魔導の系譜/佐藤さくら


魔導の系譜 (創元推理文庫)
魔導の系譜 (創元推理文庫)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★☆
2016年7月刊。
第1回創元ファンタジイ新人賞「優秀賞」受賞作。
魔導士が差別される国を舞台に、田舎の三流魔導士とその弟子となった天才少年の出会いから始まる物語です。
魔導士や特定民族への差別が中核にあり、差別される側にスポットを当てて語られるため、全体的な雰囲気は暗め。
それでいて、国内外の緊張関係、国内における魔導士の立場、魔術を生み出す「導脈」など、作り込まれた世界観は読み応えがあってとても面白かったです。
なにより、物語を牽引するキャラクターが人間くさくて目が離せないんですよね。
不遇な運命を変えたいと野心を抱く少年と、彼に対して割り切れない様々な感情を抱いてしまう師匠。
ふたりの絆は一言では表せない幾重にも折り重なった複雑なもので、その矛盾や葛藤が奥行きのある人間ドラマを生みだしていたと思います。
シリーズ化予定らしいので、次巻もとても楽しみです。

☆あらすじ☆
魔導士が差別され、虐げられている国ラバルタ。田舎で私塾を開いている三流魔導士レオンは、魔導士の最高機関〈鉄の砦〉からひとりの少年を託される。幼くして家族をラバルタの騎士に殺され、桁違いの魔導の潜在能力がありながら、学ぶことを拒む少年ゼクス。頑なだった少年は、レオンの辛抱強い指導の下で才能を開花させていく。やがてその力を認められ〈鉄の塔〉に召還されたゼクスだったが、貴族の魔導士アスターとの出会いが彼の、そして王国の運命を大きく変えていく。第1回創元ファンタジイ新人賞優秀賞受賞の本格異世界ファンタジイ。/解説=三村美衣

以下、ネタバレありの感想です。

 

誰よりも勤勉で知識も技術もあるけれど、才能に恵まれなかった三流魔導士レオン
そんな彼が営む私塾に預けられたのは、潜在能力は高いけれど心を閉ざした少年・ゼクス
当初は魔導を学ぶことを拒絶していたゼクスだが、レオンがその原因を看破したことをきっかけに二人は師弟としての絆を育んでいくことになるのです。

 

物語は、魔導士への差別や不当な扱いと、それに対する不満が膨れあがり、やがて大きく爆発してしまうまでをとても丁寧に描いていきます。
不遇をかこつ魔導士たちの戦いを描いていく話ではあるのですが、それ以上にレオンとゼクスの師弟関係の変遷を描ききった物語だと感じました。
師弟が寄り添いあい、訣別し、それでもなお互いを思い合い、苦難と挫折を乗り越えた先で再会を果たす。このドラマにこそ本作の魅力があるのではないでしょうか。

 

レオンとゼクスの間にあるのはあまりにも人間くさくて、簡単には説明ができないほどカオスな感情。
そこに「揺るぎない師弟愛」なんて純粋で綺麗なものは存在せず、愛情も嫉妬も尊敬も失望も全てがぐちゃぐちゃに入り乱れて激しく葛藤しているのです。その人間くさくて泥臭いドラマにこそ心が惹かれました。

 

自分にはない才能があり、自分が諦めた野心を抱くことのできるゼクスに対して、師匠として誇りに思いつつも嫉妬を殺しきれないレオン。
レオンが、自分が導かないままに才能が潰れてしまえばいいのに・・・と暗い感情を吐き出すシーンがとても印象に残っています。才能のない師匠が才能のある弟子を育てることは辛いだろうなぁ。
それでも惜しみない知識をゼクスに与え導いたレオンが優れた指導者であることは間違いないのでしょう。

 

一方のゼクスも、レオンの嫉妬心に失望しつつも、離れた地でなおレオンを誇りに思い野心を燃やす動機の一つにしたわけで、こちらも複雑な感情を持て余し気味。師匠への愛憎を引きずるゼクスにニヨニヨするやらハラハラするやら・・・・・・w

 

二人の師弟関係を視覚的に表すうえで「導脈」という設定の使い方も面白いものだったと思います。
直接導脈をつなげることで互いの本質を知り、「共にろくろを回すように」それを昇華していく。
ラストの、風が吹き抜ける蒼空というイメージがすごく素敵なんですよね。ゼクスに残ったしこりをレオンが導いて解き放つかのようで、二人の関係性がすごく端的に表れている。その爽やかな余韻に幸せな気持ちで浸ることができました。

 

レオンとゼクスの関係も含め、本作はたくさんの差別と嫉妬にまみれた物語。
魔導士というだけで侮蔑され、さらには異民族ということで二重に差別されるゼクス。
どれだけ才能があっても目標には届かない現状に焦躁を覚える一方、才能ゆえに同胞からは嫉妬される。

ゼクスの境遇は極端な例ではあるけれど、魔導士たちの誰もが多かれ少なかれ差別に苦しむ人々。
そんな魔導士の現実に打ちのめされたゼクスが選んだ行動は、あまりにも多くの犠牲を出すために、正しいとも間違っているとも言い切れないものでした。
アスターの理想も、それに賛同するゼクスの選択も私には十分理解できるものだったけれど、かといって暴力的なやり方が絶対に正しいとも思えない。

でも、そもそも正しい答えなんてあるんだろうか・・・・・・。
差別に苦しむ魔導士たちが現状を変えるためにどうすれば良かったのかなんて、きっと誰にも正解なんて分からないのでは。
終盤で「自分は間違っているのではないか」と不安に苛まれるアスターの姿がどうにも頭を離れません。
どれを選んでもきっと正しさを悩んでしまうんだろうな・・・・・・。

 

ただ、個人的にはレオンやロザリンドが悩み苦しみながらも辿り着き、ゼクスに示した答えの方が優しくて好きです。
人々の役に立つことで魔導士としての自分の価値を見出そうとする。自己犠牲的でお人好しにすぎる気もするけれど、誰も傷つけないその考え方はとても受け入れやすいものでした。
それに、見返したいと見下したいは紙一重、っていうリジットの言葉も心に響きましたしね。
敵対心をもって反発するよりは、自ら歩み寄っていくほうが何倍も難しくて尊い行動なんじゃないだろうか。
どちらかが間違っているというわけではないけれど、最後に幸せに笑える道をゼクスには選んで欲しいと思いました。

 

後半から始まる内乱はあまりにも壮絶で、(残りページ数的に)どう収拾つけるのだろうと思っていたのですが、予想よりもあっけなく決着。
ただ、これは全ての問題が解決したわけじゃなく、ようやくスタート地点に立っただけなんだろうなぁ。
魔導士に対する差別感情は未だ根深く、むしろ今回の一件でさらに悪化したような気もしますが、ここからどうやって普通の人々との対等な共存を目指すのかが気になります。
仮に単巻ものだったら「投げっぱなしじゃないか!」と憤るところですが、本作はシリーズ化予定とのことなので安心して今後の展開を楽しみにしています。

 

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