放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い


『放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い』(杉原智則著/電撃文庫)★★★★☆

放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い (電撃文庫)
放課後のフェアリーテイル ぼくと自転車の魔法使い (電撃文庫)

現実と幻想が入り乱れる世界観で、児童文学風の作品でした。とても私好み。
主人公「ぼく」はある夢を見たときから、妖精たちが飛び回る不思議な世界「マ・ウアー=コギト」に迷い込むようになってしまいます。
普段過ごしている何気ない場所からふとした瞬間に「扉」をくぐり、そこで出会った懐かしいお姉さんと一緒にマ・ウアーで大冒険を繰り広げる「ぼく」。
「ぼく」はどうしてマ・ウアーに迷い込んでしまったのか?夢なのか幻なのか、それとも・・・・・・?
全ての真相を知ると切なさにたまらない気持ちになる、そんな作品です。

☆あらすじ☆
魔法の国マ・ウアー=コギト。ある日突然にぼくはその国へ迷い込んだ。そこはかつて、クラスメイトの神永くんが語って聞かせてくれた世界そのものだった。悪戯な妖精、巨人な人喰い蜘蛛、ネズミのようなニゼム族、それら全てをつくった、魔法をあやつる女王―。しかし、世界は危機に瀕していた。魔女が黒い炎で世界を消去しているのだ。立ち向かうのは、憧れていた神永くんの姉にそっくりなコノハさん。彼女とともに、ぼくは幾多の冒険を繰り広げる。神永くんの語りと不思議な一致を見せるマ・ウアーの秘密とは?コノハさんの正体とは?いくつもの謎と冒険が織りなす放課後ファンタジー・ストーリー。

以下、ネタバレありの感想です。

 

主人公「ぼく」が迷い込んだ不思議な世界「マ・ウアー=コギト」
そこでは小学校のクラスメイト・神永くんがかつて話してくれた世界と同じ光景が広がり、神永くんの姉ほのかとそっくりな<紺色の修復士>コノハが魔女によって焼かれた世界を修復して回っていて、妖精や小人や人食い蜘蛛やドット絵のドラゴンが闊歩する、まさにおとぎの国。

そんな世界に「ぼく」は、時には公園から、時には森の中から、時にはゲームセンターの古い筐体の前から、ふとした瞬間に「扉」をくぐって迷い込んでしまいます。

 

当初は、あまりにも現実と幻想の世界の境界線が曖昧で、こちらが夢や幻を見ているようなフワフワとした気持ちにさせられました。同じように、ぼく」にとっても見ているものは夢か幻なんじゃないか?と思わせるようなファクターがたくさんあって、本当はマ・ウアー=コギトなんてないんじゃないか、これは全て過去の何らかの出来事が原因で起こる幻想なんじゃないかと読みながら疑っていました。

 

結局、半分は当たり、半分は外れだったということでしょうか。

 

マ・ウアーで大冒険をしていくにつれて、徐々にその世界を語っていた神永くんとの思い出に触れていく「ぼく」
肝心の神永くんはどこに行ってしまったんだろうか、小学生だった彼らに何があったんだろか。
考えれば嫌な予感しかしませんでしたが、物語の中盤を過ぎ、「ぼく」に真相を受け入れる心の準備ができてから、幻想に押されていた現実が少しずつ前に出てくるようになります。

 

きっと、「ぼく」は最初から真相をうっすら分かっていたのではないでしょうか。
具体的に何があったのかわからなくても神永くんに関わることだとは予想がついたでしょうし、だからこそ彼は偶然を装って神永くんが最期にいた場所を訪れ、現実を受け入れる覚悟を決めたのだと思います。あのシーンを境に、この作品は楽しいファンタジーな幻想の物語から、痛みを伴う現実の物語に切り替わってしまいました。「ぼく」にとっても読者にとっても。
神永くんに起こった悲劇が判明していくと、今までのマ・ウアーでの様々な出来事に違う見方ができていくのには切ないながら感動してしまいました。

 

真相は予想以上に痛ましいものでした。
小学生だったほのかと神永くんが、家族が崩壊する恐怖から逃げ込むために作り上げた空想上の世界。
それを捨ててしまったほのかは、まるで空想上の世界に逃げ込むかのように川を渡ろうとした弟の悲劇に心を壊してしまったのも仕方ないことだったのかもしれません。
でも神永くんはきっと、大好きな姉が苦しむのはいやだったんじゃないでしょうか。
だから、一緒に物語を共有してくれた「ぼく」に姉を助けてほしくてマ・ウアー=コギトに呼んだんじゃないないでしょうか。
全ての始まりである姉弟の夢は、そんな神永くんのSOSだったんだろうな、と私は思います。
最後に「ぼく」のほのかへの恋心にちくりと釘をさす神永くんがとてもかわいくて、泣きそうになりました。

 

小学生だった友人たちが、一緒に遊ぶ最後の物語。
そして、現実を生きていくために過去を受け入れる物語。
とても優しくて切なくて悲しい、良い作品だったと思います。

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