いちご同盟


『いちご同盟』(三田誠広著/集英社文庫)★★★★☆

いちご同盟 集英社文庫
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「四月は君の嘘」の重要シーンで引用されていたことから、気になって読んでみた作品です。
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四月は君の嘘(1) (講談社コミックス月刊マガジン)四月は君の嘘(1) (講談社コミックス月刊マガジン)
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軽い気持ちで読んで打ちのめされました(君嘘の内容的に覚悟しとけよという話ですが)。
15歳になるかならないかの中学生3人の交流を描く物語で、登場するのはピアノを弾く少年と、野球がうまい少年と、病床の少女。
読んでみれば、なるほど確かに「四月は君の嘘」はこの作品のオマージュ的な側面がありますね。細部は違いますが、テーマはどちらも共通して強烈。
生きるとは何か、死ぬとは何か。人生の道筋を、生まれて初めて真剣に考えるであろう中学生ならではの人生観。
15歳というのは子供と大人の境界を歩くアンバランスな生き物なのだと再認識させられつつ、今の自分にとっても深く突き刺さる言葉にあふれた作品でした。

☆あらすじ☆
中学三年生の良一は、同級生の野球部のエース・徹也を通じて、重症の腫瘍で入院中の少女・直美を知る。徹也は対抗試合に全力を尽くして直美を力づけ、良一もよい話し相手になって彼女を慰める。ある日、直美が突然良一に言った。「あたしと、心中しない?」ガラス細工のように繊細な少年の日の恋愛と友情、生と死をリリカルに描いた長篇。

読んだ動機が上述の通りですので、以下は「四月は君の嘘」の内容(ネタバレあり)に少し触れながらの感想になります。ご注意ください。

 

物語は、「ぼく」・北沢良一と、彼の同級生で野球部のエース・羽根木徹也、徹也に連れて行かれた病院で出会った少女・上原直美の3人の交流の過程が描かれていきます。

この3人のキャラクター性だけをみれば、「四月は君の嘘」の有馬公生、渡亮太(あるいは澤部椿。徹也は渡と椿を足して2で割ったような人物)、宮園かをりを連想しますが、その内実はだいぶ違っています。

ピアノが得意だけどプロになるほどの才能は見いだせず、将来に迷い悩み、「自殺」に興味を抱く良一。
父と同じく軽薄で多情な男になるのではないかと怯え、幼馴染みである直美の存在を心の支えとする徹也。
そして、死を目前にしていじけながらも強いまなざしを持つ直美。
君嘘のキャラクター達よりも、少し影が強い気がしました。

 

彼ら3人は15歳になるかならないかの中学3年生です。

15歳というのは難しい年頃ですよね。
自分の前に色々な道が見え始め、多くの人にとって人生について真面目に考える最初のタイミング。
自分の将来、人生について考えなければならないから子供ではいられないのに、大人にもなりきれない不安定な時期。
そういえば私は15歳くらいの頃、景気の悪さと日本の若者に将来がないことを過激にかき立てたある新聞の社説を読んで「ああ私の人生なんて、今どれだけ頑張っても、どうせ明るくはならないんだ」と大泣きしたのを思い出しました。漠然とした不安に押しつぶされる感覚が怖くて仕方なかったんです。
確かにガラスのように繊細な年頃なのかもしれませんね。思い出すと恥ずかしいな!

 

この物語の主人公である良一も、中学卒業後の進路に迷い、人生の道筋を見いだせずにいる繊細な少年でした。

むりをして生きていても
どうせみんな
死んでしまうんだ
ばかやろう (10頁)

自殺した少年の遺したメッセージを、どこか魅入られたように心に刻み込んでいた良一。
どうせ死ぬというのは甘美な響きだと思います。歳を重ねても、嫌なことにぶつかる度に頭によぎる言葉です。
悩んで迷っている人間にとって、ある意味でとても優しい言葉なのかもしれません。

 

