よるのばけもの/住野よる


よるのばけもの
よるのばけもの【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2016年12月刊。
夜になるとバケモノに変身する少年が、ひとりぼっちの少女と夜の学校で出会うところから始まる青春小説。
いじめが存在する昼の学校と、他には誰もいない夜の学校。自分が過ごす日常を、非日常の世界から見つめ直したときに、少年は何を知って何を思うのか。
思春期の少年少女が押し込められる学校の中で、自分らしく生きていくことがどれだけ難しいのかを、思わず考え込んでしまう物語でした。

☆あらすじ☆
夜になると、僕は化け物になる。寝ていても座っていても立っていても、それは深夜に突然やってくる。ある日、化け物になった僕は、忘れ物をとりに夜の学校へと忍びこんだ。誰もいない、と思っていた夜の教室。だけどそこには、なぜかクラスメイトの矢野さつきがいて――。ベストセラー『君の膵臓をたべたい』『また、同じ夢を見ていた』に続く、住野よる待望の最新作!!

以下、ネタバレありの感想です。

 

夜になると奇怪なバケモノの姿に変わってしまう少年・安達
バケモノ姿で自由に夜の時間を過ごしていた安達は、忍び込んだ学校でクラスメイト・矢野さつきに見つかってしまい、これをきっかけに矢野のいう「夜休み」を一緒に過ごすことになるのです。

 

昼間の世界ですでにクラスメイトとして知り合っているけれど、夜という非日常的な空間で改めて出会う。
なんだかボーイ・ミーツ・ガールに近い感覚があるなぁ、と思ったりしました。安達の姿が違うからかな。

 

物語の主人公である安達には、昼の人間姿と夜のバケモノ姿というビジュアル的な二面性があるけれど、同じくらい乖離しているのはその内面。
それは昼と夜とで変わる一人称以上に、矢野に対するスタンスの違いに大きくあらわれていて、物語が進むに連れて、その乖離は彼のなかで無視できないものとなっていくのです。

 

クラスの空気を必死に読んで、そこから浮かないようにズレないように自分を押し殺して言動を制御し、皆がそうするように矢野を無視する昼の安達。
夜の世界を気の向くまま自由に行動し、矢野とも自然におしゃべりして、彼女のためになら体を張った行動に出ることもある夜の安達。

 

どちらが本当の安達で、どちらが偽物の安達なのか。それとも・・・・・・?

 

人間なんて多面的な生き物だと思うし、その場その場の雰囲気でアイデンティティなんて容易に揺らいでしまうものだよなぁ、とか自分のことを思いながら安達の二面性を眺めてしまいました。
本当の自分がどんな人間なのかなんて、分かる人とかいるのかな。
自分を客観的にみるって難しい。

 

この疑問を投げかけるなかで「バケモノ」というインパクトのある姿が実に印象的な鍵となっていたように思います。

昼間のしがらみから解放された夜の世界。
昼の人間性を捨て去った夜のばけもの。

非日常的な空間に非日常的な姿で立つことで、ようやく日常の自分の姿を見つめ直すことができる。
逆に言えば、それくらいのイレギュラーがなければ自分の行いや周囲の状況を客観的に振り返ることなんてできないのかも。

昼間の世界で見つけられなかったものを、昼間と地続きの夜の世界でようやく見つける。
そして、夜に気づいてしまったことを、いつまでも見て見ぬふりはできなくなって・・・・・・。

気づいてしまったことに対し、悩み苦しむ安達の心の揺れ動きにはすごく引き込まれました。
正解なんて分からないし、そもそもどこにもないかもしれない。むしろ正解はなくても不正解なら沢山あったりするんだよな、とか思うとなんだか笑えて、同時にとても悲しくなってくるものです。

 

そんな悩み苦しんだ彼が、最後になけなしの勇気を振り絞って踏み出したのは、とても小さな一歩。
そんな小さな一歩じゃクラスの空気は変わらない。彼の周りから人がいなくなるだけでしかないかもしれない。
それでも、その小さな勇気は心を震わすものでした。
傍観者気取りだった少年が、自分の安寧を崩すかもしれない一歩を踏み出すことにどれだけ怯えていたのかがわかるだけに、グッと読む手に力が入ってしまうのです。

正直、カタルシス的には弱い結末だと思うのだけど、それでもここまで感動することができるものなんですね。
答えにたどり着くまでの構成が秀逸すぎたなぁ。

 

安達の変化に目を奪われて読んだ作品だったものの、読み終えた今しみじみと思うのは、この窮屈な世界で自分らしい優しさを貫く矢野の強さの方かもしれません。
誰もが彼女のように生きることはできないし、彼女自身もとても生きづらそうではあるけれど、その強さには羨望を抱かずにいれません。彼女の不器用な振る舞いは愛おしさすら感じますしね・・・・・・。

 

大人になったから自由になれるとは私は思わないけれど、この残酷で小さな箱庭から彼らが無事に抜け出せるといいな。

そんな風に祈りたくなる作品でした。素晴らしかったです。

 

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