ラン・オーバー


『ラン・オーバー』(稲庭淳著/講談社ラノベ文庫)★★★★☆

ラン・オーバー (講談社ラノベ文庫)
ラン・オーバー (講談社ラノベ文庫)

2015年7月刊。
第4回講談社ラノベ文庫新人賞佳作受賞作。
発売直後から読んだ人の感想を見て気になっていたのですが、購入の後押しをさせたのは選考委員である榊先生の以下のツイートでした。


※記事というのはアキバblogのこちらのエントリのこと

読んだ人みんなが「怪作」だの「問題作」だの言うんだから読むしかないじゃないですか。ラノベって、意外とそういう評を得る作品は多くないんですから。
そして、読んで思いました。
「これは面白い。だけど人に面白いから読んで!って勧めるのはためらうタイプの面白さだ・・・・・・」(それなんてソラリス)

いじめに対して反逆を決意した、少年少女の青春ラブストーリー。
そう言っても(たぶん)間違っていないはずなのに、どうしてこれほど歪んだ作品となってしまうのか。
暴走する少年達。止まらない嗜虐心。サディスティックに猟奇的な、とあるクラスの物語です。
疾走感のある展開と、どこまでも堕ちていくような錯覚を覚えさせる雰囲気はとにかく素晴らしかったです。
心の準備ができた方から、是非どうぞ・・・・・・(;`・ω・)

☆あらすじ☆
謎の転校生にクラスは全滅させられる……
いじめが横行するクラスで日常を送る伊園は傍観者を貫いていた。だが湊里香が転校してきてから、すべては一変する。いじめのターゲットにされても動じない彼女はあるとき伊園を呼び出した。湊にある秘密を知られた伊園は、流されるまま彼女との同棲生活をスタートさせる。彼女の目的は一体何なのかと困惑する伊園に湊はあることを提案する。それはいじめのリーダーカップルに反撃すること。はじめは気乗りしなかった伊園も、次第に湊の意見に賛同するように。いじめのターゲットの原を巻き込み、三人の過激な反乱が始まる。だが、湊が求めていたのは、いじめを止めさせることなどではなかった……。第4回講談社ラノベ文庫新人賞佳作受賞作。

以下、ネタバレありの感想です。

 

いじめが横行しているクラスで、存在感を薄めた傍観者の立場にあって、日々の閉塞感にあえいでいた高校生伊園
そんな伊園の前に転校生湊里香が現れ、彼女に弱味を握られたことから、伊園の反逆の物語が始まるのです。

 

うーん、これを「いじめ」への反逆の物語といっていいのかな・・・・・・(・ω・;)
強いて言えば自分を含めた世界への反逆だったのか。

 

いじめで盛り上がるクラスの馬鹿どもに苛立ち、それを眺める自分に苛立ち、何もかもに苛立ってスリを繰り返してきた伊園。
繰り返す変化のない日々に倦んだ彼が、ずっとくすぶらせてきた破滅願望。あるいは破壊願望。
「理想の女」湊の登場によって、伊園は、スリという形で漏れ出ていたその暗い願望の箍を一気に外してしまうのです。

 

サイコパスすぎる湊の言動に、共感し、感染し、汚染されるかのように思考が黒く塗りつぶされていく伊園。
最初から少し歪んでいて、それがさらに暴走していく伊園の姿にひたすら恐怖してしまいました。

 

この作品を読んでいて改めてしみじみと思ったのは、「理解できない」というのは恐怖を生むのだな、ということ。

ヒロインである湊の予測不能な狂気に満ちた言動がその最たるものですね。

中盤で彼女が語る「理由」がどこまで本当なのか、あえて明かさない。
凶行の根底にあるものを説明せず、彼女という存在への理解を拒絶する。

「わからない」からこそ生まれる恐怖がそこにありました。
ホラー小説等で私が特に好きな手法なんですけど、まさかラノベの学園モノで読めるとは・・・・・・(;`・ω・)

 

そして、湊によって覚醒させられた伊園の狂気もまた「理解」を拒むものなのです。

最初のきっかけはいじめへの苛立ち。そして、攻撃されたから反撃しただけ。
しかし、そこから暴走を続ける伊園に「復讐したい」という明確な感情など、どこにもないのです。

例えば、伏見と田辺への報復が済んだ後に、次に選んだターゲットの「なぜ自分を選んだのか」という質問に伊園は「なんとなく」と答えるのです。

 

なんとなく。

 

あの場面で、これほど怖い言葉はないのではないでしょうか。
人は理解出来ないものを殊更に恐怖する生き物です。
怖いから何かしら理由をつけて安心を得ようとするのに、それをバッサリと切り捨てる言葉こそ「なんとなく」なのでは?
あのシーンはぶわっと鳥肌が立ちました。

 

伊園や湊に巻き込まれる形で、狂気に堕ちていく原の方がまだ理解できます。
いや、やっぱりどうだろう。「仕返し」という感情が原の中で果たしていつまで残っていたものか。

 

この狂気的な物語の中では、「伊園と湊のラブストーリー」という側面ですら歪んだ青春の1ページとなってしまいました。

ふたりが何を考えているのか説明はされているはずなのに、全くわからない。理解ができない。共感なんてできるはずがない。
「喪失感」を求めたサイコパスなカップルの、狂っていて、激しくて、どこまでも静かな感情の動きがゾワゾワと不快。

そのはずなのに、ラストシーンに美しさを感じてしまった私の心は、この物語のせいでどこか壊されてしまったのかもしれません。

 

あと、エピローグによる物語の締め方が最高です。
やはりホラーはこうでなくちゃ(違う)

 

すごい小説を読んでしまった・・・・・・。とても面白かったです。
クライマックスの集団ヒステリーにちょっとだけ強引さを感じたものの、その違和感を呑み込む疾走感が素晴らしかったです。
賛否は分かれそうですが、私の記憶に焼き付く作品であるのは間違いない。

これは次回作以降も注目せざるを得ませんね。

・・・・・・まさか2巻が出るとか言わないですよね?

スポンサーリンク
 
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。