86 ―エイティシックス― /安里アサト


86―エイティシックス― (電撃文庫)
86―エイティシックス― (電撃文庫)

評価:★★★★★
2017年2月刊。
第23回電撃小説大賞「大賞」受賞作。
素晴らしかった・・・!
もう最高すぎて泣きながら読了しました。
先の見えない末期的な戦争、苛烈な人種差別、恐ろしく強力な敵の兵器と無様で頼りない自国の兵器。そして、死地にある少年たちに寄り添い、やがて真実を知っていく無力な少女――。
波状攻撃かってくらい絶望的な真実が次々と襲ってきて、途中で投げ出しそうになるほど辛く苦しい物語だったけれど、最後まで読んで良かったと心から思います。
帯に書いてある「ラストの一文まで文句なし」って、まさにその通りすぎて引用せざるを得ない。

☆あらすじ☆
サンマグノリア共和国。そこは日々、隣国である「帝国」の無人兵器“レギオン”による侵略を受けていた。しかしその攻撃に対して、共和国側も同型兵器の開発に成功し、辛うじて犠牲を出すことなく、その脅威を退けていたのだった。そう―表向きは。本当は誰も死んでいないわけではなかった。共和国全85区画の外。“存在しない“第86区””。そこでは「エイティシックス」の烙印を押された少年少女たちが日夜“有人の無人機”として戦い続けていた―。死地へ向かう若者たちを率いる少年・シンと、遙か後方から、特殊通信で彼らの指揮を執る“指揮管制官”となった少女・レーナ。二人の激しくも悲しい戦いと、別れの物語が始まる―!第23回電撃小説大賞“大賞”の栄冠に輝いた傑作、堂々発進!

以下、ネタバレありの感想です。

 

エイティシックスは人間ではないのだから、奴らを乗せればそれは有人機ではなく無人機だ。

 

そんな一文にヒヤッとしたのは開幕間もない28ページのこと。
その衝撃が拭えないままに、ページをめくれば次から次に衝撃が襲ってくる。
そのたびに残酷な真相に息が苦しくなって、哀しいとか以前に、圧迫感で生理的に涙がこみ上げてくる――私にとって、これはそんな作品でした。途中までは。

 

さて、物語の舞台となるのは、帝国との戦争が続く一方で、不満のはけ口として過酷な人種差別が横行するサンマグノリア共和国

「エイティシックス」と蔑称する被差別民を強制収容し、戦いの全てを彼らに押し付けて、選民思想にかぶれた白系種たちは安全圏から高みの見物。
その影では滅亡のカウントダウンが始まっているのに、誰もそれに危機意識を持っていないし気づいてもいない。

設定を聞くだけでうんざりするような憂鬱な世界観です。
また、差別が差別を呼ぶ醜悪な人間心理の描写が秀逸で、これをフィクションだと他人事のようには言えないなぁと、さらに気分がどんよりとしてくるほどでした。

 

そんな暗澹たる物語のなかで、白系種の少女軍人・レーナは、エイティシックスの中でも精鋭部隊とされるスピアヘッド戦隊、その戦隊長であるシンと巡り会うことになるのです。
ただし、互いの顔を知ることもないまま、音声だけの知覚同調を介して。

 

非人道的な差別意識が根付いた共和国のなかで、ヒロイン・レーナの感覚は割合共感しやすい「キレイ」な正義感に基づいたものだったと思います。
それがただ「おキレイ」なだけの正義感で、力を持たない口だけの偽善だと、彼女の欺瞞が暴かれるところまで含めて共感しちゃうんですけどね・・・・・・正直、自分のことを言われている気分になってゾッとしたり。差別問題に被差別者以外が当事者意識を持つことの難しさというか。あそこですでに私のライフは底をつきそうでした。

 

スピアヘッド戦隊を見守ることで祖国の罪を知っていくレーナと、彼女を馬鹿にしつつも次第に認めていくエイティシックスたち。
歩み寄れそうな雰囲気を出しつつも、差別する側とされる側の境界線を常に意識させられる、その距離感のじれったさがたまらなくなる関係でした。
彼らに対するレーナの無力感も重く、理想と現実に挟まれた感情がどこへ向かうのかとハラハラさせられっぱなし。同時に、理想を胸に燃やしたまま清濁合わせのんで成長していく彼女の姿にグッと胸が熱くなったりもしました。

 

一方のスピアヘッド戦隊については、彼らに用意された運命を知ると結末を見届ける勇気が出ず、恐る恐るページをめくっていくことに。
理不尽な境遇に落とされ人間性を踏みにじられてなお、奴らのようにはなるまいと、自分たちは人間であろうとする高潔さが本当にまぶしい。
あまりにもまぶしすぎて、終盤は(今度こそ生理的なものではなく)ただただ救いを求め祈るような気持ちで涙を止められませんでした。

 

そして迎えたラスト一文。
すごい。頻繁に使う言葉だけど「カタルシス」ってこれですよね。これ、まさにこれ。
・・・・・・そうなんだよ!絶望と喪失だけで終わっちゃだめなんだよ!
戦士に安息を与えて、残された者に未来を託すっていう締め方(あるいは余韻の残し方)は物語的には美しいかもしれないけれど、悲しすぎる。せめてフィクションくらい、救いのある結末を読みたいんです。
だから、もう本当にありがとうございます・・・・・・本当によかった・・・・・・。
あの一文がなければ、きっと私はこんなにも充実した気持ちで読み終われなかったと思います。

 

差別と戦争を軸にしたメインストーリーも面白かったけれど、そこから生まれる様々な人間ドラマも読み応えがあったし、大満足です。
特にシンとお兄ちゃんの話。戦争自体の終結ではなく、兄弟の物語をクライマックスにもってくるのは上手い構成だと思います。端的にドラマチックで感動した。
強いて言えばスピアヘッドの各隊員の話も読んでみたかったけれど、まぁそれは欲張りすぎですね。いつかどこかで、いなくなった彼らの物語も読めるといいな。

 

掛け値なしに素晴らしい作品だったと思います。
物語はこの1冊でとても綺麗に終わっているけれど、あとがきを読むと続くらしい。
どんなシリーズになっていくのかとても楽しみです。
次巻も期待しています!

 

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