波の手紙が響くとき


『波の手紙が響くとき』(オキシタケヒコ著/ハヤカワSFシリーズJコレクション)★★★★☆

波の手紙が響くとき (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)
波の手紙が響くとき (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

2015年5月刊。
「筺底のエルピス」(ガガガ文庫)で読み応え満点の素晴らしいSFを読ませてくれて以来、かなり注目しているSF作家・オキシタケヒコさん。
待望の2作目は「音」をテーマにした連作短編集でした。
「音にまつわる問題を、ほぐして解いて手を加え、解決するのを仕事とする」武佐音響研究所。
わずか3人の音のスペシャリストで構成されたその小さな会社には、今日も音にまつわる不可思議な事件が持ち込まれるのです。
ミステリな序盤から徐々にSFへと移行して、ラストは盛大にロマンチック。
タイトルの「波の手紙が響くとき」の意味が分かると、その深さと壮大さにうっとりとしてしまいました。

☆あらすじ☆
音声録音だけが手がかりの失踪人探し、深夜に囁かれる幽霊の声の調査…。零細企業の武佐音響研究所には、今日もワケアリの難事件が舞い込む。天使の声帯を持つ所長・佐敷裕一郎、口を開けば罵詈雑言の音響技術者・武藤富士伸、そして2人にこき使われる雑用係・鏑島カリン。彼らの掟破りなサウンド・プロファイリングが、“音”に潜む人々の切ない想いを解き明かす。さらに、彼らと因縁浅からぬトラブルメーカーのミュージシャン・日々木塚響が生み出した不思議な音色の謎は、皆を壮大な生命の秘密へと導いていく―個性的な解析チームが東奔西走するSF音響事件簿!

以下、ネタバレありの感想です。

 

武佐音響研究所。
そこに所属するのは3人のエンジニア。所長の佐敷裕一郎、チーフの武藤富士伸(フジ)、紅一点の若手鏑島カリン

本作はまず3本の短編でこの3人のエンジニアたちの人となりを掘り下げていきます。

 

「エコーの中でもう一度」/「亡霊と天使のビート」

最初2本の短編は作品の自己紹介と雰囲気を伝えようとするものという感じ。
扱われる内容はSFというより音響ミステリという感じで、繰り出される専門用語の応酬に目が回りそうでした(;´∀`)
全く知識のない超文系の私にも分かりやすく説明はされているんですけど、理解できたかどうかについてはノーコメントで・・・・・・。

しかしここで扱われる音響工学って、どこまで実在する技術なんでしょうか。
耳小骨置換型録音装置とかちょっと欲しいw

音響ミステリと共に語られるのは武佐研究所の職員達の人となり。
口の悪さに包まれたフジの優しさやカリンの天真爛漫さがわかると、この研究所の温かさが伝わってくるようでした。

 

 

「サイレンの呪文」

1本目と2本目のミステリ色は薄れ、ここから徐々にSF色が強くなっていきます。
幼気な天使の声帯を持つ巨漢の所長・裕一郎が主役の短編です。お前、昔は痩せてたのか・・・・・・

裕一郎とフジの高校生時代のエピソードなのですが、そこに出てくるのは「水魔の呪文」。
それは、聴いた人間に「水」ひいては「海」への欲求を募らせ、狂わせる魔法の呪文。
その不可思議は次の中編へとつながっていくわけです。だからここでは魔女の魔女たる所以だけ。

 

というわけでここで全ての謎が明らかになるわけではないものの、読み応えという意味では前2本の短編を遙かに上回りました。

事故の後遺症によって、他者から「異質」のレッテルを貼られ、欠けて歪んでしまった裕一郎の内面。
自分に深く関わる人間以外はどうでも良いと嘯きながら、反面で水魔の呪文を渇望する狂気を漏らすのです。
家族すら失い、フジだけに執着する裕一郎の孤独には息が詰まるような焦燥を感じてしまいました。あそこの心理描写は本当に素晴らしかったです。

 

そしてフジの告白を聴いた終盤のシーン。
裕一郎がやっと本音をフジに伝えたあの瞬間こそ、彼が初めて正面からフジと向き合えたわけですよね。
裕一郎が呪詛を吐き出し、それをフジが受け止める。それが友情を誓い合うように見える、その歪さに彼ららしさを感じました。
ふたりとも、本当に不器用なんだよなぁ。

 

 

「波の手紙が響くとき」

この作品の重要人物である日々木塚響。彼女が満を持して登場する中編です。まさに「本題」なエピソードでした。

 

・・・・・・1本目の短編でカリンが言っていた「友だちの携帯と同じ機種」ってそういうことだったのか・・・・・・ |゚Д゚)))

 

と、開始早々トラブルメーカーぶりを発揮した響。
「水魔の呪文」に続いて、彼女が作ったのは「耳が腐らせる曲」。その曲を聴いた者は聴覚を失う・・・・・・って何というホラー。
前3本の短編に登場した様々な関係者も一堂に会し、研究所の3人は突き止めた真実を披露するのです。

 

この中編は紛う事なきSFでした。
宇宙からの「波の手紙」。地球の外から送られる有意信号。
素晴らしくロマンチックです。天文の世界の壮大さは、全くのド素人の私ですら話を聴くだけでドキドキとしてしまいます。
それがもたらした影響は、予想外に大変な事態を引き起こしてしまいましたが(;・∀・)

 

宇宙からの信号を音楽に収めたことで生まれた魔女の魔法。
でもそれは響だけの魔法じゃなかったかもしれなくて、それこそ音楽に収めなくても何かを生んだかもしれなくて。
海を渇望させる水魔の呪文すら、もしかしたら・・・・・・という生命の起源に少しだけ触れる余韻の残し方が最高でした。
今は何もかもブラックボックスでも、いずれ全てが解明される日がくるのでしょうか。
そう考えると不安と期待で心がさざめいてしまいます。

 

 

「筐底のエルピス」に比べると、私には少し難しいSFでしたがとても面白かったです。
これシリーズ化してほしいなぁ。
エルピス2巻も発売予定らしいですので、そちらも楽しみですヾ(*˙︶˙*)

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