拝啓 彼方からあなたへ


『拝啓 彼方からあなたへ』(谷瑞恵著/集英社)★★★★★

拝啓 彼方からあなたへ
拝啓 彼方からあなたへ

「伯爵と妖精」「思い出のとき修理します」の谷瑞恵さんが初の単行本を出版されると聞いてから、ずっと読むのを楽しみにしていた1冊です。
期待に違わずとても面白かった!
「手紙」をテーマにしたミステリーであり、主人公は「手紙」を扱う雑貨屋の女性店主です。
店に訪れるお客さんたちの、「手紙」にまつわる小さな心温まるエピソードに触れる日常。そんな日々の中で、主人公は自分に「手紙」を託した親友の不可解な死の謎に迫っていきます。
最初は「思い出のとき」のようなライトミステリー系の連作短編なのかと思っていましたが、中盤以降から雰囲気ががらりと変わってしまいました。これは長編ミステリーになるのかな?
ライトミステリーほどライトではないし、かといって本格ミステリーのような終始殺伐とした作品とも違うような気がします。帯には「ハートフル・ミステリー」と書いてありました。確かにこの表現が一番近いかもしれません。
そして、谷瑞恵作品といえば繊細な恋愛感情とそれに対する戸惑いと苦悩の描写。
本作は今までの作品よりさらに一歩踏み込んで、より複雑で息が詰まるような大人の恋愛感情が描かれていきます。
少女小説とも「思い出のとき」とも違う、谷瑞恵さんの新境地を見ることができた作品でした。本当に素晴らしかったです。

☆あらすじ☆
親友の響子に「自分が死んだらこの手紙を投函してほしい」と託された詩穂。
響子の死を知った詩穂は手紙を開封し、響子の過去にまつわる事件に巻き込まれてゆく・・・。
ベストセラー作家初の単行本。

以下、ネタバレありの感想です。

 

手紙をメインに扱う雑貨屋「おたより庵」の店主・詩穂
手紙に深い思い入れを持つ彼女のもとには、日々、様々な「手紙」とそれに想いを託す色々なお客さんたちが訪れます。

「もしもあたしが死んだら、この手紙をポストに入れてください」と親友から託された古い手紙。
再び会うことは叶わない恋人への情熱的な愛の詩が綴られ、海を越えて届いた瓶詰めの手紙。
冤罪をかけられた女子高生に宛てた、文通のお誘いを綴った優しい手紙。
息子が父へに宛てた手紙と、その返事として父が息子に宛てた世界で一番短い手紙。

他にも多くの手紙が作中で登場し、詩穂は、決して綺麗なだけではない複雑な感情をそこに読み取っていきます。
メールや電話が発達し、タイムラグのある「手紙」はどんどん廃れていくばかり。
だけど、時間をかけて一文字ずつ丁寧に想いをこめて綴られていく手紙だからこそ伝えることができる想いもあるんですよね。
「私も大事な人に何か手紙を書こうかな。どんな紙に、どんな筆記具で、どんな気持ちを綴ろうかな」と思わず考えてしまうような、心が温かくなるエピソードの数々でした。

 

一方で、手紙は書き手の暗い感情さえものせて受取人に届いてしまいます。
穏やかなライトミステリ調だった前半の雰囲気を一変させたのは、一通の手紙でした。
詩穂の近辺で起こる悪意ある手紙のイタズラ。その差出人「きょうこ」が、かつて詩穂に手紙を託した親友・響子と同じ名前なのは偶然なのか。
さらに、当初は自殺をしたと思われていた響子から詩穂宛てに1通の手紙が届いたことで、物語は不気味で不穏な雰囲気を纏っていきます。

 

響子が詩穂に宛てた罪の告白と別れのメッセージは何を意味するのか。
彼女は自殺ではなかったのか。彼女に本当は何があったのか。
イタズラの手紙を送りつけてくる犯人とはどんな関係があるのか。

 

自身に脅迫の手紙が届く状態にあっても、詩穂は親友の死の真相を知るために果敢に行動を起こします。
そうして始まった、断罪の手紙を綴る詩穂と、歪んだ愛情を刻む犯人の文通。
前半の温かい手紙とは全然違う、負の感情が込められた手紙の内容にゾクリとします。
誰が犯人なのか、その人はどこにいるのか。もしかしたらすぐ近くにいる見知った誰かなのではないか。
そんな緊張感のある展開が続き、中盤以降は息つく暇もないほど一気に読んでしまいました。

