アイの物語


『アイの物語』(山本弘著/角川文庫)★★★★☆

アイの物語 (角川文庫)
アイの物語 (角川文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

2009年3月刊。
SF版千夜一夜物語。
アンドロイドと人間の関係を描く7本の短編と、それらを繋ぐ「語り部」とアンドロイド・アイビスの物語。
前半は仮想現実での人の在り方を描きつつ、後半はAIと人の関係性へ深く鋭く描かれていきます。
どの短編も面白かったのですが、全体として描かれるAIの可能性はとても興味深かったです。

☆あらすじ☆
これほど美しいSFがあっただろうか。細田守監督推薦の感動作!
数百年後の未来、機械に支配された地上で出会ったひとりの青年と美しきアンドロイド。機械を憎む青年に、アンドロイドは、かつてヒトが書いた物語を読んで聞かせるのだった――機械とヒトの千夜一夜物語。

以下、ネタバレありの感想です。

 

人の数が激減し、マシンによって支配された遠い未来。
マシンをおそれる人間のひとり「語り部」は女性型の美しいマシン・アイビスと戦闘し負傷。傷が癒えるまで、アイビスの語り聞かせる架空の物語の世界に浸り、自分の知らない人間とマシンの本当の関係に気付くことになるのです。

 

第1話 宇宙をぼくの手の上に

現実から逃れるように架空の世界を共有して楽しむ〈セレストリアル〉のメンバー。
架空の世界の繋がりが生み出す絆を温かく描き出した短編だったと思います。
刑事が「現実逃避の遊び」だと断じたリレー小説によって、現実に押しつぶされかけていた少年を救うことができた主人公。
何が正しいか、何が間違っているのかは一概に言えなくても、それが架空の世界で作り出されたものであっても、誰かに対する想いだけは真実となるのかもしれない。そんな気持ちにさせてくれる優しいお話でした。

 

第2話 ときめきの仮想空間

箱入りお嬢様が仮想空間で出会った青年とデートするお話。
第1話と同様、これも架空の世界で作られた想いの真否を問うようなお話でした。
ハンデのために見ることができない現実と、それ忘れさせてくれる架空の世界。どちらが彼女にとっての理想の世界なのでしょうか。この話を読んでいると全部ひっくるめて現実と考えてもいいんじゃない?と思ってしまいますが。
なんとなく、ここらへんから身体が存在する空間に囚われない「心」の在処というものを考えさせられはじめたように思います。

 

第3話 ミラーガール

「ミラーガール」というオモチャのAIに対して、少女が友情を感じるお話。
この短編からAIの在り方や存在感が問われ始めます。
人の強い想いがAIのブレイクスルーを促すのでしょうか。
しかし、オモチャのAIへ友情を感じることが健全なのかどうか・・・・・・ああでもこういうことを考えちゃうのは第1話の刑事みたいで何かイヤですね(´・ω・`)

 

第4話 ブラックホール・ダイバー

ブラックホールの先に何があるのか。
それを知ろうとする女性冒険者と、ブラックホールを管理するAIのお話。
この短編からAIがより人間めいた存在として描かれ始めます。そして「AIが人を理解出来るのか」ということも。
この話と次の話に出てくるAIは「人間」に近いんだよなぁ。

 

第5話 正義が正義である世界

正義のヒーローがいる世界に生きる「彩夏」とその文通相手のお話。
第1話を思い出しました。

悪しき者は罰せられ、愛と信頼と正義が勝つ。それが世界の正しいあり方ではないのか?

この短編を読んでいて気持ち悪くなったのは、この言葉にある「正しいあり方」の世界が実際にそこに存在しているせいなんですよね。
ぐるぐると繰り返し、勧善懲悪が固定化される世界。現実世界に生きる私からすると綺麗で整理されすぎたこの世界は、なんだかとても気持ちが悪い。けれど一方で、現実世界は醜く混沌としているがために滅びてしまう。
世界はどうあるべきなのか、という思考の泥沼に入りそうでした。

 

第6話 詩音が来た日

介護用AI・詩音のお話。とても強烈な短編でした。
詩音がヒトを理解するための基本的なモデルを「すべてのヒトは認知症である」という言葉で断じたとき、背筋がゾッとしました。そして、それを否定できないことに苦しくなってしまいます。
ヒトの持つ割り切れない微妙な感情を、AIがザックリと論理的に割り切ってしまうことも、なんだかとても辛いんですよね・・・・・・。ヒトはどうしてそうなれないのか。

 

第7話 アイの物語

アイビスが語る、最後にして「真実」の物語。
TAIへ人権を与えようと躍起になる人間と、そんな人間が自分たちを挟んで憎しみ合う姿に心を痛めるTAIたち。
最後のTAIたちと人間のスタンスの逆転は痛快でした。レイヤーの違いだけでヒトとTAIは同じようなモノの見方をしていたことが面白い。
傍から見ればどちらもすごく傲慢で、苦笑いのような気分にもなりましたけど(;・∀・)

 

最後2つの短編では、AIに人間性を求めることの不毛さに納得させられつつ、AIによって突きつけられる人間論に耳が痛くなりました。
詩音の認知症発言に集約される人間観。それを否定できないことをもどかしく思いつつも、そんな人の愚かさすらも許容するAIたちに救いを見たような気がします。
もしかしたら「語り部」たちが失敗し、人は愚かなまま消えていくかもしれない。それでも、その夢と愛はアンドロイドたちによって受け継がれていく。それはそれでハッピーエンドなんじゃないかと思いました。

良い作品でした。とても面白かったです!(´,,•ω•,,)♡

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