こうして彼は屋上を燃やすことにした


『こうして彼は屋上を燃やすことにした』(カミツキレイニー著/小学館ガガガ文庫)★★★★★

ガガガ文庫 こうして彼は屋上を燃やすことにした(イラスト完全版)
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2011年5月刊。
「憂鬱なヴィランズ」のカミツキレイニーさんのデビュー作で、第5回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作。

傷心の主人公が屋上で出会ったのは、「オズの魔法使い」のキャラをもじった奇妙な3人組。
「どうせ死ぬなら復讐しよう」の台詞から、一体どんな怖い話になるのかと思いきや、予想以上に爽快な青春ジュブナイル小説でした。
屋上にしか居場所がない4人は、それぞれが傷ついて、苦しんで、立ち止まってしまっていて。
けれど、どれだけ傷ついてもいつかはそれを笑える日がくるんだよ、と励ましてくれるような作品でした。とても素晴らしかった!

☆あらすじ☆
彼氏にフラれた私・三浦加奈は、死のうと決意して屋上へ向かう。けれどそこで「カカシ」と名乗る不思議な少女、毒舌の「ブリキ」、ニコニコ顔の「ライオン」と出会う。ライオンは言う。「どうせ死ぬなら、復讐してからにしませんか?」そうして私は「ドロシー」になった。西の悪い魔女を殺すことと引き替えに、願いを叶える『オズの魔法使い』のキャラクターに。広い空の下、屋上にしか居場所のない私たちは、自分に欠けているものを手に入れる。第5回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作。心に残る、青春ジュブナイル。

以下、ネタバレありの感想です。

 

他に好きな人ができたから、と大好きなアメくんに振られた主人公・三浦加奈
寝ても覚めても4秒に1回はアメくんを思い出して、辛くて悲しくて自殺を決意した加奈は、大嫌いな雨の日に屋上へと向かいます。
そこで出会った奇妙な3人組。
「オズの魔法使い」の登場人物そのままにカカシブリキライオンと名乗る彼らは、加奈に「ドロシー」の名前を与えて「どうせ死ぬなら、復讐しよう」と持ちかけるのです。

 

この強烈な出会いの場面に、一体ここからどういう猟奇的な物語が始まるのかとゾクっとしました。

しかしそこから始まるのは、奇妙ではあるけれど穏やかな、屋上での安息の時間。
そして、そこにしか居場所がない4人の高校生の、再生の物語でした。

 

ライオン、カカシ、ブリキにそれぞれ欠けているものは何か。
なぜ自殺したいのか。誰に復讐したいのか。

一人ずつゆっくりと語られる物語は、どれも切なくて、もどかしくて、苦しいものばかり。
「オズの魔法使い」のブリキたちのように、自分たちに欠けているものがあることを知りながら、それを求めることを諦めてしまっていた3人。
しかし、蹲ってしまった彼らの手をドロシーが引っ張って、前へ進め!とばかりに背中を押すのです。
同じ喪失を抱えるからこそ、ドロシーはお節介と言われても3人を放っておけなかったんでしょうね。
それに、ようやく手に入れた安息の居場所を必死に守りたかったのでしょう。

 

ドロシーの懸命な奮闘の甲斐あって、ひとりずつ欠けていたモノを手に入れていくのですが、最後に残ったブリキの番になって、ライオンとカカシの物語を含めて、実は全てがつながっていることを明かす構成は面白かったです。
ずっとオズのキャラ名を使ってきたことを伏線として利用するとは。

 

全ての伏線が回収されるブリキの話は一番悲しいものでした。
彼は、ドロシーの姿にかつての自分と、かつてのソラの姿を同時に見たのかも。
自分を受け入れてくれない想い人に当てつけた行動をとったブリキ自身と、やたらお節介で優しいソラと。
だから、ブリキはドロシーの存在をずっと受け入れられなくて、受け入れてしまったら名前を呼ばずにいられなくなったのかもしれませんね。

 

エピローグでもう一度始まるドロシーの物語は、とにかく爽快!
彼女の失恋自体は、どこにでも転がっているようなよくある話。
そして、誰かに恋をするのも、選ばれないことを恨むのも、それでもやっぱり諦めきれずに好きでいることも、全部が全部エゴそのもの。それが恋愛なんだから仕方ありません。誰かが悪いって話じゃないんですよね。

けれど、やっぱり傷つけられっぱなしじゃ悔しいですから。

今まで他の3人の背中を押してきたドロシーが、今度は3人から背中を押されてドロップキック!
ドロシーをそそのかすブリキたちの会話が楽しすぎて、読みながらニコニコしてしまいましたw
ほんとに人を蹴っちゃダメですけどね。
でも「傷ついた!悔しい!」って思ったときに隣に誰かがいて「悔しいね!やり返そうか!」って言ってくれるって素敵だなぁと思ったシーンでした(今から一緒に、これから一緒に、殴りに行こうか〜♪ が脳内エンドレスリピート)。
名シーンすぎてずっと心に残しておきたい・・・・・・。

 

雨から始まった物語が、雨に救われて、雲ひとつない大空の下で幕を閉じる、というのがとても素敵。
「オズの魔法使い」のストーリーを丁寧になぞる構成も素晴らしかったですし、笑顔を取り戻す高校生たちの姿には元気を分け与えてもらえました。読んで本当に良かった。

カミツキレイニーさんの新作も楽しみです( 艸`*)

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