木もれ日を縫う/谷瑞恵


木もれ日を縫う
木もれ日を縫う

評価:★★★★☆
2016年11月刊。
疎遠な関係の三姉妹のもとに突然現れたのは、行方不明だったはずの母親。嫌っていた母の存在をきっかけに、少しずつ三姉妹の心に変化が生まれていく。
本当の自分とは何か、大事にすべきものは何か、価値あるものは何か。
答えに迷う三姉妹を「山姥」の母が優しく導いていく物語です。
温かくて優しくて、そして少し切ない家族の姿がそこにはありました。
母によって結び直されていく三姉妹の絆を、作中で重要な意味を持つパッチワークに例えていく語り口はとても柔らか。
その一方で、彼女たちが母に覚える違和感には理由があり、その秘密に迫っていくミステリーでもあるのです。
謎が明かされる終盤は目頭がぐっと熱くなり、自分の両親に優しくしたいと思わずにいられませんでした。

☆あらすじ☆
ファッション業界で働く小峰紬(こみね・つむぎ)の前に、行方不明だった母親の文子が姿を現した。自身を「山姥になった」と言い、面影にもどこか違和感がある母に困惑する紬。母を山奥から東京に連れてきた古書店主の柳川から話を聞きつつ、年の離れた姉の麻弥と絹代に相談する。恋愛と仕事に迷いを感じている二十代半ばの紬、女である自分に悲しみを抱えている三十代の麻弥、夫との間にすれ違いが生じ始めている四十代の絹代。それぞれに悩みをいだく三姉妹は、疎遠になっていた母親と再会し、少しずつ距離が縮まる中で、自分たちの幸せの形に気づいてゆく。そんなとき、母をある事件が襲い――。
三姉妹は母との絆を結び直せるのか。心に染みるミステリー。

以下、ネタバレありの感想です。

 

家族というものは、とても複雑で一言では表現できない関係だと思います。
近くにいるからこそ嫌なところが目につくし、他人に対するよりは簡単に剥き出しの感情をぶつけてしまう。
その存在にコンプレックスを感じることもあれば、憎しみを抑えきれずにバラバラになってしまうこともある。
その一方で、見返りを求めない無償の愛を与え、受け入れ、傷つき迷った心を救ってくれる存在でもあるのもまた「家族」なのだと思うのです。

 

本作は、すでにバラバラになって疎遠な関係となっている小峰家の母と三姉妹を中心に描かれる家族の物語。
三姉妹の末っ子・紬の元に、ある日行方不明だったはずの田舎の母が現れたことから、紬たち三姉妹は母との関係をもう一度見つめ直していくのです。

 

三姉妹それぞれが「母」に対して抱く複雑な感情を持て余していて、同時に、母を捨てて選び取ったはずの人生に「幸せ」を感じ切れていない。
そこに現れた母が彼女たちの価値観を揺るがし、何が自分にとって価値あるものなのか、何を大切にしなければならないのか、という疑問の答えへと優しく導いていくのです。
直接問いかけることなく、ゆったりとした行動のなかで娘たちを幸せに導いていく母の姿は、どこまでも優しくて懐が広く、そしてあまりにも「母」であるように感じました。

 

娘たちの母との思い出からはあまり感じられなかった母性が、「山姥となった」母からは感じられるという不思議。
母の面影に違和感を覚えるという伏線がそこに絡み、「母」の秘密へとつながっていくのですが、この真相が本当に切なくて。

 

「山姥」になった母は、家に戻るのではなく山に帰る。
母の抱く罪悪感は理解できるし、娘たちへ変わってしまう自分を見られたくないという気持ちも分からないでもない。
でも、そうやって一人になることを選んでしまう姿があまりにも切なくてやりきれない気持ちになってしまいます。

 

最後まで三姉妹に愛を注いだ母の姿に心を打たれたけれど、その三姉妹たちは親孝行を果たしたといえるのでしょうか。
幸せな人生だったと言っているし、潔い人生だとも思うけれど、家族の終わり方としてはあまりにも寂しいと私は感じてしまうのです。
私だったら自分の母がこんな選択をしたらとても悲しくて泣いてしまうと思う・・・・・・迷惑をかけるのが嫌だとしてもどうか頼ってほしい、と思ってしまいます。

 

読後感は良いけれど、なんだかとても胸が苦しくてたまらない。
せめて自分は後から悔やまないように、今、親に優しくありたい。そんな風に思える1冊でした。

 

優しくて切なくて色んな思いを抱かせてくれるところが素敵な物語でした。
パッチワークに絡めた表現のひとつひとつがとても心に響いたし、意外なところから語られる友情も印象的。
次回作はどんな物語を見せてくれるのでしょうか。とても楽しみです。

 

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