飽くなき欲の秘蹟


『飽くなき欲の秘蹟〈サクラメント〉』(小山恭平著/小学館ガガガ文庫)★★★☆☆

飽くなき欲の秘蹟 (ガガガ文庫)
飽くなき欲の秘蹟 (ガガガ文庫)

2015年7月刊。
第9回小学館ライトノベル対象審査員特別章受賞作。
多くの人がちょっとした異能を持つ世界で、その異能を売買するお店の高校生アルバイトが主人公。
ポンコツな女店主のために、彼は売れる異能を探し求めて様々な人と出会っていく、という物語です。
異能を扱っているものの、基本的には人間ドラマという一風変わった異能×日常の現代ファンタジーでした。

☆あらすじ☆
「異能」は超能力や秘蹟など、そんな呼ばれ方をする不思議な力だ。それは人の願いと共に現れ、いつのまにか消えていくひとときの奇跡。そう稀少なものでもないが誰もが自由に手にできるものでもない。だから持たない者は思う―自分も欲しいと。そしてそこにビジネスチャンスが生まれ、異能転売業が生まれた。主人公・世杉見識の働く秘蹟商会もそんな異能転売業社の1つである。まだまだ規模は小さいが、明日の成功を夢見て彼らは日夜奮闘しているのであった。

以下、ネタバレありの感想です。

 

異能がさほど珍しくはない世界で、その異能を買い取り別の誰かに売ることを商売とする秘蹟商会。
主人公はその秘蹟商会でアルバイトをする高校生世杉見識
見識は異能持ちを見破ることができるという自身の特性を活かして、異能売買の取引相手を探しに店の外へと出て行くのです。

 

この見識が結構面白いキャラクターでした。
事故の後遺症で「欲」を失ってしまった見識は、それを補助する杖を手放せないものの、杖を調整することで「欲」をコントロールできるのです。
自己顕示欲まで調整できるってすごいですね!あがり症なんで、かなり羨ましくなってしまいました・・・・・・。

 

しかし、そんな彼の特性は良いことばかりではありません。
簡単に調整できてしまう「自分」にアイデンティティーを揺らがせ、不安定なメンタルを持つ見識。
利益優先のドライな性格かと思っていたのですが、背景を知ってしまうと何だかなぁ。
彼は彼なりに自分にない「欲」への憧れを持っていて、だからこそ「サボりたい!」とか言いつつ仕事に励むんでしょうね。
ここらへんはけっこう興味深いところだったので、ぜひ続刊で掘り下げてほしいです。

 

そんな見識が出会う様々な人々もまた独特。

共生が生み出す疑似親子関係が崩れてしまった2人の女の子。
亡母の模倣に囚われる後輩アルバイト。
作品ではなく作家そのものに価値があるとして「終わってしまった世界」に閉じこもる元教授。
塗りつぶされた母の手紙が読みたいという少年と、少年に真実を見せない父親。

誰も彼も、無意識で、あるいは気付いていても自分の中の「欲」をうまくコントロールできず、色んな欲に振り回される。
「欲」が表に出てきた結果である異能を通して、見識が知っていく彼らの事情はどれもこれも一筋縄ではいかないものばかりでした。

 

印象的だったのは、やはり最初の女子高生2人の関係でしょうか。
プライドを守るため、庇護を求めるため、それぞれの利益と醜い感情から始まった関係であっても、そこから生まれた感情は本物だっていう結論が素敵でした。

 

あと、元教授は価値観が面白かったので、セクハラ親父で落としちゃうのはもったいない気がしました。
彼が作品そのものを愛せず閉じこもってしまった理由とか、もうちょっと何か欲しかったかも。悪役である教授の底が浅かったのは少し残念。

 

それにしても、基本的に「親」という存在が問題の根本にあるのは何か意図してのことだったのでしょうか?
親子関係が作品の裏テーマだったりするのかな。

 

なかなか面白い作品だったと思います。シリーズ化してほしいなぁ。
割と出番少なめだったゆおも、最後で重くて暗い事情があることが判明しましたし、ぜひ続刊でゆおが幸せになるところが見たいです。

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