 

犯人は途中で見当がついたんですが、もう1人疑わしい人がいて、どっちかなぁと最後まで迷ってしまいましたw
イタズラ手紙の動機が出た段階で、なるほどねと納得。悪質で歪みきった彼の思惑に鳥肌が立ちます。

最後に彼が綴った手紙の中でも、彼は自分の歪みに気づけないままでした。
ただ、「これできみは、安心して眠れるだろうか。今はせめてそれを願う。」という言葉には、単純に表現できない何かが詰まっているようで、何度も何度も読み返してしまいました。

 

 

ミステリーとしても面白かった本作ですが、谷瑞恵作品と言えば欠かせないのは恋愛描写。
読み始めたときには、「伯爵と妖精」のリディアとエドガーや、「思い出のとき修理します」の明里と秀司のように、思わずニヤニヤとしてしまうような主人公カップルの甘い恋愛がこの作品でも読めるのかな?と思っていました。

が、その期待は見事に裏切られてしまう結果に。

 

本作で描かれるのは、甘さやときめきとはかけ離れた、大人ならではの不器用で息が詰まるような愛憎。そして、過去にとらわれて疲れきった心が生み出す臆病な距離感でした。

詩穂と響子が苦しんだ、押さえつけられ身動きがとれなくなるような恋人の執着。
怖い怖い怖い・・・・・・っと思いつつも既視感を覚えずにはいられない恋愛の形でした。
現実によく見る間違った恋人関係ですよね。私の友人にも、何人も詩穂のような苦悩を抱えた子たちがいました。彼女たちから話を聞いて、恋人を何だと思ってるんだ!?と憤ったことも数知れず。
特に加島くらいの理不尽な男性は本当に多いです(響子の方はさすがにアレですけど)。
そしてそういう男性から離れられない女性も多いです・・・・・・残念なことですが。
詩穂が途中何度も迷わされたように、洗脳レベルで思考を誘導されちゃうんですよね。
この人には自分がいなければならない、自分にはこの人がいなければならない、って。

どちらにも本当の意味で自覚がないから余計にタチが悪い。相互依存なんだよなぁ・・・・・・。

 

実父や加島によって、自信も誇りも何もかもを打ち砕かれて、それでもどうにか立ち直ったものの疲れ切ってしまっていた詩穂の心。
彼女を気にかける城山に警戒心を抱くのも仕方ないのかもしれません。
城山が優しい人だとわかっていても彼との距離を詰めることに躊躇してしまう詩穂ですが、過去を知れば知るほど、臆病な彼女を責めることはできないんですよね。

対する城山も自分の過去への負い目からか、最後まで詩穂への想いをハッキリさせようとはしませんでしたし。

ああもう何コレ!なんでこんなもどかしいの!?
話が進むにつれて、詩穂と城山の距離感は少しずつでも確実に縮まっていたはずなのに!もう一歩!あと一歩をどうして踏み出せないのか!

正直苛立つほどもどかしいのに、一方で繊細すぎる詩穂と城山の関係にどうしようもなく心が惹かれてしまいます。
うう・・・・・・さすが谷さん。詩穂の揺れ動く感情と、彼女を支える城山の不器用な優しさに胸が締めつけられるようでした。
詩穂の過去、城山の過去、そしてふたりが巻き込まれていった今回の事件。全ての真実が明らかになった後では、ただもう詩穂と城山がこのまま穏やかな関係を保っていけるように願うばかりでした。

 

それにしても城山さんは渋かっこいい大人の男性でしたね。
今までの谷瑞恵作品にはいないタイプじゃないかな。
言葉少なめで不器用な優しさといえば「魔女の結婚」のマティアスを連想しますけど、彼ともまた違う雰囲気ですし。
何気に夕佳と城山さんの掛け合いが好きでした。児童心理学には笑ったw

 

まさに谷瑞恵さんの新境地ともいえる作品でした。本当に面白かったです。
次は1月発売の「異人館画廊」の2巻ですね!とても待ち遠しいです( ´ ▽ ` )ノ

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