★★★★☆
神さまになりまして、 ヒトの名前を捨てました。 (ビーズログ文庫アリス)【Amazon】/【BOOK☆WALKER】
2015年11月刊。
「おこぼれ姫と円卓の騎士」シリーズの石田リンネさんの新作。
土地神である「守護」になったばかりの新米神さまと、彼の手足として働く「守護代」たち。
そんな彼らが土地を守り亡霊と戦うという内容の和風ファンタジーなのですが、予想外に感動的な物語でした。
「400年守護代として仕えてきて、最近代替わりで守護になった」という主人公の背景の意味。
そこに隠された想いを知れば、わがままな彼のことを苦笑しながらも愛しく思ってしまう。そんなお話でした。
設定とストーリーがうまく調和した良い作品でした。ぜひシリーズ化をお願いします!
☆あらすじ☆
「ご隠居と呼べ!」。気楽な神さま生活、始まり始まり……の、はずが!?
現代日本。関東の『土地神』である千鳥(←四百歳越え)は、神さま歴一カ月半! 忙しい人間生活をようやく引退した千鳥は「ご隠居と呼べ」と皆に要求しつつも、やっぱりなにか仕事ない……? とそわそわする毎日。ある日、頼りになる右腕の柏、現代っ子の帯刀と共に、月に一度の神さま会議に出向くが……先輩神さま方から「平氏の亡霊が蘇った」と厄介な仕事を押しつけられて!? 土地の記憶に眠る『伝説の武器』を手に、彼らの戦いが始まる――!
以下、ネタバレありの感想です。
この作品、設定がなかなかに面白く、魅力的なのです。
本物の土地神から力を与えられ、各地域の土地神として土地を守る「守護」。
見守ることしか許されない守護に代わり、守護の手足となって土地に宿る記憶を力として振るう「守護代」。
そして守護も守護代も人間であり、神と契約している間だけ時間が止められ不老になるということ。
この3つの設定を余すことなく使い切り、新米守護・千鳥の物語として完成させた作品だったと思います。
当初は、千鳥がぎこちなく神さま業をこなしつつ、平家の亡霊騒ぎを通して新米守護代の帯刀を導いていく物語かと思っていたのですが、読み進めてみるとどうにも千鳥の様子がおかしい。
今まで守護代として忙しくしていただけに、うまく「隠居」できない千鳥。
そのくせ守護代達には「ご隠居と呼べ」と強制する彼が、表には見せなかった気持ち。
千鳥が何を思って「ご隠居」と呼ばせることに固執していたかが明らかになると、柏の言う「ひどい人」の意味がストンと心に落ちてくるのです。
朗らかな笑顔で寄り添ってくれるのに、こんなにも慕わしく思わせてくれるのに、「自分にとっての相手」と「相手にとっての自分」には明確な違いがある。
手応えのない親愛。なんて残酷な優しさでしょうか。
好きでいる方がバカを見ているみたいですよね。「殴りたくなる」の意味が分かるとたしかに殴りたくなるw
結局、千鳥には先代への恩返ししか見えてなかったということですよね。
柏や帯刀に親身な顔をして寄り添うけれど、その目に彼らは映っていなかった。千鳥の中ではすでに自分を過去のものとしていたからでしょう。
その先代に対してすら、慕情ではなく「恩返し」が先に来ていたというんですから、千鳥の石頭で視野狭窄なタチは筋金入りです。
身勝手で、ワガママで、優しいくせに優しくない千鳥。
でもそんな彼なのになぜか心から憎めないし嫌うことなんてできない。むしろ大好きだ!(´;д;`)
これぞ人たらしですよ・・・・・・。
そこまで含めて本当に正しく「神さま」なんだよなぁって思ったり。祈りが届かなくても、ヒトは神さまに祈らずにはいられないのです。
千鳥も良いキャラをしていましたが、帯刀や柏もなかなか強烈。
帯刀、先代に対してなんつーことを聞いてくれているんだww
あそこ唖然としたじゃないですか!この怖いもの知らずは「現代っこ」とは違う気がするのですが(;`・ω・)
あと柏の優男風に見えて見えるだけ、っていうキャラがめちゃくちゃ好みでしたε٩( ºωº )۶з
今回は千鳥の物語として綺麗にまとまっていましたが、シリーズ化もできそう。
キャラも設定もストーリーも魅力的だったので、ぜひ続刊をお待ちしています(*゚▽゚)ノ