砕け散るところを見せてあげる/竹宮ゆゆこ


砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)
砕け散るところを見せてあげる (新潮文庫nex)

評価:★★★★☆
2016年5月刊。
ヒーローになりたかった少年とUFOを撃ち落としたい少女の、いじめから始まるボーイミーツガール。
軽快で、エネルギッシュで、甘酸っぱくて、切なくて、悲しくて、そして最後はなんだか幸せで。そんな怒濤の恋愛小説でした。
序盤から振り回してくる疾走感は、予想もつかない場所から更にスピードを上げていきます。
ラストは「あああああ!」と叫び出したくなりました。なるほど。これはやられた。

☆あらすじ☆
大学受験を間近に控えた濱田清澄は、ある日、全校集会で一年生の女子生徒がいじめに遭っているのを目撃する。割って入る清澄。だが、彼を待っていたのは、助けたはずの後輩、蔵本玻璃からの「あああああああ!」という絶叫だった。その拒絶の意味は何か。“死んだ二人”とは、誰か。やがて玻璃の素顔とともに、清澄は事件の本質を知る…。小説の新たな煌めきを示す、記念碑的傑作。

以下、ネタバレありの感想です。
ネタバレ見ない方が楽しめるタイプの作品なので未読の方はご注意を。
結末部分についてつらつらと思うところを書いてます。

 

受験を控えた高校生・濱田清澄が偶然目にした下級生のいじめ。幼稚な悪意をぶつけられる少女・蔵本玻璃を助けた清澄は、それをきっかけに彼女のことが気になり始め、やがて素の彼女と接することができるようになる。しかし玻璃にはいじめ以外にも抱えている問題があって・・・・・・という感じに物語は進んでいきます。

 

前作「知らない映画のサントラを聴く」で感じたエネルギーに満ち満ちた文章は本作でも健在。
暗い背景が見え隠れして重い雰囲気が立ちこめるなかにあっても、一文を読むごとに勢いづいて止まらなくなるスピード感が実に爽快でした。
この圧倒されるまでのパワーは本当に素晴らしい。
そのパワーに振り回される気分になりながら、この甘酸っぱくも切ないボーイ・ミーツ・ガールを思う存分堪能させられました。

 

最初の絶叫シーンでうおっ!?と身構えたものの、意外にも可愛らしい顔を見せていく玻璃。
影のある玻璃を守ってあげたいけれど、何をすれば守れるのか。そして一体何から守ればいいのか。
恋に落ちていく清澄の奮闘とその不穏さにハラハラしつつも、テンポのはじけた軽快な会話と、悪意もあれば善意もある鮮やかで生き生きとした人間模様に、気づけば夢中になって物語を楽しんでいました。
惹かれ合っていく高校生の恋を描いた物語としても本当に良かった。

そんな甘酸っぱい青春を感じる物語は、しかし清澄がUFOの正体に徐々に近づいていくにつれてさらに緊張感を増していくことになるのです。

 

最初の出会いの段階ですでにギア全開だった物語は、その後も休むことなく全力疾走で駆け抜けて、駆け抜けて、駆け抜けきった先にあまりにも予想外な結末を迎えることに。

 

1つ目のUFO撃墜からの流れは割と本気で混乱しました。
なぜクライマックス(だと思っていたシーン)を超えてから更にスピードを上げていくのか。普通そこは緩やかにスピードを落として穏やかにエンディングへ向かうものだろう!最後の最後まで振り回してくれて!

いやほんと、終盤の展開は置いてけぼりを食らわないように必死でした。というか思いっきり置いていかれたので頑張って追いかけた。
3、4回ほど読み直してみたものの、全て理解したといえるのかどうかは・・・・・・ううむ、自信がないです。

 

とりあえず「僕」に込められた引っかけにはまんまと引っかかりました。これは気づかないわ!
えっ、お父さん!?からの私のパニック具合は推して知るべし。
時間の前後はやや分かりづらかったかなぁ。台風リポートからまた冒頭のヒーローごっこの続きに戻ったのは、本当に続きなのか、それとも更なる未来の話なのか。

 

そんな感じで、色々とびっくりな仕掛けを種明かしされたラスト20ページ。

とりわけ印象的だったのは「2つ目のUFO」とその撃墜の話でした。

「2つ目のUFO」というのは、結局、あの日からずっと抱えてきた清澄の後悔のことだったのかな。

ちっぽけな自分を隠してでも、玻璃のためになろうとした「ヒーロー」に、結局なることができなかった清澄。
そして、「ヒーロー」となって世界から消えてしまった玻璃。

「あの日」の後も清澄の隣にはちゃんと「奥さん」がいて、二人は確かに幸せではあったのだろうけれど、そこに色濃く影が残っていることがたまらなく悲しい。
溶けて消えそうな「奥さん」を間近で見て、清澄の後悔は時間の経過のなかで薄れるどころか強まる一方だったのかもしれません。

だからこそのヒロイズム。
今度こそ「玻璃」の手を掴んで、UFOを撃墜して、それでようやく清澄は「玻璃のヒーロー」になれる。
「いつか攻撃を開始するかもしれないUFO」に勝つためには、あの日に玻璃を置き去りした後悔から清澄が完全に立ち直るためには、チャンスが来た瞬間に今度こそ全てを投げ打ってでも撃ち落とすしかなかったのかもしれません。

でも、だとしたら、とても悲しい。
清澄の行為そのものは尊いけれど、本物の「玻璃」を甦らせたのは直接的には「真っ赤な嵐」だということを考えると、本当に二人とも「二つ目のUFO」を別々に見ていたのだなぁと思って。
こんな悲しい「ヒーロー」よりも温かい家族を傍でつくっていくことの方が、孤独に怯えていた玻璃には必要だったのではないのでしょうか。

それとも、「本物のヒーロー」になれた清澄が溶け込んだ「真っ赤な嵐」だからこそ「玻璃」は甦ることができたのだろうか。
このへんは私の中で未だにうまく消化できていません。

 

言いようのない悲しさはあったものの、最後に清澄が見た幻想的な光景と、甦った「玻璃」の「生きなきゃ」には胸を打たれました。切ないくらい一途な愛の形。
二つ目のUFOを撃墜して、ようやく晴れ晴れとする二人の姿はとても素敵でした。

 

ああ、でもやっぱり生きていてほしかった。仲良しな夫婦として同じ時を過ごしてほしかった・・・・・・!
清澄のヒロイズムが、玻璃の誇りとなって、「真っ赤な嵐」の憧れとして受け継がれたことは救いだったけれど。

 

帯に書いてあった「最後の一文」についてはどう捉えればいいんでしょうか。
個人的には、最後まで読んでからもう一度「亡き父の話。それと母さんの話。」を読むとじわっと視界が歪んできて・・・・・・

 

スポンサーリンク
 
0

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。