夜の写本師(オーリエラントの魔道師シリーズ1)


『夜の写本師』(乾石智子著/創元推理文庫)★★★★☆

夜の写本師
夜の写本師【Amazon】【BOOK☆WALKER】

2014年4月刊。初出は東京創元社2011年4月刊。
育ての親を惨殺された少年の復讐を描くファンタジー。
魔法ならざる魔法を操る「夜の写本師」になる主人公と、彼に隠された悲壮な運命とその結末。物語の全編を包み込む幻想的な雰囲気が素晴らしく、とても魅力的な作品でした。

☆あらすじ☆
右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠。三つの品をもって生まれてきたカリュドウ。女を殺しては魔法の力を奪う呪われた大魔道師アンジストに、目の前で育ての親を惨殺されたことで、彼の人生は一変する。月の乙女、闇の魔女、海の女魔道師、アンジストに殺された三人の魔女の運命が、数千年の時をへてカリュドウの運命とまじわる。宿敵を滅ぼすべく、カリュドウは魔法ならざる魔法を操る〈夜の写本師〉としての修業をつむが……。日本ファンタジーの歴史を塗り替え、読書界にセンセーションを巻き起こした著者のデビュー作。

以下、ネタバレありの感想です。

 

右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠を持って生まれた少年・カリュドウは、育ての親エイリャを惨殺した魔道師アンジストへの復讐を誓います。
世界一の魔道師であるアンジストを滅ぼすために、魔法を身につけようとするカリュドウ。
紆余曲折を経て彼がたどりついたのは、魔法ならざる魔法を操る「夜の写本師」になるという道だったのです。

 

この「夜の写本師」という設定がとても面白い。
魔法を扱うのは魔法使いだけではないということだけでも目新しい切り口だし、かつ、それ自体がアンジストの懐に忍び込むための大きな盲点になっていたというのが巧いのです。

 

そんな「夜の写本師」が写本するのは、様々な魔法の本。この物語そのものとカリュドウの人生において、「本」というのはとても大きなファクターとなっているのですが、その中でも特に重要な1冊の本によって、カリュドウ自身に隠された悲惨な運命が解き明かされていくのです。

「右手に月石、左手に黒曜石、口のなかに真珠」

これが何を意味し、どんな呪わしい感情をカリュドウに託したのかを知っていけば、カリュドウとアンジストのあまりにも深い因縁に鳥肌が止まらなくなってしまいました。

月、闇、海という女の力を司るひとりの女と、その力に魅入られてしまったひとりの男の愛憎劇でもあった本作。

最初のシルヴァインとアンジストの物語が間違わなければ、こんな悲劇は生まれなかったのでしょうか。それともアンジストの生い立ちからすでに悲劇を避けようがなかったのか。
シルヴァインが見通したアンジストの本質は、彼女の目を曇らせる結果となってしまったけれど、全てが誤りではなかったというのが何ともやりきれない気持ちにさせられます。
結局アンジストは暴挙に出てしまったものの、彼の中にシルヴァインへの愛がなかったわけではないのですから。

 

愛憎劇は時間を超え、三度の転生を経て、ようやく決着を迎えることになります。
この決着からラストシーンにかけては、本当に素晴らしい流れだったと思います。
アンジストとの決着自体は死をもっての制裁であったものの、そこで物語が終わるわけではないのが特に良い。
カリュドウとエマの出会いに触れたエピローグは、かつてガエルクがルッカードに示した「赦す」という選択肢がようやく選ばれた瞬間であり、呪いと憎しみの連鎖が今度こそ断ち切られたのだという穏やかな感動と深い安堵を与えてくれたので。

復讐の虚しい達成感ではない、未来へと続く希望に満ちたラストシーン。
こういうのは大好きです。最高です。

 

本当にとても素敵なファンタジーでした。
オーリエラントの魔道士シリーズの続編も読んでいこうと思います。

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