紅霞後宮物語


『紅霞後宮物語』(雪村花菜著/富士見L文庫)★★★★★

紅霞後宮物語 (富士見L文庫)
紅霞後宮物語 (富士見L文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

2015年5月刊。
第2回富士見ラノベ文芸大賞金賞受賞作。
素晴らしかったです。良いものを読みました。
元武官の女傑が皇帝となった知人に頼まれて後宮入りしてみた、ということで「笑える後宮ラブコメかな?」と気楽に手に取ってみた本作。確かに笑えました。竹を割ったような清々しい主人公を中心とする軽妙で軽快な語り口は、読んでいて心地よくなるレベル。挟まれるツッコミに何度吹き出したことか。
しかし、本作の真骨頂というべきは後半からの人間ドラマでしょう。
綺麗なモノに囲まれて、醜い感情が渦巻く後宮の物語。決して後味がスッキリするものとは言えないかもしれませんが、この主人公だからこそ大きな魅力をもって輝くのだと私は思うのです。

☆あらすじ☆
関小玉、33歳。不世出の軍人と噂される彼女は、「とある事情」から、かつての相棒にして今はこの国の皇帝である文林の懇願を受け、ある日突然、皇后となった。いきなり夫婦となった文林との関係に戸惑いつつも、小玉は持ち前の前向きさと大雑把さを武器に、女性の嫉妬と欲望が渦巻く後宮「紅霞宮」に入る。他の妃たちの嫌がらせにも気づかぬ小玉のマイペースさに、後宮はまさに大混乱!だが、その混乱は後宮に潜む“闇”をも目覚めさせてしまい…。選考委員絶賛の、あまりに型破りな後宮物語、ここに開幕―。

以下、ネタバレありの感想です。

 

主人公は、皇帝となった文林の頼みで後宮入りすることになった元武官関小玉
とても格好いい主人公でした。お姉様と呼ばせてほしくなる、女にモテるタイプの女傑。
不本意ながらも皇帝の妃となった小玉は、貧しい出自ゆえの逞しさと武人的なメンタルの強さを持って、嫉妬や陰謀渦巻く後宮生活を乗りこなしていくのです。

 

開始早々「目覚めれば豚の生首」という状況にびっくりしたのに、「肉付きいいし食べないともったいないな」という結論に至る小玉にもっとびっくりしましたw つよい。
他の妃嬪の嫉妬など気にも留めないというよりは気付かない。かといって愚鈍というわけではなく、むしろ理性的で理知的な才女。しかも武力あり。
ああ、これは他の女たちとは器が違うわ・・・・・・と遠い目をしたくなるほどイケメンな三十路でした。籠絡致し方なし。

 

もっとも、武官あがりの小玉が後宮の空気にさらっと馴染めるわけではなく。
優雅さ?ナニソレおいしくなさそうね・・・・・・とげっそりしつつも何とか皇后業を頑張る小玉の姿がコミカルに描かれていきます。コミカルすぎてめっちゃ笑いました。とても楽しかった!

 

基本的には、小玉や文林、その周囲の人々の軽快なやり取りや、地の文の冴え渡る軽妙な語り口を楽しむ後宮コメディといえるでしょう。
しかしそれ以上に私が惹かれたのは、その根底に澱み続け終盤で一気に放出される、割り切れない感情が複雑に絡み合う人間ドラマ

 

まず主人公の小玉からして、ただ脳天気に明るいヒロインというわけではないのです。

本来、小玉は武人。しかも卓越した用兵技術を持つ戦争の天才。
そんな女性が後宮の狭い世界に押し込められて満足できるわけもなく、小玉は「自分が皇后であることの意味」について疑問と迷いを抱き苦悩し続けます。
そもそも小玉が30を過ぎてから後宮入りした理由は、皇帝の妃となることで小玉に軍を指揮する権限を与え、その才能を遺憾なく発揮してもらおう、という文林の思惑から。
望んだ道ではないのに逃げ道はないことから鬱憤が爆発するのも当然で、小玉と玉林が殴り合いの喧嘩を始めたときは驚きつつも「まぁそうなるよなぁ」という気持ちの方が強かったりしました。

 

悩む小玉を救うことになる、「人は変わるのではなく、足されていく」という梅花の哲学はとても素敵ですね。
人の本質は変わらない。そこに色々なものが足されることで見えづらくなっても、元々のその人が消えるわけではないのだ、という一つの答えはとても優しくて、そこに相手への親愛が感じられてほっこりと心が温まるようです。

 

しかし、その優しい答えに救われない人もいる。

 

皇帝暗殺未遂事件から反乱軍鎮圧までの展開も怒濤の如くでしたが、それ自体よりも、それによって生み出された高貴妃の独白の方にゾッと鳥肌が立つほどの衝撃を受けました。
小玉の視点からでは影が薄く、何を考えていたのかわからなかった高貴妃。彼女の中で渦巻く感情が表に出たとき、なんだか深淵をのぞき込んだかのような錯覚にとらわれてしまいました。

