がらくた屋と月の夜話


『がらくた屋と月の夜話』(谷瑞恵著/幻冬舎)★★★★☆

がらくた屋と月の夜話
がらくた屋と月の夜話

2015年8月刊。
待望の谷さんの新作は、ガラクタ同然のブロガントたちが語る千夜一夜物語。

OLである主人公は、ある日、不思議なガラクタ屋の老人に出会い、彼が扱うブロガントの魅力に惹かれていきます。
老人とその息子の奇妙な関係を気にしながら、主人公は老人が語る様々なガラクタたちの物語を聞いていくのです。

連作短編の形式で話が進むのですが、どのエピソードも苦さと温かさのバランスが絶妙で、読んでいてじんわり心が癒やされるようでした。
女性の弱さを繊細に優しく描いていく、谷瑞恵作品ならではの空気も最高。
これがあるから谷さんの本を読みたくなるんですよねぇ。

☆あらすじ☆
仕事も恋も上手くいかないつき子は、ある日、道に迷い、一軒の骨董品屋に辿り着く。そこは、モノではなく、ガラクタに秘められた“物語”を売る店だった。古い時刻表、欠けたティーカップ、耳の取れたぬいぐるみ…。がらくたばかりの「河嶋骨董店」を、今日もまた忘れてしまった大切な何かを探しにお客たちが訪れる。トランクいっぱいに、あなたへの物語が詰まっている。「河嶋骨董店」へようこそ!

以下、ネタバレありの感想です。

 

ついていない人生を憂いながら、自分が他人とずれていることを気にするOL・つき子
そんな彼女がある日偶然に出会ったのは、ガラクタを売る不思議な老人・河嶋と、その息子である高校教師・天地
ガラクタの中に紛れ込んだ指輪を探すため、つき子はガラクタ屋「河嶋骨董店」に通うことに。その日々の中で、河嶋と天地の親子関係を不思議に思ったり、天地との距離感に戸惑ったりしつつ、つき子は河嶋が語る「ブロガントたちの物語」に惹かれていくようになるのです。

 

「ガラクタ」が語る千夜一夜物語、というコンセプトが面白い作品でした。
アンティークほど貴重ではないけれど、味のある中古品・ブロガント。
ひとつひとつの「ガラクタ」に込められた物語が、河嶋の口を借りて新しい持ち主に語り継がれていくのです。

人生の岐路に立たされていたり、ままならない人間関係に苦しんだり、ダメな自分を嫌悪したり。
ブロガントが選んだ持ち主たちは、誰も彼も行き詰まって辛い気持ちを抱えている人ばかり。
ガラクタたちの語るユニークでちょっと不思議な物語は、そんな新しい持ち主たちの心をじんわりと癒やしていくのです。
ガラクタの物語を通して、悩みを抱えた人々がゆっくりと前に進めるようになる。それはとても優しい導きだと、私には思えました。

 

千夜一夜物語的な各短編も面白かったのですが、つき子の物語としても素晴らしかった本作。
自分の不運や「ずれている」性格を気にし続けるつき子の弱さと優しさの描き方が、とても繊細なんですよね。共感する場面の多さに泣ける。
自分の性質を自覚して、騙された苦い過去の思い出の品を常に身につけていたつき子。真実から目を背けていることを自分で自覚しつつ、そんな自分を億劫に思う姿が印象的でした。

もっとも、どれだけ騙されやすくても、根本的に彼女は人を信じることができる人間。周囲に散々窘められても、自分の目で見て人を信じ続けることができるつき子は、優しくて素敵な女性だと思うのです。人を信じるって、言うほど簡単なことではないですから。

 

そんなつき子と深く関わることになる河嶋・天地親子。
「夜のトワエモア」「角ウサギの夢」で語られる親子の過去は切なく、特にヴォルペルティンガーの物語に託した河嶋の想いは胸がぎゅっと締め付けられるようでした。
誤解を抱えたまますれ違い、それでも傍に居続けた歪な親子。わだかまりを抱えつつも、彼らはずっと「家族」としての繋がりを持とうとし続けたんですよね。いじらしいような、もどかしいような。
できることなら最期の時を迎える前に和解してほしかった気もします。ですが、隠してきた想いをヴォルペルティンガーという「ガラクタ」に託して物語らせるというのも、この作品にぴったりのラストシーンだったのではないでしょうか。

 

つき子と天地の関係については、キス云々のシーンでにやっとしてしまいました。
のほほんと和菓子を食べるふたりの構図は、こちらまでほんわか和んでくるようで、とても好きです。弛緩した空気が良い。

 

人生に行き詰まったとき、私も月夜に散歩してみようかな。
もしかしたら、素敵な物語を聞かせてくれるガラクタと出会えるかもしれない。

そんな気分にさせてくれる素敵な作品でした。とても面白かったです。

 

谷さんの次回作も楽しみです!というか、次は異人館画廊の新刊ですね。早く読みたいなー(ノ)’ω`(ヾ)

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