純潔ブルースプリング


『純潔ブルースプリング』(十文字青著/角川書店)★★★★★

純潔ブルースプリング (角川書店単行本)[Kindle版]
純潔ブルースプリング (角川書店単行本)[Kindle版]【BOOK☆WALKER】

2009年8月刊。
第7回角川学園小説大賞受賞作。
「薔薇のマリア」「灰と幻想のグリムガル」の十文字青先生のデビュー作です。
すごく良かった。青先生の描く不器用で色々と剥き出しな青春が私は大好きなのですが、その原点に触れることができて満足。
親友というには互いを知らなくて、他人というには放っておけない。そんな微妙な距離感の6人の高校生たち。
カウントダウンを知った世界で生きる彼らの、ちょっと儚くて切なくて、それでも賑やかな恋と友情の青春群像劇です。
日常のなかに溶け込んだ絶望と、そこから生まれる様々な感傷が印象的。
痛々しいけれど爽やかに笑える読後感が最高でした。

☆あらすじ☆
とびきりポップでクレイジー!十文字青、幻の受賞作にして最高の青春小説
過去のトラウマから世の中を醒めた目で俯瞰する真南了、時代遅れのリーゼントが自慢の熱き男・番場公威、支離滅裂で破滅的な紅一点・七瀬林檎をはじめとする、淡い団結で結ばれた六人のクラスメート。刻一刻と“終わり”が迫る世の中で、不格好ながらも曇りのない正義感と友情、そして不器用な恋に生きる彼らのひと夏を綴った、とびきりポップな青春グラフィティ──。

以下、ネタバレありの感想です。

 

この物語の中心にいるのは2年F組の名もなき6人組。

前髪で左目を隠す真南了
必ずリーゼントをセットしている番場公威
真実の愛を求めて男を渡り歩く七瀬林檎
偉そうな巨漢の西園寺幾美
ほんわかとした笑顔の倉田君
クールでモテる暮林彦一郎

それぞれに順次スポットを当てながら、彼らの不器用で痛々しくてもどかしい青春が描かれていきます。

 

一見すると普通の高校生らしい6人の日常。
まぁ番場が異常に強かったり、西園寺が驚異の変貌を遂げたり、倉田君に思わぬ事情が隠されていたり、ところどころ「普通」じゃないですし、私の知る「普通」よりは大分騒がしいのですが。

それでも、これを「普通」の高校生の日常と言って間違いでもはないはず。
益体もない会話をして、くだらないことで笑って。
そんな風によく一緒にいるけれど、どこまで踏み込んで良いのか分からない微妙な距離感がある。
かと思えば、恋をすることで傷ついたり傷つけたり、茶化したり茶化されたり、じゃれ合ったり助け合ったりもして。
まさに「ブルースプルリング」な生々しくも剥き出しな感情が繊細に描かれているところが最高に好みでした。

 

でも、こんな風に普通な青春を過ごせていること自体が一番普通じゃないのかもしれないのかもなぁ。
どうしても思ってしまうんです。「そんな場合なの?」って。

 

物語の冒頭を飾り、各エピソードの隙間に強烈な存在感をもって差し込まれる「予報」。
それが意味するものは徐々に明らかになり、それが存在する世界の現実も徐々に浮き彫りになっていきます。

 

今日明日ではないけれど、数百年あるいは数十年後には滅びてしまう世界。
「予報」という形で終末が見える世界を生きるというのは、どういう気分なのでしょうか。
「終わり」を知ってしまった人が、いつも通りに生きることってできるのかな。
学校に行って、友達と喋って、帰りに喫茶店に寄って、喧嘩して、恋をして。
そんな「普通の日常」を続けることって本当に出来るのでしょうか。

どうせ何を頑張っても終わるのに? 全てなくなってしまうのに?

たぶん私みたいなネガティブな考えの人間が終末に怯えて病気を発症するのでしょう。自分がそうなる嫌な予感しかない。

 

ただ、見えている「終わり」ではあるけれど、それはまだまだ先のことでもあるわけで。
もしかしたら生きている間にタイムリミットを迎えるかもしれないし、迎えないかもしれない。
そんな宙ぶらりんの中途半端さが真南たちの日常に溶け込んでいて、その気怠げな雰囲気がこの作品の独特な味となっていたのだと思います。

 

減っていく時間を気にしても仕方ないと割り切れるくらいには冷めているけれど、ふとした瞬間に思い出してしまうくらいには心の深い部分にこびりついた終わりへの恐怖。
日常に染みこむ恐怖に目を向けたり目を背けたりする姿に、未来がないことへの虚無感を感じてしまいます。それがとても儚くて切ない。

 

林檎や暮林が誰かを求めてしまうのは、一人じゃ抱えられない恐怖を振り払うためなのでしょうか。
それとも、それは終末とかに関係なく普遍的なものなのかな。
意外と終末を知ったところで人の感情や求めるものは大きく変わらないのかも、とか少し思ったり。やっぱりその時がくるまで分からないなぁ。
この作品の彼らのように、誰かが傍にいれば終わりも怖くないのかもしれませんね。怖くないといいなぁ。

 

ラストシーンは本当に素晴らしかったです。
向かう先ですべてが終わるのだとしても、誰かと手を繋いでに真っ直ぐに走って行けるのなら、それはそれで寂しくなくて、潔くて、鮮やかな人生なのかもしれません。

 

終末がこなくてもどうせいつ終わるか分からない人生なのだし、せっかくだから真っ直ぐ前でも見ていようかな、と思える爽やかな読後感でした。

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