『君を愛したひとりの僕へ』『僕が愛したすべての君へ』/乙野四方字


僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)
僕が愛したすべての君へ (ハヤカワ文庫 JA オ 12-1)【Amazon】【BOOK☆WALKER】

評価:★★★★★
2016年6月刊。
並行世界の存在が認められていく世界を舞台に、2つの世界でそれぞれ生きる少年の恋を描く2冊1組の物語。
同時刊行でどちらから読んでも問題ないのですが、おすすめは『君を愛したひとりの僕へ』の切なさを存分に味わったあとに『僕が愛したすべての君へ』を読むこと。「君を」で感じる様々な想いが、「僕が」のラストにおける感動をより引き立てるのです。これが本当に泣ける。
「任意に並行世界を行き来できるようになる」というSF設定から、儚い恋と誠実な愛の物語を見事に描き出した傑作だと思います。とても素晴らしかった!

☆あらすじ(「僕が愛したすべての君へ」)☆
人々が少しだけ違う並行世界間で日常的に揺れ動いていることが実証された世界――両親の離婚を経て母親と暮らす高崎暦(たかさき・こよみ)は、地元の進学校に入学した。勉強一色の雰囲気と元からの不器用さで友人をつくれない暦だが、突然クラスメイトの瀧川和音(たきがわ・かずね)に声をかけられる。彼女は85番目の世界から移動してきており、そこでの暦と和音は恋人同士だというのだが……

以下、ネタバレありの感想です。2冊まとめての感想なのでご注意を。

 

2つの物語は、両親が離婚した主人公の少年が、どちらの親を選ぶのかというところからまず分岐していきます。

 

同じようで違う2人の「暦」の物語。そこで描かれるのは全く異なる恋と愛のお話でした。

父を選んだ日高暦の物語『君を愛したひとりの僕へ』では、父の勤める研究所で出会った佐藤栞との幼く、儚く、切ない恋を。

母を選んだ高崎暦の物語『僕が愛したすべての君へ』では、高校のクラスメイト・瀧川和音の騒動から始まり、ゆっくりと育まれていくあたたかい愛を。

どちらも素敵なラブストーリーではあるけれど、『君を』の恋の結末は個人的にはあまりにも切なくてやるせない気持ちになるものでした。
それに対して『僕が』の物語は、途中でゾッとするような展開を挟みつつも、穏やかな愛情に包まれてのハッピーエンド。さらに『君を』の結末で感じたやるせなさについても救いを描いてくれたので、本当に満足できる読後感を得られました。
もっとも、『君を』の悲劇と日高暦の人生を賭けた切ない願いを知っているからこそ『僕が』の読後の幸福感が強くなるのですが。

 

どちらか1冊が欠けてもいけない、まさに2冊1組の物語なのでしょう。

 

そんな対照的な2人の「暦」の物語にあって、共通して重要な要素となる「並行世界」の描き方の違いがまた面白い。

『君を』で日高暦は失った栞を取り戻す可能性を探るために何度も並行世界へシフト。そこで彼が行き着いたのは悲劇は避けられないという「運命論」でした。
一方、『僕が』で高崎暦が直面するのは並行世界における「可能性」と「同一性」の問題。0の彼らと並行世界の人間の関係性に焦点を当てたストーリーでした。

結局、運命論を抱えた日高暦の努力は可能性を潰すという形で結実するし、高崎暦はすべての可能性があるからこそ今の幸せが存在するのだと実感することになります。
「並行世界」に対して、ふたりの暦がそれぞれの人生をかけて辿り着いた結論は、悲劇を味わった日高暦と幸せを守り抜いた高崎暦の人生の違いでもあったのでしょうか。
並行世界という事象は同じはずなのに、それに対する見方が異なっていく。これもまた可能性が生んだ分岐と結果なのかもしれません。

 

そんな風に、対照的に描かれた2つの物語。
『僕が』終盤の、「ええ、幸せですよ」という老婦人のセリフと、最後2頁の優しい独白に涙腺が決壊しました。
日高暦が運命に打ち勝ち、高崎暦が優しい願いをもって物語を締めくくる。
涙なくして読むことはできない、見事なラストシーンでした。本当に素晴らしかったです。

 

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