そんな良一は徹也と知り合ったことをきっかけに、直美のお見舞いのために病院へ通うようになり、次第に彼女に惹かれていきます。

良一が直美に惹かれたのは、なぜだったのでしょう。
単純にタイプの女の子だったのかな?とも思うのですが、私には「自殺」に惹かれるのと同じように、直美を取り囲む「病気の臭い、あるいは、死の臭い」に惹かれてしまったようにみえました。

自分と同い年なのに、どうしようもなく「死」を連想させる少女。
彼女と初めて会った直後、良一は暗譜するほど何度も弾いてきたはずのラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」を弾きながら胸を熱くさせます。あのシーンは憧れていた「死」を近くで見たことによる良一の興奮を表していたのではないかと私は感じました。

良一は、直美と出会ったことにより甘美な「死」への憧れを一時的に強めていきます。
しかし、「可能性がある人がうらやましい。自殺のことを考えるなんて、贅沢だわ」(119頁)という直美の言葉を境に、彼が抱く「自殺」への憧れは徐々に揺らぎ始めます。
直美の後ろに見えるあまりにもリアルすぎる「死」は、逆に彼を現実に引き戻していったようにもみえました。自分の甘えを、直美を通して理解したのだと思います。

 

そもそも、死を甘えに留まっていても、現実は待っていてはくれません。
中学3年生は卒業後の進路を決めなければならないし、そのために必要なら家族とも向き合わなければならない。
そうして、忙しげに現実へと戻っていく良一に対して、病気の進行が進む直美はあのセリフを投げかけるのです。

「あたしと、心中しない?」(166頁)

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この直美のセリフは「四月は君の嘘」でそのまま引用されています。
どうしてこのタイミングだったのでしょうか。

自殺に思いをはせていた時の良一ではなく、地に足をつけて将来のための準備を始めた良一に対して自殺を誘った直美。
直美は何を思っていたのか。彼女のセリフを引用したかをりは何を思っていたのか。
自分がいなくなって忘れられることへの恐怖が、彼女たちにそんな言葉を吐き出させたのかもしれません。
あるいは、自分の存在を忘れて、自分には存在しない「将来」への準備に没頭する男の子への恨み言だったのかもしれませんね。

 

避けられない死を突きつけられたとき、人は、自分の前に立つ「将来がある他人」をどういう目で見るのでしょうか。
自分がいなくなった後も続くその人の人生の中に、自分の思い出を残してほしいと願うのでしょうか。

今の私には難しすぎる疑問ですが、少なくとも、作中の直美は思い出を残して欲しいと願っていました。
手術前の綺麗な体を良一に見せることで、自分の存在を彼に刻みつけたかったのかもしれません。

 

そんな直美の願いを、彼女に恋した少年達はしっかりと受け止めます。

徹也と良一が直美の思い出を消さないために結んだ「いちご同盟」。
人生に迷い死に憧れていた少年は、恋した少女を忘れないために長生きを決意するのです。
どうせ死ぬ、ではなく、思い出を残すために生きる。
15歳の少年が生きる理由として、これほど上等なものなんてないでしょうね。生きることに小難しい理由なんて必要ないのかもしれません。

「生きろよ」「ああ、生きるよ」という少年達の単純明快な約束はあまりにもまぶしくて、とても胸に染みます。

 

生きるとは何か、死ぬとは何か、を突き詰めて考えさせられるようでいて、私は結局「深く考えるべきじゃないのかも」という結論に至ってしまいましたw
もっと気楽に、誰かの思い出を残していくためだけに生きていくというのもいいんじゃないかな、と思うのです。
それは大事な友人だったり、家族だったり、死んでしまった人だけじゃなくて、今生きてる人の思い出でもいいんじゃないでしょうか。
うーん、自分で言っていてよく分からない結論です。要は、生きることってそんなに小難しくない単純なことなんじゃないかなっていう考えです。

良い作品でした。辛いことがあって、自殺に甘美な響きを感じたときに、また読み返したいと思います。

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