皇帝の愛も初恋も家族の命も奪った女に対して、滾るような憎悪を向けるわけでもなかった高貴妃。早い段階ですでに諦めていた彼女の、「娘子、あなたさまの愛はとても正しい」というセリフがとても重い。
小玉に子どもを預ければきっと正しく愛してくれるだろう、だから・・・・・・と高貴妃が取った行動は目眩がするほど歪んでいるのに、哀しいくらいに気持ちだけは伝わってくるんですよね。もちろん共感なんてできるはずないですけど。
残された最後の矜恃だけは奪われまいとした高貴妃の行動が、その直前の「(皇后としての権限で)もしかしたら子どもだけは助けられるかもしれない」という小玉の優しい傲慢さへの痛烈な反撃のように思えて仕方ありませんでした。

 

高貴妃が強烈でしたが、文林をはじめ李才人や王太妃などなど、他の人物たちもみんな一本調子のキャラクターではないのが本当に良いです。企んだり悩んだり怒ったり笑ったり。「こういう人なんです」って一言で説明できないのが人間なんだよなぁとしみじみ思いました。それだけに梅花の哲学が心に染みて、それで救われない高貴妃の結末が哀しかったのですが。

 

醜い感情に振り回される後宮の女たちだけでなく、真っ直ぐな気性の小玉だって全ての感情をさらけだしているわけじゃない。特に、文林との関係では。
夫婦だけど男女関係ではない。どちらかというと相棒という感じだけど不信感は拭えない。
これも大人の関係といえるのでしょうか。もどかしすぎて頭をかきむしりたくなるまである。

文林はこのまま自分でも諦めている(ように見える)片思いを続けるのかな。小玉はそれに知らん振りをし続けるのでしょうか。気になるのはこの一文があるシーン。

自分は多分、ほんの少しでも他の女性のものだという感じのある男は好きになれないのだ。嫉妬とか悲しみとかを抱くのではなく、醒めてしまう。(231ページ)

本当に醒めてしまったのでしょうか。文林の気持ちに気付いていてそれを口に出さないのは、相手の望む感情を自分が差し出せないからだ、という小玉の独白に胸が締めつけられるようでしたが、本当に?
そう思いたいだけで予防線を張っているようにも見えるのですが。私がそう思いたいだけだからかな。楊清喜の「そのうちほだされる」に一票投じます。じゃないと文林が不憫だ!

 

・・・・・・まぁ文林もやってること大概なんですけどね。これほど機械的に後宮での皇帝業をこなしてる人、見たことないです。「少し、疲れた」のセリフの哀愁漂い方ぱない(´;ω;`)

 

後宮という舞台でお気楽なコメディだけをやっていられるわけないじゃない、と冷や水をぶっかけてくるような読み応えのある人間ドラマでした。
しかし全編を通した軽快な語り口が雰囲気を暗くさせすぎないのでとても読みやすく、バランスが絶妙な作品です。

本当に素晴らしかったです。良い作品に出会えた充実感に浸れて、今とても幸せ(´∀`*)

 

あとがきにあるように「彼らのとある時代だけを切り取って額縁におさめたような」物語として十分に完成度が高い作品だと思います。
ですが欲を言えばぜひ続編を出してもらって「そこんとこもっと詳しく・・・!」というサブエピソードや、小玉と文林の関係の行く末など、この世界観を思うまま書き切ってほしいですね。
新人賞受賞作ですが元はWEB小説だそうです。ただ、探しても見つからなかったしもう削除してしまってるのかな。ぜひ書籍で続きをお願いします!

※2015年6月3日追記
コメントにて情報をいただきました。「ある皇后の一生」というタイトルで小説家になろうにて掲載中だとのことです!(本編削除済み、番外編のみ掲載)
やったぜこれで続き(?)が読める( ・ㅂ・)و ̑̑
リンクを貼っておきますねー!
「ある皇后の一生」:小説家になろう

書籍でも続編出るって信じてます!

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「紅霞後宮物語」への2件のフィードバック

  1. はじめましてゆきと申します。私は、気に入った本は他の方の感想を探して読んでしまうのですが、私も高貴妃の独白「娘子、あなたのさまの愛はとても正しい」に衝撃を受けたので、同じことを感じてらっしゃる方がいる!と思って今更ながらにコメントさせて頂きます^^続編出て欲しいですね。
    それから、WEBで探されたとのことですが、紅霞後宮物語は「ある皇后の一生」というタイトルで小説家になろう!というサイトに掲載されてますよ。残念ながら小玉の軍人時代の話はダイジェスト化されて読めませんでしたが、皇后になってしばらくしてからの話や登場人物のその後や設定集が置いてあります。すでに見つけていらっしゃったらすみません。

    1. ゆきさん、コメントありがとうございます。

      あの高貴妃の独白は衝撃的でしたよね。読みながら鳥肌が止まらず、空気に呑まれて息苦しくなるような良シーンでした。

      続編を本当に待ち望んでいたところなんですが、なろうにはまだ掲載されていたんですね!
      改題だったとは・・・・・・

      全く気づけていませんでした。情報ありがとうございます!!
      さっそく読んでみようと思います٩( ‘ω’ )و

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