読者と主人公と二人のこれから/岬鷺宮


読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)
読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

評価:★★★★☆
2017年4月刊。
とても甘酸っぱい青春恋愛小説。すごく好みな作品でした!
大切な小説の中から抜け出てきたような少女に出会った主人公。
他者との関わりが苦手な彼は「好きな小説の主人公」としてよく知っている彼女にどんどん惹かれていくことになるのです。
1冊の小説を介して繋がるコミュ下手な二人の一進一退な恋と成長を描いた素敵な物語だと思います。面白かった!

☆あらすじ☆
この物語さえあれば、他に何もいらない。この小説『十四歳』と、その中に確かに息づく主人公、トキコがいれば―。だが、彼女は俺の前に現れた。灰色の毎日の始まりになるはずだった、新学年のホームルーム。黒板の前に立った彼女こそは、俺が手にした物語の中にいたはずの「トキコ」だった。物語の中にいる「トキコ」と、目の前にいる「柊時子」のあいだで、奇妙に絡まってゆく想い。出会うはずがなかった読者と主人公の物語。その結末に、あるものは―。

以下、ネタバレありの感想です。

 

小説「十四歳」の主人公・トキコに深く共感し、その感性に魅了されている少年・細野晃
入学した高校でトキコそっくりの少女・柊時子に出会った細野は、「十四歳」が柊のことを書いた小説だと知り、彼女に強く惹かれていくことに。

過去のトラウマから人付き合いを忌避し、人の考えていることがわからない細野でも、大好きな小説の主人公である「トキコ」のことは分かる。
それなら「トキコ」のモデルである柊のことも理解できるかもしれない。

そう考えた細野は助けを求める柊の頼みを受け、細野は柊の人付き合いが円滑にいくように助け舟を出す役目を担っていくことになるのです。

 

序盤は、憧れのヒロインを前にした少年の興奮が伝わるくすぐったい心の動きと共に、細野と柊が育てていく関係の甘酸っぱさを堪能しました。
最初から好感を抱いていて感性の近い少女が目の前に現れたなら、それはもう好きにならずにはいられないですよね。
他者の気持ちを察することに苦手意識があるのなら尚のこと、すでに気持ちを理解できている少女に対する万能感もあったことでしょう。
柊の方も細野を頼りにして好意があることは伝わってくるし、風変わりだけど何の障害もないんじゃない?とか思ったりもしました。

 

しかし徐々に気がかりなっていくのは、柊との関係が近くなるにつれて細野の中で強くなっていく違和感の正体。
それが明らかになることで二人の平穏がボロボロと崩れる終盤からは、物語に夢中になって一気読みしてしまいました。

 

閉じられた世界の切り取られた一部を知っただけで全てを分かった気になるなんて、ただの傲慢でしかないのでしょう。
言われてみればそうだけど、憧れの少女に盲目的になっている細野がこれを気づくのは難しかっただろうなぁとも思います。
理解した気になっていた柊のことが分からなくなった途端に立ち止まる細野の姿には正直イラっとしたり。でも、その戸惑いが真に迫っていて同情せずにいられないのです。
まぁ正直「ええい、しっかりしろ!」と喝を入れたい気持ちの方が大きかったですけどね。

 

一方で面白いのは、その「分かった気になってる」状態を柊本人も望んでいたということ。
人付き合いが苦手な少女が、自分の一部分だけでも深く理解してくれる少年に出会う。
細野にとってロマンチックな出会いは、柊にとってもロマンチックな出会いであり、そこから生まれた関係を壊さないように大切につなげようとする気持ちはとても共感できるものでした。

彼の夢を壊さないように自分を装って、でも関係を変えたいという至極自然な望みも生まれてきて、その願いが自分自身を変えていく。

柊の変化はゆるやかでも目覚ましいもので、「十五歳」の中から見えてくるその心情はすごく素敵でした。
「十四歳」の中では外野が憧れを抱きやすい幻想的な雰囲気の少女だったのに、「十五歳」の中では初めての恋に戸惑い浮かれて努力する普通の少女として描かれているんですよね。
私はこちらのトキコの方が断然好き。
「美しく生きる」なんて綺麗なことを言わなくても、健気に恋を頑張る女の子はそれだけで美しいものです。

 

小説を介して始まった細野と柊の物語は、小説の先へと踏み出したことで崩れ、再び小説を介して繋がっていく。
けれど、二人の未来はやはり小説の先にあって、そこからずっと先まで続いていく。

そんな風に小説を中心に二人の関係の変化を描いた、とてもロマンチックで素敵な物語だったと思います。

 

強いて気がかりを言うなら、細野のトラウマは言うほどのものか?という点だけど、まぁあの年頃ならトラウマになるのかも?
KYというよりも気にしすぎ系コミュ障ってやつなのでは。

 

あと、細野と柊の恋を見守ってくれた友人二人は本当に気の良い人たちでした。
正直、彼女ができたことよりも、この友人たちの大切さに気づけたことの方が細野の宝物だと思うんですよね。
これからも4人一緒に仲良く楽しく過ごしてくれるといいな。

 

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