プシュケの涙


『プシュケの涙』(柴村仁著/メディアワークス文庫)★★★★☆

プシュケの涙 (メディアワークス文庫)
プシュケの涙 (メディアワークス文庫)

メディアワークス文庫で何か面白いのないかなぁーと思いつつ、ネットで名前をみたことがあったこちらを購入。
実家に同文庫のビブリアが全巻あるのですが、そちらはなぜか積みっぱなしという。ドラマで観ちゃったからなんだか満足しちゃったんだよね。
文体があまりにも軽く、いかにもライトノベルという感じだったのですが、ストーリーと構成が秀逸でした。
思わず母に薦めてみたけど、受け入れられるかどうかは微妙なところ(ビブリアは面白かったらしいけど・・・)

☆あらすじ☆
「こうして言葉にしてみると……すごく陳腐だ。笑っていいよ」
「笑わないよ。笑っていいことじゃないだろう」
あなたがそう言ってくれたから、私はここにいる――あなたのそばは、呼吸がしやすい。ここにいれば、私は安らかだった。だから私は、あなたのために絵を描こう。
夏休み、一人の少女が校舎の四階から飛び降り自殺した。そのわけを探る二人の少年。一人は、全てがうまくいかず鬱々としてる受験生。もう一人は、何を考えているかよく分からない“変人”。そんな二人が導き出した真実は……。

以下、ネタバレありの感想です。

 

全部読み終わると、あらすじにすら泣けてくる。

 

物語は二部構成となっていて、前半では榎戸川視点で少女の自殺の謎を追っていきます。

 

夏休みの補講の最中に飛び降り自殺を目撃した彼は、突然由良という変人に「なぜ吉野彼方が自殺したのか」という謎を解こうと誘われます。冒頭の雰囲気はミステリー調。
どこか読めない由良の言動よりも、最初は由良に戸惑うばかりだった榎戸川が徐々に暗い雰囲気を醸し出していく様子が不気味でした。

 

由良自身も何を考えているのかわからない点で相当気味が悪い存在だったのですが、吉野彼方の死の真相が打ち明けられる前後での榎戸川の心理が私には不可解でした。
織恵と旭の関係と二人が自分をどのように見ているのかに気づきながら、それでも織恵を守るために吉野彼方の死を偽装しようとした榎戸川。
彼の思いが純真で一途なものとはどうしても見ることができない。
能動的に偽装工作をする彼は、すでに歪んでいたのではないでしょうか。
真相を由良に告白した後、榎戸川は由良をも口封じに殺そうとするのですが(結局は未遂にも至っていないが)、その発想自体が彼の歪みを表しているように思えます。

 

結局、榎戸川の一人称視点で語られる前半は、ひたすらに榎戸川という人間性が理解できず、なんだか不気味な高校生だという感想しか持てませんでした。

 

しかし、この物語の真髄は後半にこそあるのでしょう。後半は、吉野彼方の視点で彼女が事故死する1年前の出来事が語られます。

 

吉野彼方は、人間関係をうまく構築できないうえに、最低の父親との関係に悩む少女でした。
彼女の趣味は絵を描くことで、それを通じて美術部の由良と接点をもちます。
ここで出てくる由良は前半とは別人のように明るく快活な人物です(変人であることには変わりありませんが)。
吉野彼方は最初は戸惑いつつも、自分の事情が知られていくにつれて由良に心を開いていきます。

 

この二人の関係性の変化がとても丁寧に描かれており、それだけに「吉野彼方の死」という前半に提示された事実が心を締め付けます。
特に、文化祭で二人がシャボン玉を吹くシーンを読むと、普通ならこれで二人は付き合ってハッピーエンドとなるはずだったのに、とやるせない気持ちになります。
前半で榎戸川から真相を聞かされた由良が嘔吐していたシーンや、榎戸川に対して由良が「吉野彼方は普通の女の子だったんだよ」と語っていたことを思い返せば、さらに切なくなります。

 

何故あんな馬鹿なカップルと歪んだ少年のせいで、やっと幸せになれるはずだった吉野彼方が死ななければならなかったのか。
前半の榎戸川の心理が私には理解不能だったことで、ますます吉野彼方の死が理不尽であることが強調されたように思います。

 

時系列通りに読めば、なんか悲恋ものだったな、という感想しか持たなかったのではないでしょうか。
先に「ヒロインの死」が提示されたことで、由良と吉野彼方の淡い恋がより美しく儚いものに感じられるのだと思います。

 

そういえば、タイトルにある「プシュケ」とはギリシャ神話の女神さまだそうですが、表紙と作中の絵のモチーフに使われている蝶は、ギリシャ語で「プシューケー」というらしく、魂の象徴だそうです。

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