『明日、今日の君に逢えなくても』(弥生志郎著/MF文庫J)★★★★★
明日、今日の君に逢えなくても (MF文庫J)【Amazon】/【BOOK☆WALKER】
2015年8月刊。
また素晴らしい青春ノベルが生まれてしまいました。
一人の身体に複数の人格が宿る病気〈シノニム〉。
この作品は、〈シノニム〉によって3人の人格を持つ少女と、彼女たちを見守る周囲の人々を描く青春群像劇です。
「病気の治癒は主人格以外の人格の消失を意味する」ことが、彼ら彼女らの心に何をもたらすのか。
繊細な心理描写によって導かれる結末は、少しの寂しさを感じさせつつも爽やかな読後感を与えてくれました。
まぁ、泣きましたけどね・・・・・・。
とても素晴らしかったです。
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☆あらすじ☆
「わたしは、あなたが好きです」
夏祭りの夜、由良統哉は妹に告白され、ファーストキスを奪われた。だが、彼女が誰なのか統哉には分からない。何故なら、彼女の身体には三人の少女の人格が宿っており、『かごめゲーム』の真っ最中だったから…。彼女たちの中で誰が本当の人格なのかは誰にも分からず、普通の女の子に戻る方法は一つだけ。それは、別人格が夢を叶え、この世界から消えることーーそして、夏祭りの夜から少女たちはそれぞれの想いを抱く。ある少女は音楽を奏で、ある少女は全力で疾走し、ある少女は恋を綴る。たとえ自分が偽りの人格だったとしても、最後まで自分らしく在るためにーー現在を駆け抜ける四つの青春群像劇、ここに開幕。
以下、ネタバレありの感想です。
発売前にあらすじを流し読みしたときは「妹の中にいる3人の人格のうち、兄に告白したのは誰だ?」っていう青春ミステリっぽい話かと思っていました。
それも重要な謎ではあるのですが、作品そのものとしてのメインテーマではなかったようです。勘違い。
物語は、由良統哉の義理の妹の中にいる3人の人格、藍里、茜、蘭香に1人ずつスポットを当てていき、彼女たちとそれぞれに近しい人たちとの最後の時間を描いていきます。
多重人格障害に似て非なる病気〈シノニム〉。
心の傷により発症するこの病気が癒えたとき、主人格を残して副人格は消えてしまいます。
しかし、藍里たちの誰が主人格かわからないまま、彼女たちは「もしかしたら自分は副人格で、いずれ消えてしまうかもしれない」という思いと共に日々を過ごしていくのです。
「人格の消失」を「死」と同じように考えるならば、これほど辛い毎日はないのではないでしょうか。
もし私が同じ状況に立ったなら、自分の存在の不安定さ、不確かさに怯えて、何もできなくなってしまいそうです。
それなのに副人格の少女たちは、そんな自分たちの運命を受け入れるのです。
主人格のために。
「夢を叶える」ことで。
副人格が一人ずつ消失していく話なのだと気づいたときは、先を読むのが少し不安になってしまいました。
最初の蘭香の物語を読んでる間は彼女に恋する悠の気持ちに共感しましたし、こんなに夢に向かってひたむきな子が、たった1回夢を叶えただけで消えてしまうなんてあまりにも残酷すぎる!とも憤慨もしました。
でも、これは決して残酷な物語ではないんですよね。
「このまま消えるなんて、死ぬほど悔しいけど。
哀しいだけなんて、寂しすぎるから。」
蘭香が歌う「世界の終わりに」の歌詞はとてもストレートで、蘭香の未練を感じさせるもの。
けれどそう歌った蘭香は、消える間際、想いを告げた悠に対して「私も、悠のこと忘れないから」と言うのです。
あの言葉は歌詞以上に印象的でした。今から消えるのに、なぜ覚えていられるのか、と。
そこから、蘭香にとって副人格の消失は「死」とは違って、主人格に全てを託し一つになることなのだ、と気づかされました。
全てが消えてなくなるわけじゃないから、彼女は「夢を叶える」ことに一生懸命になれたのでしょう。
それは蘭香以外の別人格の少女達についても同じ。
別人格の消失の先に、全ての少女達の思いを受け継いだ主人格が残るのだとしたら、それは「死」に比べて遙かに希望のある別れなんじゃないかなぁ、と思えました。
そういう気持ちで読むと、消失に怯えるよりも最後まで自分らしく在り続けた少女達の気高さと強さに魅力を感じて、よりこの作品を好きになれるんですよね。
・・・・・・うまく説明できないのがもどかしいな(´・ω・`)
それにしても、てっきり主人格は藍里だと思っていたのですが外れてしまいました。
カラー口絵はある意味ネタバレだったのか。
主人格「なずな」の人見知り具合には少し苛立たしさを感じてしまいました。
消えた副人格の少女たちの想いを受け取ってほしいからこそ、彼女には早く立ち直ってほしかったもので。しかし、「なずな」が〈シノニム〉を発症した原因の心の傷を知れば、蹲ってしまった彼女を責め続けられるはずもなく・・・・・・。
さてどうなるか、と思ったところであの小箱のシーンがくるわけですよ。
もう泣くわ。あんなの泣くに決まってるじゃないですか。
副人格として自分の夢を叶え、「なずな」に想いを託して消えていった少女たち。
彼女たちは最後まで「なずな」の味方であろうとし続けたのだと思うと、ぶわっと視界が潤みました。こういうの弱いんですよ。
副人格は消えても、彼女たちの心は「なずな」の心の中に確かに残っているのでしょう。
だから、消えたというよりも、一つになったと言った方が相応しい。
だって、ラストシーンの「なずな」は、確かに副人格の彼女たちが歩んだ軌跡の上に立っているのですから。
素晴らしい作品でした。
こういう作品が出てくると、嬉しくなってしまいますね。
弥生志郎さんの次回作も期待しています!